『ある愛の形』
遠くまで透き通るような空の下で、乾いた銃声が響いた後、薫の身体は重力に引かれるまま崩れ落ちた。
もう動く事無く、赤く染まった地面に崩れた薫の元に皆本は呆然と歩む。
先程まで、目の前が見えないほど溢れていたその両方の眼からは、涙が出る事は無い。
悲しみ以上の感情に苛まれた中では、もう涙すら流れないのだ。
命が宿っていない骸となった薫を彼は、膝まつきながら、その両腕の中に抱きしめる。
まだ暖かい。
ほんの少し前まで、彼女は確かにこの世界で生きていたのだから。
それを止めたのは、皆本自身。
最愛の者の命を奪ってしまったのだが、最早、薫を止めるにはこうするしかなかった。
世界の破壊を、そして彼女自身の精神を破壊してしまう前に、自身の愛で止めてあげるしかないのだと。
それを薫も望んでいた。
言葉を交わすことも無く、共に顔を見つめるだけで互いの考えが理解しあえていた。
そうすることが、二人の愛の交歓でもあったのだ。
不器用すぎる二人が、ようやく交わすことの出来た、本当の互いの思いを。
「薫…… もういいんだ。何も君を追い込む事はもう無いんだから」
いとおしそうに、皆本は事切れた薫を抱きしめながら語りかける。
その死に顔は、満足したように笑んでいるようにも見えて仕方が無い。
(これでよかったんだよ、皆本。ありがとうね…… )
と、語りかけているように。
「どんな結末であったとしても、僕は君に逢えた事に、感謝しているよ」
皆本もまた薫に会えた事を感謝するように笑む。
薫という存在がいたからこそ、自分今までがどれだけ救われ幸福だったかを知っている。
だが唯一心残りは、もう彼女の笑顔が見られないことだ。
しかし、彼の心の中では、幼き頃から、愛しき存在になるまでの彼女の笑顔が多く刻まれている。
それは一生、消えることの無い愛なのだと。
「さあ、行こうか薫…… もう、誰も僕等に干渉しない場所へ」
やっと二人だけの時間を取り戻せたことを喜びながら、皆本は薫を腕に抱きしめながら、
全てが終わろうとしている終焉と言われた場所から去った。
この世界など、もうどうなろうとも関係は無い。
ただ、薫とだけの世界を求める為に、何処かに旅立とうとしていた。
一応終。
2010.10.19 一部加筆修正。
日記で書いた殴り書きな短いSSです。
悲劇フラグな顛末です。
時折、このような不幸展開を書きたくなる病が出るらしです。
たまには、幸福フラグなSSを更新出来るように、精進します。
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