いつまでも一緒だよね?
「よし、これで完成だ」
納得したように皆本は、満足の笑みを浮かべる。
彼の手元には、先ほど4人で撮影したザ・チルドレンの主任になって一年の記念として
撮った写真をプリントアウトしてオルゴール箱のフォトフレームに入れていたのだ。
入れながらの作業中、主任になってからの一年を彼は脳裏に浮かべていた。
最初は傲慢で我がままな乱暴者だった三人だったのだが、
それは今まで誰も彼女達の立場になって考えて受け入れてあげられる存在が皆無だったのもあるが、
周囲の大人には誰一人心を開かない孤独の中にいる子供たちだったのだと思えていた。
だが任務を共にこなしていくうちに、本来の彼女達の姿を目にする事が出来、
そして次第に心を開きお互いが信頼出来あう関係にまでとなる。
仕事だからとかではなく、三人にはそれ以上の深い思いが彼の中には強く根付く、
それは任務の最中、見せ付けられた不吉な未来予知を知ることにもなり、
そうさせないためにも彼は全力で未来を変えようとする思いからもきている。
仕事という枠を超えて、幼い頃から周囲から孤立していた彼女達の不吉な未来を
幸福なものにしてあげたいという彼の父性愛に似た祈りだった。
色々な事に巻き込まれつつも、長いようであっという間であった
一年を振り返っていたその背後に近づく人影が一つ。
「誰〜だ ? 」
人影は、背後から皆本の視界を手で塞ぐ。
「誰だって…… 声から言って薫だろ」
皆本の言うとおり、パジャマ姿で空に浮かびながら薫は皆本の視界を塞いでいた手を離す。
「やっぱバレたか」
少し悪戯顔をして薫は笑っている。
皆本は顔だけ薫の方を向ける。
「明日も学校だろ ? 葵も紫穂も寝たというのに、どうしたんだこんな時間まで ?」
「うん…… たまたまトイレで目が覚めたら、皆本の部屋が電気ついていたから……
あ、これ、もう出来たんだ」
彼の手元にあるオルゴールを念動能力で手元に持ってくると嬉しそうに中を開く。
「あぁ、皆が喜ぶと思ってな…… そういえば、明日じゃなくて今日撮りたいって
薫は言っていたけど、何か意味があったのか ? 」
その質問に、薫は一瞬ドキリと強い動悸が胸に起きる。
「と、特に意味なんかないよ…… ほら、こういう記念の事はムードが大事じゃん。それだけだよ」
何かに慌てたかのように薫は、声を上ずらせながら理由を説明するのだが、
本当の所…… 先ほど兵部に言われた事が気になって仕方が無く眠れなかったのだ。
兵部が遠い昔、自分と同じように特務エスパーであった事……
そして、未来に彼が普通人とエスパーとの対立を起こす首謀になると予知された挙句、
信頼していた存在に撃たれた事…… その人物と皆本が同じだと言われた事だった。
(京介は知らないからあんな事が言えるんだ…… 皆本はいつもは口うるさいけど、
本当は誰よりもあたしたちの事を考えてくれているんだから―――――
そんな皆本が、あたしたちを傷つけたり裏切ったりするはずないんだ !! )
「ムードねぇ…… そういうものなのかな ? 」
基本的に異性の思考に疎い皆本は、今ひとつその辺りが理解しきれてはいない。
理解しきれず首を傾げている彼の背中に、ふいに薫は抱きつくようにしがみつく。
「薫…… ? 」
「皆本…… 今まであたし達に付き合ってくれてありがと。これからも……
ずっといつまでも一緒だよね ? あたし達の側から離れたりしないよね ? 」
「な、何言っているんだ薫 ? 」
突然こんな話を振られ、皆本は驚く。
「ちゃんと答えて皆本…… 」
薫はそんな皆本の反応にも冷静なままで、問い続ける。
皆本の身体を掴む小さな手が更に強く彼を握る。
「一緒だよ、当たり前じゃないか―――― 」
「本当だよね…… ずっとあたし達…… あたしを守ってくれるよね」
何かに脅えたような不安な声で薫は、皆本の背中に顔を伏せる。
さすがに皆本も薫の様子が変な事に気がつく。
こんな尋ねるような甘え方は、普段の薫なら絶対にしないのだと、皆本は知っている。
「何があったんだ、薫 ? 突然こんなことを言い出すなんて―――― 」
気になり真面目な顔で皆本は背中越しに薫に尋ねる。
「なんでもないよ…… 急にそう思っただけなんだ。
今まで皆本以外の主任はこんなに長くあたし達の側にはいなかったのに、
皆本だけは、見放しもせずに今日まで一緒にいてくれた―――――
あたしは普通人の中で皆本だけは信じられる人間だと思っているから、
これからもずっと側にいて欲しいと思っている。あたしは、主任は皆本じゃなければ嫌なんだ。
皆本のお陰で色々な事を教えてもらったんだから―――― 」
少し涙声で、胸に抱いていた不安を皆本に吐露する。
事情は掴みきれないのだが、薫の抱く不安を知り自分を必要としていてくれる思いに胸が熱くなるのが分かる。
この子の不安を拭うのが自分にとっての役目でもある。
それは仕事の域を遥かに超え、少し遠い未来の彼と薫のためでもあるのだから。
「馬鹿だな、薫は…… 君たちが僕を必要なように、僕も君たちが必要なんだ。ずっと側にいてもいいだ――――― 」
優しく心を撫でるような声で、皆本は背中から回して来ている手に触れ、薫を慈しむように握り締めた。
皆本に触れられた箇所から、不思議と薫の身体に暖かさが伝わり、
やがてそれは心の奥底にあった不安を融かしていく。
(あたしは紫穂みたいにサイコメトラーじゃないけど分かるよ。皆本の気持ちが――――
こんなに優しくて力強い暖かさを教えてくれるのは皆本しかいないんだ。
なんで、京介は皆本のこんな良さを分かってくれないんだろう―――
絶対にあたし達を傷つけることなんかしない人なのに――――
普通人が全て敵だと思っているなんて…… 本当は可哀想な人なのかもしれない)
胸中で、そう薫は兵部の考えを哀れむ。
「ありがとう皆本、なんか安心した」
ぱっと、薫は皆本の背中から身体を話すと、再び空に浮いたままで安心したかのような表情で微笑んでいる。
「そうか…… なら、本当にそろそろ寝ろよ ? 寝坊なんかして、葵のテレポート通学なんて駄目だからな」
彼もまた安心したように笑みながらも、薫に釘を刺すのは忘れない。
「そのくらい、分かっているよ。じゃ、おやすみ――――― 」
薫は苦笑いしながら、手を振って浮いたまま自室に戻って行くのだった。
部屋に戻った薫の姿を見送った後、皆本は普段は見せない厳しい顔を浮かべる。
「心配しなくても、ずっと側で守っているよ……
夢の中でそう、大人の君と約束したんだからね―――― 僕は決して、君に引き金など引かない。絶対に―――― 」
そう強い意思の瞳を放ちながら、小さく呟くのだった。
(たとえ自分達の未来が予知されていようとも、
生きている限りそれを覆すことが出来るんだ……
未来というものは、決めることが出来ない無限の自由な世界なのだから―――― )
とりあえず終(汗)
10巻ネタでございました。
読んだ直後、猛烈に書きたくなって書きなぐりましたw
ブラウザの×で閉じて下さい。