『初恋のあなたに』
Scene.1
子供の頃、何を疑うこともしなかった時代。
皆本をただ信じて、紫穂や葵と、みんなで笑っていたあの日々。
それは永遠かと思われるほどで、けれど結局は夢のように、いつかは終わってしまうものだったね。
あの幸福な時代、まだあたしは皆本の大きな背中に乗って空を見上げてた。
今でもあたしの中であの宝物のような日々は、きれいなまま輝いているよ。
Scene.2
いつからかあたしの中で、同胞に対する想いが強まっていってからは、
皆本が昔言ってた「好きでも終わることもある」という台詞が痛いほど理解できた。
皆本の傍にいれば正しい子でいられた。
けど、世の中正しいだけじゃ、皆本の傍にいたんじゃ、解決できないこともあるって分かっちゃったんだ。
あなたの傍に居て何もできなくなるのが、怖かった。
こんなに強い力を持っているあたしが、ただ皆本に守られて夢を見ているだけなんて、できなかった。
あたしはそれまで歩んできた道の途中で立ち止まった。
そして小学生の頃から伸ばし続けた髪を切った。
皆本との幸せな時間をこの先一生失うことも、覚悟した。
Scene.3
離反してから、何度皆本なんかを好きにならなければ良かったと後悔をしただろう。
パンドラに寝返ってから、いつも何かをするに当たって躊躇するのは皆本の顔が浮かぶからだった。
アイツの泣きそうな顔、それが脳裏に浮かぶだけで全てがためらわれた。
けど。
好きにならなければ良かったなんて、何で思えたんだろう。
荒廃したビルの上、皆本があたしを追いかけてきた。
何度も危険な目にも逢ったんだろうな。いっぱい怪我してた。
信頼してくれていた人々を裏切り、多くの人を傷つけたあたしを、こんなになってまで追いかけて来てくれる人、
そんな人、
この世でたった1人しかいない。
嫌いになるなんて、憎むなんて、とてもできやしなかった。
こんなにも時が流れて、後戻りなんて到底できなくなってから、ようやく気付いたの。
実はあたし、ずっと知ってたんだよ、予知のこと。
だからずっと願ってたの。
もう後戻りできないのなら、いっそ愛してくれた人の手で…。
“大好きだったよ、愛してる”
そして皆本の熱線銃から放たれた光が、あたしの胸を貫く。
皆本が駆け寄ってきて、倒れたあたしの顔を泣きながら覗き込む。
“僕も、薫のことを愛していたのに…。なのに結局僕は何も変えることが…すまない”
そうして子供の頃のようにあたしの頭を優しく撫でてくれた。
いいんだよ、皆本。謝ることなんてない。
こうやって撃たれるっていう予知も知ってて、それでいてあたしが望んだことなんだから。
頭を撫でてくれた皆本の手は何ら変わらず、やっぱり安心できて、あたしは長い眠りについた。
Scene.4
あたしが死ぬ間際に見た皆本は泣いてたね。
駄目だよ、泣いてちゃ。
子供の頃、あたしや紫穂や葵の、不安を消し去ってくれたようなあの優しい笑顔でさ、笑っていてよ。
ねえ
今日の皆本は笑ってる?
図々しいけど、たまにはあたしの事もちょっとでいいから思い出して。
永遠に続きそうな夢も、もう終わってしまったけど、
想い出としてぐらい、あたしのことを留めておいてよ。
END
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