『ハロウィンのいたずら』
「Trick or Treat ? 」
黒く、小悪魔のような背中に羽をなびかせた露出の多い衣装で薫は、皆本の前に両手を差し出した。
「…… 今あげたはずなんだがな…… 」
皆本は思わず戸惑っている。
今日がハロウィンであり、壁続きの隣の女子部屋で生活している薫、葵、紫穂がハロウィンの魔女達の衣装でお菓子をねだりに来ている。
紫穂や葵は、当初皆本にねだった後、バレットやティムの方に向かいねだりながら、彼らを魅惑して楽しんでいるのだが、薫は未だに皆本の前にいる。
「はい、薫」
皆本は今日がハロウィンだという事で、彼女達が確実に何か仕掛けてくるのを察していたらしく、
得意のお菓子作りでクッキーなどを作り、既に目の前の薫や紫穂や葵にも手渡したのだが、
もう一度クッキーが包まれた子袋を渡しても、まだ薫は離れようとしなかった。
何か物足りないという面持ちを浮かべながら。
「…ありがと…… でも、これだけ ? 」
「これだけって…… お菓子をあげればいたずらは出来ないというのが、ハロウィンのお約束だろ ? 」
「それはわかってる…… でも…… 」
「でも、何だ ? 」
もじもじと何か言いたげな薫の様子を察している皆本は、それを問うが彼女はそれを口にすることはなかった。
(あたしは、皆本にいたずらされたいな…… )
世間一般の女子高生が夢見る妄想よりも遥かに、上を行った薫のエロすぎる願望など、
照れ屋である薫には間違っても言えない事でもある。
そして、皆本自身もそんな事など気付きもしない鈍感さばかりが広がる二人であるのだから、
チャンスはあれども何も起きる事は無いのだ。
薫は皆本の鈍感さを痛感しているので、脈は無いだろうと最初から諦めてはいるのだが。
「…… なんでもない…… ねぇ、皆本。あたしの衣装どう思う ? 」
薫自身では、昨年よりも可愛さと、大胆さと露出を意識し衣装をセレクトし、
紫穂と葵にも太鼓判をもらっているのだが、実際、皆本の前では似合っているのか自身ははっきり無い。
女子同士に似合っていると言われるよりも、意中の相手に褒めてもらいたいのは、乙女心なのは当然である。
「可愛い……よ。でも、去年よりも大胆じゃないか ? 」
「普通だよ、今はこれぐらい皆着ているし」
念動力で薫は皆本の視線よりも上に浮かびながら彼の前に浮かぶのだが、彼はやりどころに困りそうになっていた。
目の前にはもう大人と変わらない程に成長し、たわわとした胸元の谷間が広がるのだから。
高校二年となっている今では、露出が多い格好をして彼の前に現われる機会がある際は、確実に戸惑うのだ。
彼女を女性として意識してしまいそうになっていることに。
皆本自身は、あくまで保護者的立場でいるつもりなのだが、本能では女性として薫に対し目を向け始めているのを自身でも気が付いている。
「素直にあたしの色気に参りそうだと言えばいいのに」
「何を言うんだ、薫 ! 僕はそんなつもりは…… 」
からかうように薫は皆本を茶化すのだが、それを皆本は本気にしそうになっている。
薫に対する感情がこれ以上、おかしな方向に向かないように抑えるのが困難になりそうなのだから。
数年前まで彼の側で、未来から時空移動をして現われたフェザーの存在と、
伊号から教えられた未来の薫の姿とその結末を知ってから、未来の彼女に惹かれ続けて自分のものにしたい願望を常に抱いていた。
しかし、あの彼女はこの先未来が変わるだろう世界には存在しなくなるはずなのだが、
だけどもその面影と出会いたいという願望は強く彼の中に未だに残る。
そして、その面影が刻々と成長していく薫と重なり酷似していくのだ。
だからこそなおさら、彼女に意識を抱いてしまうのだ。
目の前にいる薫に恋愛感情を抱いてはいないはずなのにと彼は思っているのだが。
「君はもう十分、魅力的だよ。でも、ほどほどにしないと君自身によからぬ虫が近寄ってくるかもしれないから気をつけろよ」
「何、それ、やきもちなわけ ? 」
以外な皆本の言葉に薫は思わず驚きながらも、胸には込み上げる嬉しさがあった。
自分に誰か近寄りそうな事を嫌がる顔をしてくれるというのは、少しは自分に女性として興味を抱いてくれている事にだった。
「そんなつもりで言ったわけじゃない…… 僕は君らの主任であり親御さんから預かっているんだから」
自分の本音を見透かされた皆本は、顔を赤面させながら言い訳するのだが、
薫には単なる照れ隠しだと分かってしまい、思わず可笑しくて笑い出してしまう。
「どんな気持ちでも、あたしたちの事を思ってくれるだけで嬉しいよ。
でも、いつまでもあたしは子供じゃないからね。皆本の認める大人まで側にいるとは限らないよ ? 」
くすりと薫はいたずらめいた表情をしながら、軽く皆本の頬にキスを与えて、紫穂達の元に飛んでいく。
ほんのり薫の頬も赤らませている事を皆本は、彼女を視線で追いながら気が付いていた。
薫自身も自分で大胆さを抱いてしまった事が気恥ずかしく、側を離れたんだろう。
「あいつ…… 色々な意味で成長しすぎだ…… いつの間に…… 本当に」
薫の触れた頬に手をやり愛おしそうに触れながら、至福の笑顔で皆本は一人笑んだ。
(お菓子をあげたのに、結局…… 僕が薫にいたずらされてしまった…… けど、悪くは無い…… )
薫の姿を見つめながら、他愛も無い、こんな日が毎年迎える事が出来るのを皆本は願うのであった。
終
2011・10.30
久々に皆薫ssを書いてみました。
どれだけ久しぶり?(汗)
今回はハロウィン合わせで、17歳薫です。
この時期の薫ならは、大胆さも積極さもあると思います。
中学生の薫はほんまに書きにくいので、高校生が楽です(爆)
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