『鼓動。』


※サンデー08年1号、モロネタバレ話なので注意!


 吐いた息が凍りつく極寒の中、の白色に包まれた空を皆本は、氷上に座り込んだまま、見上げている。

 「ザ・ハウンド」の選任指揮官と、初音の仲を近づけようと言う、桐壺の突拍子も無い

作戦遂行の手助けとして、「ザ・チルドレン」と共に、北極圏に来ていた。

 途中、作戦の途中で色々あったのだが、結果として狙い通りに仲を取りまとめる事が出来たと言うことで、

彼もまた自分の時のように安堵を感じている。

 彼も初めて、三人の指揮官になった頃は色々あったものだと。

 脳裏でそれを思い出しながら、苦笑を浮べていた。

「皆本ぉー !! 」

 背後から声と衝撃が同時に、誰かが彼の背中に飛び込んでくる。

「うわっ、薫 ?! 」

「寒いのに一人で何、黄昏しているのだよ〜」 

 背中から、薫は皆本に茶々を入れてくる。

「いいじゃないか、僕が一人でいたって…… 葵と紫穂はどうした ? 」

 周囲に紫穂と葵が見えないことに気がついて、皆本は薫に尋ねた。

 二人なら、向こうにシロクマの子供がいたからさ、可愛いからって明に憑依させてまた、

朧さんとハアハアしながら悶え萌えていたけど」

「そ、そうか。でも、薫は行かなかったのか ? ああいうのも好きだろ ? 」

「確かに可愛いけどさ、萌えるならやっぱ女の子がいいし…… 

それに、今なら皆本をあたしが独り占めできるもん」

 少し気恥ずかしそうに頬を染めながら、薫は皆本の胸元に滑り込むと、膝の上に座り込みこむ。

「か、薫 ? お前、何を」

 いきなりの行動に皆本は戸惑い、少しうろたえている。

「子鹿ねーちゃんと、初音の真似」

「別に真似なんかしなくてもいいじゃないか」

「したいんだもん…… 見ていたら、なんか羨ましくなったんだよ」

 少し甘えたような声で、薫はそう答えた。

「まったく、とんだ甘えん坊だな。少しだけだぞ」

 表情は渋らせているが、薫の甘え顔に皆本も仕方ないなという面持ちを浮べつつ、

甘えられたのがどこか嬉しい気持ちもある。

 少しの時間ならと、薫の我が儘を許した。

「へへへ、ありがと」

 我が儘を聞いてもらい、上機嫌で薫は嬉しそうに笑う。

 皆本の胸の中に座り込んだまま薫は、未だ空を照らすオーロラの姿を二人で見続けている。

「作戦成功してよかったね」

 ふいに薫が、白い息を吐きながら、そう呟いた。

 同じ仲間の絆を救えて、薫は本心から喜んでいる。

「そうだな…… 薫の言っていた通りだな。『信じたいから怖い』っていう気持ちを乗り越えたんだから、

これからは素晴らしいチームになるよ。でも薫…… 君も、僕が指揮官になった時、同じように思ったのか ? 」

 日中、薫がふと漏らした言葉が鮮明に記憶に残り、不安を感じ、尋ねたくなった。

 その質問に、少し薫は黙り込んだ後---------

「怖かったよ…… だって、皆本より前の指揮官の連中は、

もあたし達を本気で見ていてはくれなかったから。あたしらを信じてくれない相手を、

信じることは出来ないし…… あたしらが信じようとしても、拒否されていた気がする」

「薫…… 」

 薫達の置かれていた境遇に皆本は、胸が痛む。

 このような独白を三人共、自分からは語ることも無かったのだから。彼女達の心の救いを

誰も耳に入れようともしなかった事実が重い、幾度も、手を差し伸ばしていただろうに。

 受け入れてもらえない痛みを数多く小さな胸にしまいこんで堪えていたのだ。

 皆本は、そんな手にすぐに気付き、受け取っていた。

「皆本が来てからも、最初はそう思ってはいたけど…… でもさ、あたし達が、

どんなに我が儘を言って色々してきたけど、皆本はどんな時でも、真剣に怒ったり、

あたし達と同じ視線で向かい合ったり、必死で守ってくれたのは、皆本だけだった。

だから、他の連中とは違う存在だと思えたんだ。皆本なら信じられるって
--------

あたしは、皆本が指揮官じゃないと嫌だよ。これからも、ずっとそうしてくれるよね ? 」

 数多くの皆本から教えられた事が、薫の中で反芻している。

 自分達の未来を考える気力すら持てずにいた自分達に、

夢と存在価値を教えてくれたかけがえのない存在に尊敬を超えた感情を薫は抱いている。

「心配しなくてもいい。僕はいつまででも君らの指揮官さ。でも、そう思ってくれて光栄だよ。

でも、僕は薫の仲間に対する優しさと、その人懐っこい性格があったからこそ、

『ザ・チルドレン』の絆が深められたとも思うよ。薫がいなかったら、僕は挫折していたかもしれないよ」

 今だから言える本音を皆本も苦笑しながら漏らす。

 実際、薫の底抜けの明るさと強引なまでの行動力が無かったら、乗り越えれない事が幾度もあった。

 薫の持つ、求心力は計り知れない。

 本人は全く気付いていないのだが、自分の事さえも相手を思いやる気持ちの深さが強い子なのだと、

皆本を始め紫穂や葵は知っている。

 そんな薫だからこそ、内面的だった二人も打ち解けられたのだから。

 しかし、そんな皆本の言葉に薫は以外な言葉を返す。

「でもさ、あたしだって、小さい頃は、すんげー人見知りが激しい子供だったんだよ」

「そ、そうなのか ? 」

 皆本には、かなり意外な事実でもある。

 そんな薫の姿を想像できないこともあるのだが。

「自分でもあんまり覚えていないんだけどさ、

家族以外の人間に極端に脅えていたらしいから。多分、あたしの力が原因らしいけど」

 少し最後は辛そうに薫は答える。

 実際、自分の能力を目の当たりにして、自分が周りとは違う違和感を覚え、

周囲から畏怖の視線を向けられていた記憶が蘇る。

 そんな視線を向けられていれば、自然に内向的になっても仕方がない。

「薫……」

 あまり心の闇を語らない薫の本音は、聞いている皆本にさえ辛さが伝わる。

 そんな日々をどれだけ乗り越えて、今の薫がいるのと考えるだけで。

 何が、薫を今のような前向きさに変える事が出来たのか、正直、皆本は興味を持つ。

「今のように自分を変える事が出来るまで、薫は頑張ったんだな」

「気がついたら、今のあたしになっていたんだ。かーちゃんいわく、

気がついたら、治っていたらしんだ。自分では本当に全然覚えてないんだけど。

何か、昔あったのかな 
? 

 本当に思い出せないらしく、薫は首を横に傾げている。

 そんな仕草が、どこか可愛く皆本には映る。

「何かあったのかもしれないな。記憶は覚えていないかもしれないけど、心は覚えているよ、きっと」

 優しく薫の頭を撫でながら、皆本は微笑む。

「そうだね、そう思えてきた」

 撫でられる感触に心地よさを感じながら、

幼い頃に母親に同じように胸の中で頭を撫でられて眠った記憶を思い出す。

 撫でられながら、母親の鼓動のぬくもりと優しさに唯一、それだけが安心出来る時間だった記憶が。

 今もまたそれを皆本の胸の中で感じているのだ。

 この鼓動を感じられる場所ならば、安心していられるだと。

 いつまでも、この空間を手放したくはないと思うのは、まだ薫が子供であるのかもしれない。

 そうだと自分でも分かっている薫だったのだが、それでもいつまでもそうしていられればと、

心の底からそう思うのだった。

「薫…… お前、寝ちゃったのか ?! 」

 気がつくと、皆本の胸にもたれるように寝息を立て始めた薫に気付き、皆本は驚く。

 しかし、安心して無邪気な寝顔を見せつけられていれば、無理に起こす事など出来ない。

 それだけ、自分の事を信じてくれている信頼の証でもある。

「まだまだ子供だな」

 どこか嬉しそうに苦笑しながら、もう少しだけ皆本は、薫に安らげる空間を与えてあげようと、

そこにいることにしたのだった。

                                終。
                                       2007・12・5



 北極?で、皆本の胸の中で、薫を眠らせたかっただけです(笑)
 自分的に、今回の目玉の、薫の心情を書いてみたかったのと。
 指揮官就任前後の様子は、さすがに書けないですが。
 その前後の話は、そのうちに書きたいですが、
 設定が出ないからなぁ。
 あ、前なら書けそうですが.

 しかし、入稿直前に、何書くやら自分。
 入稿したら、この話、もう少し掘り下げて手直しいたします。
 かなり、殴り書きに近いので(苦笑)

 12月29日追記。

 指揮官就任直後の話は、本編で書かれる模様なので、
 書かなくてよかったー(苦笑)
 それと、この話は1月に出す
 自分の本の内容と一部リンクさせてもあります(笑)


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