『  another future   』




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その日、皆本は局長とともに上層部へ“懸案事項666号”の確立変動予測値の報告をしに行った。

“ザ・チルドレン”の3人は17歳になっていた。

皆本が彼女達の指揮をとるようになって7年。

彼自身は必死になってやってきた7年であったが、悲しいかな、“懸案事項666号”の確立はほとんど変動することはなかった。

 そのことでかなり徹底的に追及された2人。

 やっとのことでバベルの局長室へ戻ると自然とため息がでた。

「やはり、結果を出さないと厳しいですね。しかし、結果を変えられていないというだけで、

これからは厳しい任務にも就かせていくなんて…。あいつら、エスパーである前にただの女の子だっていうのに。」


「仕方がないヨ、皆本クン。彼らは数字でしかチルドレンを判断することができない。

所詮彼らは遠巻きにチルドレンを見ているだけだからネ。しかし、

常に一番近くで彼女たちを見守ってきた君なら分かるだろう?例え数字には出なくとも、

彼女達の内面は飛躍的に成長した。わしは簡単にはあんな未来にはならんと、そう信じているヨ。」

「局長…ありがとうございます。そういっていただけると、救われます。」


 例え身内の贔屓であっても、そう信じてくれる存在がいることに皆本は安堵した。

“ーーー知ってる?皆本…あたしさーーー”

そこで皆本は、はっと目を覚ました。どうやら皆本は映画の途中で眠り込んでしまっていたようだ。

“またあの夢か…”

 このところ皆本は大して日を置かずに、しょっちゅう予知の夢をみるようになっていた。

予知を変えれるかという不安か、変えてやるという意気込みからか、それは分からなかった。

 ふとテレビに目をやるとちょうど映画のエンディングだった。

 若いノーマルとエスパーであろう2人が手をとり合って愛をささやいている。

2人とも衣服はぼろぼろである。戦いでもあったのだろうか。

“現実も…この映画のようにハッピーエンドだったら…”

「あ、皆本、起きてたんだ」

 皆本が起きたことに薫が気付いた。よく見ると涙ぐんでいる。

「あぁ、すっかり眠ってたみたいだ。…なんだ、薫、泣いてるじゃないか」

 大きくなったとはいえ、映画を観て泣くなんて、まだ可愛いところもあるもんだと、からかうように笑う。

「だって感動したんだもん!もうっ、皆本寝たと思ってすっかり浸って泣いちゃったよ」

 薫は泣いているところを見られて照れくさかったのか、涙を浮かべながら笑うような、困ったような顔になった。

 そしてティッシュをサイコキネシスで引き寄せようと、右手を伸ばした。

 その瞬間、皆本の脳裏に先ほどの予知のシーンがフラッシュバックした。

どこかビルの上、バックには黒煙。彼女が自分に向かって右手を掲げているーーー

“大好きだったよ、愛してる。”

 皆本の中で、一つの感情が高ぶった。今まで理性の為に押し付けていた気持ちが何だったのかを、

なぜかこの時、瞬間的に理解できたのだ。

“あの予知をよく夢で見るようになったのは、ただノーマルとエスパーの戦争を回避できるかどうかなんていう不安のためだけじゃない。

君を失うことが、不安だったんだ”



薫が伸ばした右手の手首を、皆本は優しく掴む。

「!ーーー皆本?」

 薫めがけて飛んでいたティッシュ箱は彼女の手に届く前に、床に落ちて音を立てる。


“過去に「もし」はない。キャリーは人生をもって僕にそれを教えてくれたのかもしれない…僕はもう、これ以上間違えたくない”

「薫、僕は君をずっと知ってた…」

「何言ってんの?あたしが子供の頃から一緒なんだから当たり前じゃない」

 皆本の予想外の行動にどきどきしながら薫は答えた。

「そうじゃない、大人の君を僕はーーー」

“一生後悔するくらいなら、意地や理性なんてーーー”

 薫の手をひっぱり、皆本は彼女を引き寄せた。空いてる右手を薫の腰に回し、

真剣な目で彼女を見つめる。2人は密着するように抱き合う格好になっている。

 急な展開に薫は動揺していた。

しかし、相手はこれまで保護者として、いつからか異性として慕ってきた皆本である。

嫌なわけがないので、抵抗することはない。

「あの時の答えを言うよ。」

 皆本は昔、黒巻の能力によって昏睡状態に陥った時、夢の中で大人の薫と交わした約束を思い出しながら言った。

「僕もずっと大好きだったよ、愛してる。」

 そういって皆本は薫にそっと口づけをする。


 しばしの甘美に浸った後、皆本は唇を薫から離す。

 薫はというと、いきなりの夢のような出来事に耳まで真っ赤になっていた。

 皆本の事をずっと好きだった薫は嬉しかったものの、心の準備もなしにいきなりキスをされて恥ずかしくないわけもない。

一応17歳の乙女である。当然の反応であった。

「ちょっと、皆本、どうしたの…!?」

 薫は恥ずかしさで皆本の目を見れず、俯いたまま体を引き離す。

皆本ははっと我に返った。

“僕はーーーあの未来の薫と今の薫が全く同じとは限らない。

いつどこで未来への分岐ルートがあったっておかしくはないんだ。


 今の薫が僕を慕ってくれているのは紛れもない事実だけど、異性に対してのそれとは限らない。告白の返事も聞かずに僕はーーー”




「もー!なんでそんなに理屈っぽいかなー皆本は!」


「だって紫穂や葵も僕を慕ってはくれてるが…。

葵なんかは異性としてはやっぱり同い年くらいの子を好きになって付き合ってるじゃないか」


「あのね、あたしは皆本と一緒にいるときだけドキドキするの!誰であろうと傍にいるだけで好きになるはずないじゃん!


そりゃあ高校の子に告白されたりしたこともあるけど、さっき皆本に“愛してる”って言われたときのほうが100倍も心臓がバクバクしたんだよ?

それだけじゃ駄目?」


「いや、嬉しいよ…ありがとう。駄目だな、僕は。不安だとすぐ自分を否定しようとする。悪い癖だ。」

 薫のあまりにもストレートな台詞に皆本は自嘲的に笑った。

そして幸福感が皆本を満たしていった。

“そうか、薫も僕のことを…”

 そう思うとかっと顔が赤くなる。


「あたしも大好きだよ。愛してる。」

 ベッドに手をつき、皆本の方に身を乗り出す薫。

今度は彼女の方から皆本にキスをする。

長く長く甘いーーー

 その夜“懸案事項666号”の確立変動予測値は大きく一方に傾くのであったが、まだこの時皆本はただただ甘い一時に身を委ねるのであった。





エピローグ

 長く長く甘い口づけが終わると、薫は唇を皆本の首筋へと移していく。

そして空いた手では彼のカッターシャツのボタンを外し始めーー

「ちょ、ちょっと薫ッ!?何してるんだ !? 」

 つか、さっきまでの恥じらいっぷりは何処へ??!」

「いやー不意打ちには弱いけど、もう心の準備はできたから!

 あたしに任せてくれれば大丈夫。ほら、力抜いて?」

「逆だろ普通!つか逆とかそれどころの問題じゃないだろ!」

 皆本は壁際までに後退し、乱れた姿で必死に抵抗する。

 しかし抵抗虚しく、その夜都内に叫び声が響き、皆本はちゃっかり薫に食われたのであった。

                                                      終わり。






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