『だぶだぶワイシャツとあたし』
※アニメ9話ネタ注意。
「うわっ! 」
悲鳴に近い叫び声を薫は上げる。
「どうしたんや、薫 ? わっ、なんやそれ ! 」
「あらら、やっちゃったわね、薫ちゃん」
薫の悲鳴を耳にして、その場に葵と紫穂が瞬間移動で現れ、薫の身に起きた状況を目にして呟いた。
「うっ…… ドジった」
自分のパジャマを見つめながら、薫は愕然としてうな垂れる。
お気に入りの緑のパジャマの胸元から、足元に向け白く濡れた形跡、
そして空には飲みかけらしい牛乳パックが開口部を下に向け浮かび、
残った僅かな滴りを床に落としている。
ごらんの現状を見れば、何が起きたのか一目瞭然。
お風呂上り、いつもの習慣とばかりに念動力で冷蔵庫の中の牛乳を取り出して、
これまた自分の手を使わずに飲み干そうとしたのだが、ちょっとした不注意で口ではなく、
胸元に零してしまったのである。
「零してしまったのは仕方ないわね、早く着替えたほうがいいわよ」
「そやな、早く水で流さないと変なシミできるかもしれんかもな」
「…… うん。でもさ…… あたしパジャマってこれしか今持って来ていないんだよ。
今夜替えがないからどうしょう…… 紫穂か葵、貸してくれる
? 」
着替えがないことに困惑しながら、薫は二人に着替えのパジャマをしてくれないかと尋ねた。
「持ってきていなかったの薫ちゃん ? 実は私も、今週はこれしか持って来ていないのよ」
「スマン、薫 ! うちもや。一枚だけでも、いつも洗濯しているから構わんと思っていたから」
申し訳なさそうに、二人にそう答えられて、薫は途方に暮れた。
「普段着で寝るのも嫌だし、キャミのままで寝るには、まだ寒いし…… 」
どうしたらいいのかと、薫はしばし考えた挙句、妙案が浮かぶ。
「そうだ ! 」
薫はベランダに視線を向けると、念動力で窓を開け、
ベランダに干してあった洗濯物を一つ手元まで運んでくる。
「へへへ、こんだけぶかぶかなら風邪も引かないだろうし、寝やすそうだな」
手にした物をどこか楽しそうに眺めながら、手早く薫は着ていたパジャマを脱ぎ捨てると、
それを上から羽織る。
「ちょっと、それ皆本はんのワイシャツやないの ! 勝手に着てよくないやろ !? 」
予想外の薫の行動に、葵は少し嫉妬を覚えて目を丸くしながら制止しょうとするのだが。
成人男子の中でも高身長である皆本と、僅か10歳の薫の体型を比べたら、
ぶかぶかなのも当然で袖など、長くて指先など奥深くに入り込んで待っているほどだ。
「本当に寝やすそうね、薫ちゃんが着たければいいんじゃないかしら。
たかだかシャツ一枚の事なんだから、皆本さんも怒ったりしないわよ」
以外にも紫穂は薫の肩を持つ。
基本的に、その程度で何も自分達と皆本の関係がどうこうするものではないのだと、
理解していることもあるのだが。
「いい感じだろ ? シャツの下は下着だけっていうのも、中々男としてはツボなんだぜ。
これで、皆本誘惑したらどんな感じかなぁ ? 」
薫の脳内で、少し妄想が広がる。
************
薄暗い皆本の部屋、彼の寝転がっているベッドに薫が入り込んでくる。
「薫、また僕のシャツを着て ! 」
「着ちゃ駄目なの ? 皆本のだから、着たかっただけなのに…… 」
少し拗ねた顔で薫は、上目づかいで下から皆本を見つめながらも勿論、何かと胸元や太ももの露出させた女っぽい仕草は忘れない。
「いけない子だ。罰として、その服を脱がせてもらうよ」
皆本は薫を少し強引に、ベッドに押し倒してシャツのボタンに手をかけようとする。
「み、皆本 ?! 離して ! 」
思いがけない展開に、薫の胸が激しく波打ちながら、彼から逃げようとする姿を皆本は熱い視線で見つめている。
「駄目だよ、逃がさない」
甘い囁くような皆本の言葉に、薫はキュンと胸を射抜かれて、いとも簡単に篭絡されてしまう。
「だ、だったら、せめて明かりだけは消して…… お願いだから」
「あぁ」
恥じらいながら、薫は皆本にそう懇願し、二つの影が重なるのだった。
何やら、背景音に『WAAAAO〜』な、お色気メロディが流れていたりもする。
************
「ぐへへへへ」
妄想している状態の薫の表情は、途方もなくオッサン顔になりヨダレさえ零れそうになっている。
「そんな事あるわけないでしょ、しかも何、その乙女過ぎる薫ちゃん恥じらいなんて、ありえない」
さりげなくその思考を覗き見して葵に内容を話していた紫穂は、さすがにムッとした面持ちで、突っ込んだ。
「いーじゃんか、妄想なんだからさ」
思考を読まれたことよりも、乙女な自分を否定された事に薫は腹を立てている。
「妄想でも皆本さんを独占するのは許さないわよ ? だいたい、
現実的に皆本さんが今現在の私達に欲情してなんかくれないわ」
「確かに、いまのうちらにそんな懸想したら、どう考えても皆本はんが、
ロリコンって、周囲から呼ばれてしまうかもしれん」
冷静に二人は自分達と皆本の関係の現状を面白く無さそうに語る。
常に手のかかる子供としてしか見ていないことぐらい分るのだ。
「分っているよ、そんな事。今のあたしたちには何の魅力も女らしさも感じていないことくらいさ……
あいつだって、あたしらよりも大人の女の方がいいとは思うよ。あたしだって、
紫穂や葵の無い乳よりは、ねーちゃんや、かーちゃんの巨乳見たほうが、そそられるもんな」
「…… 乳の話、全然関係ないやんか」
思わず葵が、乳話で眉間に皺を寄せながら突っ込みを入れてしまう。
どうにも、胸の話になると、過剰に葵は反応してしまうらしい。
「年の差でいつも子供扱いされるのは癪だよ。あたしはもう小さな子供じゃないんだ。
だから皆本を同じ視線でいつも見ているんだけど、でも皆本は『まだ子供なんだから』って扱われて、
決して同じ視線で見てはくれない。あたし達はいつも同等の立場でいたいことに気がついてくれないんだから。
あいつだって、ほんの数年前は同じ子供だったくせに…… 生意気だよ。」
常に子ども扱いされてきた薫は、本人がいないところで普段の鬱憤を腹立だしく口にするのだが、
それには紫穂や葵も同感だった。
決して、皆本は同等の立場で自分達を見ていない悔しさが滲み出す。
大人と子供という壁が、彼女達の前に大きく立ちふさがっているのが、歯がゆい。
どんなに強大な超能力を持っていたとしても、決して飛び越えることが出来ないのだから。
乗り越えるには、時間という代価だけが必要である。
他にそれを代用する代物は、この世には存在していない。
「大人になるのっていつなのかしらね」
紫穂は、そう誰も答えが見つからない問題を虚空に向けて呟いた。
「そんなの分からへんわ。気がついたら、なっとるもんやろ」
「たとえば、皆本が『ちち・しり・ふとももー』とあたしに叫んで飛び込んでくるくらいに、
ナイスバデーになった時とかさ」
「薫。どこぞの●島か、それ」
薫の発言に葵は『不潔や ! 』とばかりに、怪訝な視線を向けた。
少し切ない面持ちで、薫はふとこう漏らす。
「あたしは、早く皆本に同じ大人として認めて欲しい…… 子供扱いされない位にさ」
「そうね」
「そうやな」
早く大人になりたい強い願望を三人は、切に望んでいた。
今なお、子供だからとどこか束縛されている日々から抜け出したかったのもしれない。
「とりあえず、もう寝ましょ。明日も学校なんだし」
「寝よ寝よ。夜更かしは美容の敵やで」
「結局、皆本の奴帰って来なかったな。仕方ない寝るか」
既に時計は夜11時を過ぎていることもあり三人は就寝することにするのだが、
部屋の持ち主の皆本は何やらトラブルで帰宅が遅くなると夕方連絡が入っていたのだ。
「おやすみなさい」
「おやすみやで」
「おやすみ」
同じベッドに三人は滑り込むと、紫穂と葵は早々に寝息を上げて眠りにつく。
一人まだ起きていた薫は、少し寝付けが悪いようだ。
(皆本のシャツ…… 洗っているけど、ほんのりアイツの匂いがする……
それに暖かくて安心出来るのはなんでだろうな。なんか、皆本に抱きしめられている感じがする……
このシャツがぶかぶかにならないくらいに大人になったら、本物の皆本が抱きしめてくれるといいな…… )
シャツから伝わる温もりを感じながら、薫もまたささやかな願いを抱いて、自然と安らいだ眠りにつくのだった。
そして、その数時間後、皆本に襲い掛かる喜劇があることは、今は誰も知る由もなかったりもする。
終。
2008.06.03
アニメ9話の例の場面で、薫が皆本のワイシャツらしいのを着ている理由ネタで書いてみました。
あれだけ、だぶついていれば、皆本のだろうと(爆)
普段パジャマなのに、何故今日だけ?な事情を汲んで。
まあ、書きたかったシチュは、皆本の匂いがして安堵する薫を書きたかっただけですw
薫達が、皆本と同じ視線でいたいことも書きたかったんですが。
子供って、基本自分が子供とは思っていなくて、大人と同等の視線でいたい背伸び面もありましすし。
その反面、甘えてダダをこねて構ってもらいたい面もあるとは思うんで。
特に、チルドレンは周辺の子供達よりは、大人びている分、大人と認めてもらいたい、皆本と同じ場所にいたいと
常にいるから。
アニメ版では、まだ序章が少し過ぎた頃なので、まだまだチルドレンはお子様ですしな。
普段原作ベースで書いている分、チルドレンの精神年齢を下げなくてはいけないので、その辺大変(苦笑)
後、薫の妄想は…自分の皆薫充電ってことで。
でも、この場合、皆×子供薫になる!(汗)
基本、ロリは書かないようにしているんですけど。
ブラウザの×でお戻りください。