『これから…… 』
「あぁ…… 」
どこか切なげで、何かを求める声だけが、そこに響き渡る。
無造作に乱れきったベッドのシーツの上の汗ばみ絡んだ肢体から、それは聞こえる。
「薫…… 」
皆本は、愛おしそうに薫の名を呼ぶ。
「ん……あぁっ…… 」
ベッドに沈み込むように、覆いかぶさるようにいる彼の胸の中で薫の幾度も無く荒げな喘ぎを
繰り返している声を聞きながら、皆本は彼女に止むことの無い愛撫をその身体に与え続けていた。
「あぐっ…… 」
先ほどより、一際大きく甲高い喘ぎを上げながら、その身を悶えさせどこか苦しげに。
己の中に皆本を受け入れた苦痛に顔を歪ませていた。
薫自身、このような行為に慣れていないこともあるのかもしれない……
皆本と関係を持ち女へとなったのは、つい最近であるのだから。
快楽よりも、未だ体を引き裂かれるような感覚のほうが強い。
ただ、この苦痛に耐えながらも、喘ぎを漏らしていた。
「大丈夫か、薫…… 」
そんな様子を見かねて、どこか申し訳無さそうに皆本は薫に声をかける。
「うっ…… だ、大丈夫…… 」
苦しげな声を出しながらも、健気に返しているのだが、
額には辛さを我慢している脂汗を多く浮かべていた。
「すまないな…… 君ばかり、負担かけさせて…… でも、もう少しだけ、耐えてくれないか」
優しげに声をかけながらも、皆本は繋がりを持ったまま、
腰を激しく上下させながら薫の中で膨れ上がり、はちきれんばかりの自らの物を突き出した。
「ぐぅぅぅ--------- 」
必死に我慢しながらも、薫は彼を受け入れている。
しかし、耐え難い苦痛に言葉を搾り出すだけで精一杯である。
それでも、皆本には心配かけまいと気丈に振舞っていた。
皆本が、自分を求めてたまらないのだからと-----------
今まで彼に対して行って来た仕打ちに比べたら、こんなこと何でも無いものだと、むしろ自分を必要としていることを歓ぶべきと
自分に言い聞かせながら。
それでも薫の肢体は、苦痛を堪えるばかりに緊張し続けている。
薫の顔を間近に望み、喘ぎ続ける姿を見続けながら皆本は、
その身を心配しているのだがその内心は、別の所にあった。
（…… ほんの数年前までは、まだ年端のいかない子供だった薫なのに……
あの頃は、生意気さと甘えてばかりが目立つ世話がかかる子供としか思えなかった。
それでも、時折見せる素直な子供らしさと、仲間意識と強い意志を合わせも持つ存在であることに、
心のどこかで惹かれはしていたのだが、当時は保護者のような感情しか持つことは出来無かった。
ただ当時は、僕が守り抜くのが使命だと思っていたからだ-----------
けれども、少女時代から、大人になり変わろうとした時期、
薫は忽然と僕の目の前から離れて行ってしまった…… そして数年後の今、
大人になった君と再会して女として抱いてしまう日が来るとは思いもしなかった。
まだ子供だから、守ってあげなくてはいけない保護者の気分から抜け出せないのか、
こうして抱く行為すらが背徳をも感じさせる。
純潔なままでいた君を僕が汚してしまっていいのかという罪さえも感じるが、
それでも止めることは出来ない…… 僕が薫を求めてやまない思いはどうすることも出来ないんだ）
更に激しく皆本は、己を突き出し続けた。
その動きに耐えるかのように、
薫は皆本の背中に両手を回し彼の背に爪あとを幾筋の立てながら痛々しい跡を残す。
「くっ…… 」
その痛みに少し声を漏らしながらも、彼女の体を抱きしめながらより密着させ行為を続けた。
「うっ ！ 」
「あぐっ----------- ！ 」
やがて、薫の体が大きく弓なりにしなりあがる。
苦痛に耐えていた自らの奥底から、経験した事が無い疼きと
全てを忘れてしまうような恍惚を超えた経験したことのない開放的な感覚が湧き上がると全身から力が抜け意識が白濁に覆われ、
己の中から、激しく熱を帯びたものが溢れ出す。
同時に、皆本もまた限界と快楽の波に襲われ、彼女へと己の熱き奔流を放ち果てた。
「はぁ…… 」
ベッドの横に腰掛けながら、皆本は何か重々しい嘆息を吐く。
薫は未だにベッドの上で、身動きもせずに真珠のような白き肌を晒したまま横たわらせている。
いや…… 皆本に求められ続けた為に、果てたと同時に意識を失い、今は眠りの世界に落ちていた。
いくら彼女が若くとも、体力・精力とも男盛りである皆本の本気ペースにはついていけないのも仕方が無い。
そんな薫の姿を彼は、申し訳無さそうに、そして満足そうな面持ちで見つめ、
その頬にそっと労わる様に撫で触れる。
「ん…… っ …… 」
少しくすぐったいのか、その身を悶えさせながら、薫は寝返りを打つ。
その際、彼女の豊満な胸が弾むのが彼の目に入り込む。
白い肌に幾箇所もの紅の証が全身に万遍なく散らしたのか、彼である。
無我夢中で、求め続けていた自分に彼はどこか苦笑を覚えた。
艶やかな薫の肢体を見つめているうちに、再度薫を求めてしまいたい欲望が湧き上がるのだが、
さすがに理性でそれを止める。
無理強いをさせて、薫を壊してしまいたくはない。
既に一昼夜に近いほど、彼は薫をベッドの上から解放しないで拘束してたように情事に更けていたのだ。
少し冷静になろうと、彼は己に被せてあるものを手早く外す。
透明状の先端は、先ほど彼が薫に放ったものが白濁しながら沈殿している。
中身が漏れ出さないようにと、開口部をきつく縛り上げると、無造作に床に放り捨てた。
その周辺には、乱雑に脱ぎ捨てた衣服と一緒に既に多数の同じものが転がり落ちているのが分る。
さすがに、薫を今孕ませるわけにはいかないのだ。
常識的には、薫に過剰なまでに行為を無理に推しつけているのが一目瞭然とも言えた。
それでも彼には、まだ満足できずにいる。
もっと、更に薫を抱き求め合いたい溶け合いたいという欲望だけが彼の脳裏にあった。
このまま室内にいると強引に薫をまた求めてしまう自分を抑制出来ない恐れもあるからと、
皆本はズボンだけを身に纏い、部屋を一時離れた。
「何も無いんだな…… 」
冷蔵庫の中身を眺めながら、皆本は舌打ちをする。
眺めていた内部には、既に腐敗し異臭を放っている野菜や食物だけが残されている。
僅かに封を開けていないミネラルウォーターのペットボトルだけが傷まずにそこに唯一ある。
一時の喉の渇きを取る事は出来るのだが。
何故、温度管理によって余程のことが無い限り、冷蔵庫内の物が腐敗することはないのに、
こんな状況になっているのかといえば、この部屋は薫の家でも、皆本のマンションでもなく、
見ず知らずの住宅にいる。
皆本たちがいる部屋を含む周辺は、国家から見放された無法地帯とも言える場所。
普通人と薫率いるエスパーとの最終戦争の際に、
最前線ともいえる激しい衝突ともいえる熾烈なＥＳＰ戦が行われ、
壊滅的とも言える甚大な被害を受けたこの地は、政府により住民の避難命令させた後に、
放置されていたのだ。
既に、電気・水道などのライフラインは全て切断されており、とてもではないが日常生活など出来ない。
その地で二人は、互いの仲間から身を隠すかのように、潜みながら情事を行っていた。
いや…… そうではない。
互いの立場に隠れての密会関係なのではないのだ。
数年ぶりに皆本は追い続けていた薫に再会を果たした後、幾度も無く彼女を説得し、
そして説得され続けてきた結果、共にこの世界を救い新たな世界を作り上げようという答えが生まれた。
一見それは簡単な言葉ではあるのだが、それは途方も無く困難でしかない絵空事なのかもしれない。
しかし、いつまでも普通人とエスパーが対立しあうままでは、
何も生まれずに双方とも滅びるだけしか道は無かったのは、二人とも何よりも今までの多くの犠牲を目にしてきた経験で痛感していたのだ。
このままでいけないのだと、互いの存在意義を考えながら、融和への道を求めることに決めた。
同時に互いの存在が近づくことになり、分かり合えた瞬間、
自然と二人は互いを求め受け入れることが出来た。
少女の頃、めくるめく夢想像を抱いた光景とは違い、
無造作に何も無く朽ちた廃墟の中で薫は皆本により少女から女へ変わる。
状況など関係なく、皆本に抱かれながら変わり行く自分に歓喜と怖さの涙を流し続けた。
永い間、否定しながらもこうなることを願っていたのは、実際は皆本自身だったのかもしれない。
その日から、数日余り…… 二人は仲間に一切の連絡もしないで何かにとり憑かれたように求め合っていたのだ。
薫の去った日、皆本は薫の存在が彼の中でどれだけ大切であったのかを知る。
そして、会うことの出来なかった数年間の間に、その思いは深く積み重なり、
薫の真意を知り彼を受け入れてくれた反動でもあった。
未来を…… 薫を自ら撃ち殺してしまう忌まわしい予知を変えることが出来た喜びなのかもしれない。
だが、いつまでも薫と息を潜めているわけにはいかない。
自分達は、分かり合えることが出来た…… しかし、世界はまだ滅亡に向かいつつあるのは変わらない。
それを回避する道を探し当てねばいけない…… 先の分らない不安は、常に彼にも重く圧し掛かってはいる。
けれども、以前とは違い彼には薫がいるのだ。
エスパーの長である薫が皆本と同じ志を抱くことが出来るのならば、
それも変えることが出来だろう…… それが、彼の背中を優しく前に押してくれる。
それを強く、揺ぎ無い信念を確信として抱き皆本は小さく笑んだ。
「…… 皆本…… 」
どこか不安気な声と視線で薫は、念動力で身体を浮かべたまま現れて、
その身にシーツを巻き付けた姿のまま皆本の名を呼ぶ。
疲労が残っているのか、どこか様子がおぼつかない。
「起きたのか、薫…… 調子はどうだ ？ 」
「私は平気だよ。目覚めたら、皆本がいないんだもの」
「僕が、何処かに行ってしまったと思ったのかい」
「…… かもしれない」
皆本の少し意地悪じみた言葉に、些か薫は不機嫌ながらも、甘えたように返す。
正直、独りにされるのが嫌だった。
離れている間は、そう感じなかったのだが再会した後では、余計そう感じてしまうのもしれない。
自分が同胞を守り抜かねばいけないという概念という意地を常に抱き続けた薫にとって、
皆本に抱かれた事により、それを打ち崩された後には脆さを含めた部分が残った。
薫は見かけから垣間見える強靭な意志と、
強がりとは裏腹とは違い人一倍寂しがり屋で甘える子でもあるのを皆本は知っている。
それは子供の頃から、変わること無いのだ。
変わらないでいてくれた薫のその部分を彼は、どこか愛しげに満ちた安堵を覚えながら、
彼女の頭を軽く優しげに撫でる。
子供の頃と変わらない性格を懐かしむように。
薫もまたそんな仕草を嫌がる事無く、素直に受け入れる。
「僕は何処へもいかないよ…… これからは、君と共にこの世界を変えるのだからね。
だから君こそ、もう二度と僕の前から消えないでくれ」
「行かないよ…… もう…… 」
皆本の背中を抱きしめるように薫は、その身を委ね重ねる。
彼から伝わる温もりを、いつまでも求め感じていたかった。
背中から伝わる温もりと鼓動を感じながら、
皆本は今まで心の何処かで抱いていた不安は完全に払拭すると同時に、
何ともいえない愛おしさが彼を包み込み、更に薫を求めたい衝動に再度掻き立てられる。
「皆本 ？！ 」
しばし、薫に抱かれたような状態の皆本だったが、振り返ると瞬時に、
彼女をお姫様抱っこをしながら抱きこんで、持ち上げた。
その真意を薫もまた理解すると、少し恥らいながら俯く。
言葉が無くとも、互いの心は伝わっていた。
外では、情事に浸りこむ状況なのは分っている。
しかし、互いを求める貪欲さを止めることは出来なかった。
これからなのだ。世界を変えるのは-------
多くの同胞の犠牲の中で、自分だけでは、何も変える事など出来ない事に打ちのめされ、
共に手を取り合ってこそ、それは出来るのだろうと互いの存在で知ることが出来た。
そう…… 未来は、この手にある---------- 。
だからこそ、その前にほんの少しだけでいい……
僅かでもいい、この瞬間だけを自分達に与えて欲しいと二人は強く願った。
終。
2008・06.01
06.02一部加筆修正。
06.15更に一部加筆修正。
再会した後の二人の話なのですが、薫が17歳辺りで離反している設定として書いてますし、
それまで薫に手を出していなかったという展開です。
この話は、『忘れられない思い』とは別話として考えている話の中の一部分を書いてみました。
なので、今後作中にあった廃墟で初めてなんとやらの場面話も原作の進み方によって、書くとは思います（笑）
…今回の話もあまり最中を描くというよりは、舞台設定を説明したような話になってしまいましたね（汗）
…満足できなかった皆様、すみません。
自分、基本的に最中描写よりは、物語設定の方に熱入れやすいというか、シチュレーション好きでして。
…最中描写は熱入れすぎると、生々しいと昔言われすぎた経験あるので、その辺り普段から控えめにしています（一応）
でも、皆本…サカリすぎ（苦笑）どんだけ、絶●…（汗）
皆本のワイシャツ着た薫に、『皆本…… お願いアレ欲しいの…』って、せがまれたのかしら？（爆）
どうでもいい補足ですが、皆本が床に投げ捨てたアレは、皆本が常に持ち歩いていた訳ではないです。
たまたまその家にあるのを失敬したということで。
普段から持ち歩いていたら、ある意味いつでも薫とヤル気満々のように思えそう（苦笑）
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