『この空の上から…… 』
ビルの屋上で念動力を使い浮かんで高く透き通る夏空の姿を
私は無言で切なげに見つめている。
目に映るのは、何も無い青空だけ。
けれども、心の中では数え切れない程の光景が映し出されていた。
何も知らないでいた子供の頃の自分と、仲間、そしてあの人との思い出が-------
本当に楽しかったあの頃-------
ずっと、あの頃でいられたならと願っても戻ることの出来ない、時間。
生きている限り、子供のままではいられない現実を痛感せずにいられなかった。
大人になるにつれて、自分のすべき道を見つけ選んでしまった事には後悔もあるが、
間違いとも思わない。
この道を選んでしまった事に、自分でも未だよく分からないでいる。
ただ、唯一の心残りだけが心の片隅に残っている。
好きだとは言えなかったけども、側にいただけで暖かく嬉しかった事。
あの人の、声も仕草も、存在全てが好きでたまらなかった。
あの人の胸で抱かれたら、どんなに幸せでいられたのだろうか。
そのチャンスを全て投げ捨てて、私は一人離れここにいる。
普通人であるあの人を愛する事を胸に秘めながら。
決して、相容れる事が出来ない結ばれることなど無い私達。
あの人は、私をどう思っているのだろうか ?
裏切ったことを恨んでいるかもしれないけど、
きっと子供の頃のようにきっと怒りながら許してくれそうな気がする。
けれども、私は戻ることはもうありえない。
私はもう知っている。
あの人が、私を止めるために撃つ事を。
それが運命というのなら、私は拒まない。
せめて最後だけは、あの人の腕の中で思いを伝えながら逝けるのなら本望だから。
私には、あの人を殺すことなど出来ない。
あの人の人生を奪う私がいるのなら、私の命など惜しくも無い…… あの人を守るためなら。
私はあの人がいなくなったら、心が壊れて生きていけないだろう。
けれども、あの人なら私がいなくても生きていける。
きっと…… あの人は、強い人だから。
この世界には、大切で必要な人でもある。
身勝手かもしれないけど、私にはこうするしか出来ない無力な存在でしかないの。
「時間やで、薫」
「いよいよね…… じゃ、作戦終了後にまた」
いつのまにか側にいた葵と紫穂が、私に声をかける。
「分かってる…… じゃ、また後で---- 」
再び、屈託の無い笑顔で二人に笑顔を返す。
今では、この二人の前でしか本当の自分を晒せないでいた。
けれども、今の私はこの二人でさえも本音を隠しながら、どこか無理した笑みを浮かべることしか出来ない。
二人もそれには気がついているのだが、問いただすことはしなかった。
これから決行する作戦の前に、緊張を隠しきれないでいるのも当然と思っているのだから。
今日で、エスパーと普通人との対決は勝敗が決まるほどのものだった。
「ほな、後でな薫」
「頑張ってね」
葵は紫穂を連れて、瞬間移動でその場から姿を消す。
「またね…… は、もう無いんだよ。さよならと言えなくてゴメン…… 」
涙目で薫は、二人の消えた場所に向かって一人懺悔の言葉を吐いた。
もう、あの二人に生きて会うことは無いだろう。
私はこれから、運命の場所へと赴くのだから……
せめて、二人だけは生き残り本当の自由と幸福を掴み取って欲しい。
もう二度と、こんな悲惨に包まれない世界で。
一筋、薫は涙を地に落としながら空を跳ぶ。
目指す、あの予知された場所に。
もうすぐあのドアが開く。
そして、皆本はあたしを撃つ。
不思議と恐怖も何も無い…… ただ、今胸にあるのは、数年ぶりにあの人に会える
嬉しさがある。
もうじき会える、あの人に。
胸が高鳴り、鼓動が高くなる。
顔も紅潮してしまうほどに。
恋を知った頃の自分に戻ったような、錯覚さえ覚える。
大好きな大好きな人。
どうか、あなた腕の中で逝かせてください。
それが今の精一杯の私の思いだから--------
愛しているよ、皆本。
今までも、そしてこれからも……
最後に本当に、嫌なことをさせてゴメン。
でも、私を撃っても後悔しないでいいよ。
これが皆本の未来にとっては、ベストなんだからさ。
私がいなくなった後、心配しないでいいからさ、幸福になりなよ。
もう予知されていたこの日と私の存在に、苦しまず囚われないでいいからさ-------
ずっと、この空の上から、見守っているから…・…
だから、いつか空を見上げて笑ってくれるだけで、私はきっと幸せだよ……
終。
2008.09.11
9.15 一部加筆修正。
……ふいに切なげ大人薫話が書きたくなったので、何も考えずに惰性30分で適当に書いたら
こんな内容に。
お涙頂戴70年代後半〜80年代前半メロドラマ風味というか。
未来予知場面直前の薫の一人モノローグということで。
二人とも最後の最後まで、告白無しの関係というシュチでございます。
……自己犠牲心強すぎるなぁ、この薫(汗)
というか、これ遺言のような話だ……時間経過して読み返したんですが、
これ夢SSとも言っても過言ではないかと思えるほどに(汗)
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