いつか出会える君に。
「…… これは ? 」
ある日、ふと薫は皆本の部屋に入り込み、
偶然にも本棚の隙間に隠されていた一枚の写真を見つけてしまう。
そこには、皆本と同年代の女性の写真であり薫と同じ、髪型と色をしている。
妙に胸騒ぎがした薫が、速攻取った行動といえば---------
「皆本ー、これ誰だよ !! 」
その写真を持って、薫は皆本に詰め寄った。
「えっ ! あっ、それは !! 」
顔を青ざめさせ、慌てて写真を取り返えそうとするが、薫は素早く彼から逃れる。
「返せ、薫 !! 」
「やだ。この写真の女、誰なのか教えてくれれば返してやってもいいよ」
念動能力で、彼にも手の届かない天井近くに浮かせながら、執拗に薫は突っかかる。
「---------- それは…… 」
彼は非常に、困惑していた。
どう説明しようと無いのである。
それが、10年後の薫の姿なんだとは、口が裂けても言えない。
…… そもそも、何故そんな写真が、こんな所にあるかというと、
以前、兵部の罠に引っ掛かり、未来の予知を元に作られた夢の中に閉じ込められ、
兵部が薫を怒らせた侘びにと、彼にもらったESPで作られた10年後の薫の写真であった。
と言っても、その事件の事後処理の際に、ひそかにそれを複製して彼は手元に隠し持っていたのだった。
「なー、教えろよ」
写真の存在が気になって仕方のない薫は、段々と不機嫌になりつつある。
「あー、その…… 」
しかし、皆本は口ごもって、どう説明しようか困惑していた。
嘘も方便で、従姉妹やら、親戚やらとでも言えばいいのだが、元来の生真面目さが災いして、そう言えない。
本当どうしたらいいかと、顔を渋らせている皆本を見て薫は---------
写真の相手が、皆本にとって相当に大事な存在であるのだと、直感する。
「-------- 昔の彼女じゃねーよな ? 金髪じゃないし。だったら、今の彼女かよ !!
あたしらの知らない間に、いつ女なんか作ったんだ !? 」
バキッ。
勝手にそう思い込んだ薫は、思わず感情の赴くままにお約束というべき、
サイコキネシスで皆本を壁に叩きつける。
「違うって、薫そうなんじゃないんだ !! 」
壁に叩きつけられながらも、皆本は必死に弁解をするのだが、
「だったら、誰だと聞いてるだろ ?! この、乳だけでかくて頭の悪そうな女のことを!!
くそーっ、知らない間に、あーんな事や、こーんな事をして自分だけ楽しんでいたのかよ !!
あたしという者がありながら !! 」
半ブチキレ気味の薫は、目を据わらせて詰め寄る。
(自分の10年後の姿のこと、知らないとはいえよくそう言えるよな……
大体、以前沖縄で末摘さんが催眠能力(ヒュビノ)で化けた際に、
少しだけでも見ていた時の事あまり覚えていなかったみたいだな。その方が良かったとは言えるが…… )
「そんな関係じゃないよ、彼女とは」
少し寂しげに顔色を曇らせて、彼は答える。
「ならなんで、写真なんか持っているんだよ !!皆本の片思いなのか ?! 」
「そうかもな」
以外な皆本の答えに、切れかけていた薫はその怒りが急に冷めていくと同時に、胸の中がチクリと痛む。
(皆本だって、好きな人がいたって不思議じゃないんだ。
やっぱりあたし達よりも大人の女の人がいいのかよ……
皆本とこんなに年が離れているのが、辛いと思いもしなかった……
もっとあたしが、皆本と同じくらいの年だったらよかったのに-------- )
「…… 」
薫もまた皆本には子供だからと言われ、まだ分かってもらえない、
彼への片思いの気持ちを言えないでいる辛さが胸中に渦巻いている。
だからこそ、今の彼の心境を理解出来てもいた。
「好きだったら、好きだと言えばいいじゃないか !! 」
「薫 ? 」
「好きなのに、ずっと気持ちを胸にしまっていても自分が辛いだけだよ。
結果はどうあっても、自分の気持ちを伝えなよ」
先ほどまでの、威勢の良さと一変し、薫は彼の思いを告げるように告げる。
自分の気持ちは告げられないのに、何故か皆本の気持ちを尊重して思いを
告げるように後押しをしてきていた。
薫自身、自分の気持ち押し殺す切なさが募るというのに。
ただ、皆本には自分の気持ちには素直でいて欲しかったのかもしれない。
「薫…… 」
時折見せる彼女のお節介ともいえる優しさが、彼の心を暖かく打つ。
ただそれが、自分の気持ちを抑えているやせ我慢と、彼も気付いていた。
薫の頬をそっと触れながら、皆本は笑む。
「ありがとな、薫。でもな、この写真の人には会いたくとも、今は会えないんだ」
「え ? どういう意味 ? 」
意味の分からない薫は、疑問で首を横に傾げる。
「色々あってな。どうあがいても、今は無理なんだ。いや、この写真の中での彼女には会いたくないんだ」
辛そうな顔で、皆本はそう答える。
「だから、なんでだよ !? 」
更に訳の分からない薫は、顔を膨らませ苛立つ。
「…… いつか何事も無い日々が来た時が来たのなら、その気持ちをその人に告げるよ」
皆本は、薫をどこか愛しそうな眼差しで見つめながら、そう語る。
「み、皆本…… 」
いつもとは違う皆本の視線に、薫は何故か熱さを感じて顔が紅潮するのが自分でも分かっていた。
何故、皆本はこんな視線を自分に送るのか、薫には分からない。
「い、いつかって言わないうちに、振られるのが目に見えているよ !! 」
照れ隠しなのか、薫は意地悪な言い方をするのだが-------
「いや、いつかでいいんだ」
そう言うと、隙を見て薫の持っていた写真を取り返し、躊躇無く破り捨てた。
「皆本 ?! なんで ? 」
その行動が理解できずに、薫は驚き叫ぶ。
「いいんだよ、今はこれで…… ただ画像でしかない写真の人に懸想していては駄目なんだ。
僕は僕なりに、その人を心に焼き付けながら、自分の気持ちを抱いて前に進むよ」
(写真の君に気持ちを抱いているのじゃなくて、いつか出会える君に会ったら、
この気持ちを告げるよ。『愛していると』まだ子供の君には、こんな気持ちは抱けないけど、
いつか会える大人のあの君に僕は惹かれたんだ。
だから、君と共に過ごし、この気持ちを抱く事が出来る日まで待つよ。
僕らが、引き裂かれることのない、あの夢の中で約束した未来の日が来るときまで------- )
皆本は、少し遠い未来に会えるはずの薫に思いを馳せながら、
目の前のまだ小さき薫を見つめて微笑む。
そんな事を知る由も無い薫は、ただ不思議そうに彼を見つめているのだった…… 。
終。
2007/4/30 若干修正。(設定間違ってたりしてたんで(苦笑))
・・・・・なんか、このネタを考えていた翌日のサンデー本誌で、(21−22号)で、
未来→過去写真ネタ出てきて苦笑。何、このタイミングはーでした(汗)
あ、これでこの話の逆ネタの、未来の薫が10歳の頃の写真を皆本と見ているネタは
もれなく没になりました(苦笑)
基本的にダブるようなネタでは無いのですがね。
なんだか、甘すぎる話ですみませんー。
いつも二人の話を考えると、重くなりがちなんで。
特に大人薫は、まだ未来の舞台設定が分からないところが多すぎて、迂闊に書けない部分も
あるのが難点なので。
一度書いたら、見事に未来の薫の性格設定が食い違いすぎて撃沈しましたけど(苦笑)
ちなみにそれは、同人誌の方での事です。
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