『幸せの詰まった小箱』
※46-47号。34号ネタバレ注意。
ネタバレ満載ばっかりですなー最近(汗)
トントントン。
快適なリズムが、キッチンから聞こえてくる。
と、一緒に楽しそうな鼻歌も混じりながら。
キッチンには、薫が一人で、立ちながら、包丁片手に朝食の支度をしていた。
念動力ではなく、自分の手で調理している。
皆本と言えば、最近仕事の帰りが遅い事もあり、未だ布団の中。
一足先に目覚めた薫は、皆本の為にと愛情こもった手料理の朝の準備に忙しい。
皆本のためだと、力の入れ方はいつも以上、喜んでくれる姿を想像するだけで、自分まで嬉しくなるのだ。
「よし、出来た ! 」
小さな箱の中に、定番の玉子焼きを始め、たこさんウィンナー、その多。
他に色とりどりの野菜と、更なる愛情を付け加える。
我ながら会心の出来とばかりに、笑みが浮かぶ。
昔に比べて、自分の料理の腕も上がったものだと、少し調子に乗ってみる。
愛情たっぷりの小箱が完成した傍らで、朝食の準備も完了。
朝は簡単な、トーストとスクランブルエッグと野菜サラダと、コーヒー。
それをテーブルの上に、素早くセッティングする。
さて、次にすることといえば--------------
「起きて、おねぼうさん」
眠っている皆本の唇に軽くキスを薫は交わす。
「ん…… ? もう朝か」
キスの感触と、生真面目な彼の体内時計の目覚ましが入り、皆本は目を覚ます。
「おはよ、光一」
目を覚ました皆本の視界に、笑顔の薫の姿が眼に入る。
寝起き早々、薫の笑顔に清々しささえ覚える。
「おはよう、薫。今日は少し寝過ごしてしまったな」
少し上半身を伸ばしながら、皆本はベッドから降り身支度を整えに向うのだった。
「よし、これでいいっと」
出勤直前、玄関で薫は皆本のネクタイの歪みを直している。
「ありがとう、じゃ、行ってくる」
身だしなみを整えた後、いつもより少し時間が遅いらしく、
気が早っている皆本はドアを開けようとした時---------
無言で、薫が自分の唇に右手の人差し指を当てている。
それが何を意味しているのか、皆本にはすぐに分かるというか、
することを忘れていたのだ、毎朝の日課を。
「薫」
薫を引き寄せて抱きしめながら、再びキスを交し合う。
「ん〜っ」
寝起きの軽い物とは違い、今度は濃厚で長い。
毎朝、こうしないと薫が不機嫌になるのだ。
皆本もまた、こうして出かける前に薫の感触と愛情を確かめたいのだ。
薫も、夜まで会えない皆本をいつまでも自分の中に残しておきたい。
しばし、密なる時が流れた後、
「はい、これ」
まだ名残惜しそうな顔をしている皆本の手に彼の好きな色の布に包まれた、小さな箱を手渡す。
これも、毎朝恒例。
手渡された小箱は、まだほんのり暖かい。
「ありがとう。じゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい、気をつけて」
軽く手を振りながら、薫は皆本を送り出す。
今度は何も忘れるもの無く、足取りと心も軽やかに皆本は職場にあるBABELに向うのだった。
「いいよな、お前は毎日、薫ちゃんの愛妻弁当でさ」
からかいと若干羨望の眼で、隣にいる賢木は、布の中に包まれているお弁当を見つめていた。
そう、ここはBABELの食堂。
そして時間は、正午を少し回った所で、久々に顔を合わせた賢木と昼食を共にしている。
「そういう賢木は、紫穂に作ってもらったことないのか ? 」
羨ましがっている賢木を見て、皆本は聞き返す。
そんな、賢木の昼食は、食堂の「本日の日替わりランチ」。
本日のメニューは、肉野菜炒め定食らしい。
ちなみに、賢木と紫穂は、昔は馬が合わない相手だったが、
紆余曲折、似たもの同士なこともあり、いつのまにか婚約する関係までになっているのだ。
「作ってくれって言ったことあったんだが…… あいつ、美食家だから料理は上手なのに、
俺の苦手な辛いものばかり入れるんだよ。それを残して処分したいのは山々なんだが、
あいつも俺と同じ精神感応能力者だから、俺が食べてないのがお見通しだし。
無理して食べた後、家に帰って弁当箱に触れながら、俺が苦悶していた様子を読んで楽しんでいるんだ。
さすがに、また作ってくれとは言いたくない」
当時の事を思い出しながら、賢木の顔が引きつっている。
「お、お前も、相当苦労しているんだな。でも、紫穂もそんなに毎回しないと思うぞ。
あの子も心を許した相手だと、深い情を持っているんだから、
普通のを作ってくれと言えばいいじゃないか ? 」
さしもの賢木も紫穂には手こずるようで、昔散々苦労させられた皆本は、彼に同情さえ覚える。
しかし、紫穂の事を良く理解している皆本だからこそ、
彼女もまた本当は作りたいと思っているはずだと分かる。
苦手なものでも、愛情が無ければ食べきることなど出来ないだろうから。
紫穂が作ったものなら、賢木は食べたのだ。
賢木は、自分が知らない紫穂の事を皆本が口にすると、
少々妬けてくるのだが、それは仕方ないと思っている。
十年近くも皆本が育ててきたようなものだから。
愛情とは、また違う絆で紫穂を始め、薫、葵達と未だ深く結びついている。
その絆には、賢木は踏み入れる余地も、する気も無い。
それによって、どうすることも出来ない状況のエスパーと普通人の関係の崩壊を止める事が出来たのだから。
目の前にいるこの男は、親友でもあるが、それだけの敬服する値のある存在でもあった。
「そうだな、お前が言うなら、もう一度だけ言ってみるか」
賢木は、少し小恥ずかしそうにそう呟いた。
他愛無い会話も一区切りし、皆本は待っていたお弁当の蓋を空けて、
思わず笑いが込みあがる。
色とりどりのおかずと、薫らしいトッピング。
過去に同じように、薫の子供の頃の遠足でお弁当にしてあげた事を思い出す。
あの時も、少し意地悪なトッピングをした覚えがあるが、
今頃こうして仕返しされるとは思わなかったのだ。
お弁当のご飯の部分に、海苔でこう書かれているのだ。
『あいしてる』と、桜澱粉でその下にハートマーク。
照れてしまいそうにお弁当だが、皆本は嬉しさを隠しきれない。
幼い頃、家庭の手作り弁当に殆ど無縁だった彼に、
こうして手作りの弁当を作ってくれる存在が出来たことは、かけがえのないもの。
食べるのが勿体ないとは思うのだが、箸で一口、口に入れる。
美味しさもあるのだが、彼の中には別な物が広がっていく。
ぬくもりの沢山詰まった愛情。
一口、一口、それを味わいながら皆本は、幸福を噛み締めるのだった。
終。
2007・10・26
ええとまあ、何この新婚ラブラブベタベタ馬鹿カップルは(爆)
もう予知とかの色々書くと、くどくて重くなるので、またもやその後の二人な話。
この手の話は、ひじょうに書きやすいです(笑)少し前に書いた『ぬくもり』の
かなり先の続編みたいなもので、対になっているつもりです。
ちなみに、この話の中の薫は、BABEL休業中で専業主婦らしい。
つーか、そんなこと出来そうもない気がしますが、あの組織。
それ以前に、薫なら家庭に入りそう。
親のいない家に一人ぼっちで子供を置かせたくない気持ちは
自分でとことん痛感しているので。
そして、ドサクサ紛れに賢×紫風味をトッピング。
このCP中々書く時間が見つかりません(苦笑)
なんだかんだと、皆×薫ばっかし書いてるので(汗)
あ、『おきて、おねぼうさん」は、34号ネタですが、
大人薫で〜と、リクいただいたので、ようやくここで書けました(爆)
ブラウザの×でお戻り下さい。