『あたたかいひと。』
※アニメ1〜2話ネタバレですので、未見の方はご注意!!
「なあ…… 身体、大丈夫か ? 」
薫は、バベル本部の中の通路で鉢合わせした皆本にいきなり話しかける。
「あ、あぁ…… これくらい大丈夫だ」
薫が皆本の事を気遣い様子を伺ったのは、今彼が全身のいたるところに痛々しく
白い包帯を巻かれているのだから。
その元凶を作り上げたのは、薫自身。
昼間、脳内の微細な傷により念動力が暴走し自身で抑制出来なくなった挙句、
自分自身に向けて念動力を発動させてしまった薫を庇うために、
彼自身がレベル7全開の力をその身に受けてしまったのだ。
いくら成人男子であろうとも、そんな力を受けたらひとたまりも無い。
幸いにも僅かな時間だったこともあり、身体に重大な怪我を負わす事は無かったのだが、
それでも傷付けた事は事実。
普段なら、癇癪を起こして軽い打撲程度の怪我を周囲の大人に負わせる事はあったとしても、
手加減が全く出来ない状況で怪我を負わせた事は薫にとって何よりも
自分に襲い掛かる念動力よりも酷く痛かった。
普段すぐに紫穂と葵以外の誰に対しても反抗的であるのだが、
本心から相手を傷付けるつもりなどない。
まして、自分を庇っている皆本にまで生命の危険まで陥れそうになった自分の能力を恨んでいた。
薫のどこか落ち込んでいる様子を見て、皆本は彼女の間近にしゃがみこむ。
「心配かけてすまなかったね…… でも、僕よりも薫の方は大丈夫なのか ?
賢木の再検査では一応安静にしていれば、
昼間のような暴走は起こらないだろうと言っていたんだが…… 」
自分の身体より、薫の心配をする気遣う皆本の優しさに薫の胸は、
どこか痛みと同時に暖かさを感じる。
「あ、あたしはこんなの平気だよ ! 」
何故だか、恥ずかしさが表情に表れ薫の顔は赤く染め上がる。
人に優しくされる事に慣れていないのだ。
勝気で強がりの薫なのだが、本当はそうではない。
実際は、内気で恥ずかしいがり屋の部分を持っている。
しかし、決してそれを表にする自分と紫穂と葵を守る事が出来ない事をも知っているのか、
常に間逆の態度を取ってしまうのは一種の自己防衛手段だったのかもしれない。
自分は常に、強くなくてはいけない…… その力をあたしは持っているのだと。
力こそが、自分達を守る絶対的な手段だったのだ。
だが、そんな強気も今の皆本の前では、簡単に崩れてしまうのだが。
何故だか、いつもの自分を保つ事の出来ない歯痒さに薫は、戸惑っていた。
「…… そうか…… でも、でもしばらく無理はしないでくれ」
反抗的ではあるのだが、どこかそれが照れ隠しの態度だと理解している皆本は、
安心したようにほほ笑む。
今回の事で、一番自分の能力の暴走の怖さと痛みを受けたのは薫なのだと分かっているのだから、
これ以上何も彼女を責めることはしない。
自分でそれを知り受け止めさせて理解してあげることが、大切なのだ。
それが彼女達に、高レベル能力を持ちながらも自分の能力を嫌わずに受け入れさせ
無事に大人に成長させる為に必要なのだから。
「分かっているって言っているだろ !! うるさいよ、お前 !!
なんで、そんなにあたしに構うんだよ !!」
お節介すぎる皆本の態度に、些か薫は苛立ちを覚える。
どうしてここまで、自分の事に気をかけてくるのかと。
今までの主任達は、自分達の能力に畏怖しながら利用する考えしか持ち合わせていなかったから尚更だ。
「なんでかな…… 僕にも分からない。けれども、どんな事をしてもあの時、守りたかったんだ。
僕が守らなくちゃ…… ってね。前も言ったけど、まだ君は子供だ……
どんなに強大な力を持っていても自分を守れない時もあるんだ。
そういう時にこそ僕ら大人が君らを守らなければいけない。
あんな所で、君を死なせたくはなかった…… 君を失って、傷付く人が沢山いるんだから」
どこか物悲しそうな顔で、皆本は薫を見つめる。
それを見て、薫の胸が痛みを覚えながら、意識を失っていた最中の事を朧気に思い出す。
----------- 強大すぎる自分の能力のせいで、
同じ年の子供達と遊ぶ事も出来ない謝絶された幼児の自分。
そして、自分の事よりも周囲に対しての心配ばかりしている母親の姿。
薫自身の苦しさと痛みを受け止めて、それを共に受け止めあい拭い取ってもくれなかった
孤独の辛さだけが残る記憶--------- 。
全ては、自分の持つこの忌まわしい能力故に------------ 。
この力によって自分を庇おうとする皆本を危険な目にこれ以上合わせたくなかった薫は、
自分自身の手で自らの心臓を止めることを選んだ。
これ以上、自分の能力で苦しむ人を作りたくは無かった。
ここで生き返る事が出来なくても、それでも良かったのかもしれない。
これ以上…… 自身が辛く苦しみたくはなかったのが本心だった。
生きていれば、この先も尚、更に自分の能力で苦しむ事になるのだかと。
例え、周囲が悲しむ結果であろうとも。
心臓の鼓動が停止していた間の事は当然、殆ど何も覚えていない。
けれども、微かに覚えていることがある。
誰かが、自分を優しく呼ぶ声が---------
孤独の闇に閉じこもっていた薫へと差し出される光が聞こえたのだ。
それは、誰よりも優しく暖かい声…… 全てを終わらせたかった薫の心に深く響いたのだ。
そこには、自分を本当に理解して受け入れてくれる場所があるのかもしれないと。
だからこそ、薫は自分で自分に幕を降ろすのを止め、光に向って手を差し伸べた。
再び、現実に意識を取り戻した薫の目には、今にでも泣き出しそうな皆本の姿。
(こいつ…… こんなにもあたしの事を心配してくれたんだ…… )
こんなにも自分の事を必死に心配してくれる存在は初めてだったかもしれない。
まだ出逢って間もなく、しかも化け物じみた能力の自分に全く恐れもしないで
普通の子供のように心配してくれる姿に薫は深く胸を打たれたのだ。
(こいつは、今までの普通人の大人達とはどこか違う気がする…… )
淡く、薫の中で彼に対する信頼が生まれ始めた瞬間。
泣き出しそうな皆本に攣られて、自身も思わず泣き出しそうになるのを必死に
苦笑いに変えてそれを保つのに必死な程だった程に。
「悪かったよ…… 命令聞かなくてさ」
ぶっきらぼうに薫は突然、皆本に謝罪の言葉を告げる。
自分でも分からないのだが、どうしても今謝りたかったのだ。
「自分で悪かったと思ってくれれば、それでいいんだ」
小生意気で可愛気もない薫が急にしおらしく謝ってくる姿に正直、
皆本は年相応の可愛らしさを感じつつ、薫の頭を優しく撫でる。
こんな姿こそが、周囲の子供と何ら代わることの無い普通の彼女の姿なのだと。
もっと、子供らしさを全面に晒してあげたいとも思えるほどに。
それが、『ザ・チルドレン』の主任になった彼の責務であり、彼自身の願いでもあった。
今まで、殆ど頭を撫でられる事もなかった薫にとって、その行為は驚き以外の何物でもない。
誰も自分たちを叱る存在も皆無で、まして好意的に自分達に触れる存在など今までいなかったのだから。
薫の感じている皆本が触れた感触は、今までの誰とも違うのものだと悟る。
自分を慈しみ、大切に思ってくれるものだと。
(初めて皆本と出会った時、頬の傷をハンカチで拭ってくれた時もそうだった。
触られた所が凄く暖かい…… なんでだろ…… 嫌な気分にもならないし、落ち着くんだ。
…… もっと、こいつの側にいたい気がする…… )
自分でも今は理解出来ない皆本へ抱き始めた感情に薫は戸惑いつつも、
皆本から与えてくれる暖かさに身を素直に委ねる。
それを目にして、皆本は本当に嬉しさに顔を緩ませながらも、薫を撫で続けるのだった。
一歩ずつ、薫達との信頼を作り上げていけられるのだと確信しながら。
終。
2008.04.21
アニメネタでのSSです。
2話は、まあ色々突っ込みたいところはありましたが、比較的原作に忠実で
なおかつ、皆薫好きにはたまらん展開だったということで、しっかり萌えてみまして、
こんな話を。
原作とは違う視点で、皆本に興味を覚え始めた薫ということで。
皆本も、子供らしさを見せた薫に可愛さを覚えるという程度の感じの二人にしてみました。
アニメでは、2話の触れ合いの展開の他に、しっかりとした絆の流れを作ってくれることを
今から願ってます(苦笑)
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