『幸福の中の不安』




 夜のしじまの中、熱く湿った吐息だけが響いていた。

 濃密に深く情と身体を交し合う二人の姿------

「皆……本ぉ---------

 甘美な喘ぎを含ませながら、薫は酔いしれていた。

 互いに求め遭う最中、互いの中に自分の存在を確認しながら。

 その夜、幾度と無く達し果てた後も、いつまでも手離したくないかにように求めていた。

「ん…… ? 薫どうかしたのか ? 」

 薫を自らの腰の上に乗せ未だ繋がった状況で、

皆本はどこか上の空のように虚空を見つめていた薫に気がつく。

「なんでもないよ…… 」

「なんでもない割には、何か考え込んでいそうな顔だったぞ ? 」

 片手で腰を引き寄せながら。薫の背中を労わる様に、愛しんでいる様に、

舌で転がしながら所々に痣を残していく。

 延々と与えられる愛撫に薫は酔いしれていたのだが、皆本の指摘とおり、

心の片隅では情事から一線を引いているような面も存在していた。

 それはほんの小さな些細な事だったのだが、それすらも皆本には見通されて、少し薫は

苦笑を浮べている。

「何しているんだろうな…… っね」

「何しているって言われても、分かりきった事じゃないか。変な事を言うんだな、薫は」

「そう ? そうかな…… 」

 情事の最中に、愛撫に酔いしれてはいるのだが、

どこかでいつも何かを考えてしまうのは自分だけなのかと、薫は何か自分でも分からないのだ。

 情熱的になっていても、冷めている自分がいることに。

 人は皆、そんな面を持っていると思っていたのに、自分だけだという気さえする。

 皆本に抱かれ、愛されているはずなのにと--------

「嫌なのか…… ? 」

 陰りを見せている薫が気になり、愛撫する手を止めると、薫の顔を覗き込むように薫へ尋ねる。

 この行為を無理強いさせているのではないかと、不安に皆本は掻き立てられた。

 実際、薫を最初に求めてしまったのは彼の方なのだから。

「嫌なんかじゃないよ。皆本が私を欲しいって言ってくれるのは本当に嬉しかった。…… 

こんな私が好きだと言ってくれたのは、皆本だけだったから…… 

私も好きだから、全然そんなことを思っていないよ。

私が、誰よりも皆本に近づけ感じれたんだから…… 」

 不安に顔を曇らせた皆本を安心させてあげるように、薫は軽くその唇にキスを交わす。

「そうか…… 僕が先とちりをしてしまっただけか。本当に僕はすぐに悪い方に物事を考えてしまうからな」

 苦笑を浮べながら、どこか安心したように皆本は笑む。

「それが皆本の良さなんだよ。ちょっとした事でも気がついてくれるのが…… 

それで、私も結構救われたり助けられたりしたもの」

「そんな大業なものじゃないよ。普通にしているだけなんだから-------- 」

「自分で自分の事を気がついていないだけだよ。それがいいんだけどね」

「そうかな。そんな褒め方されると、恥ずかしいな」

「可愛い、皆本」

 照れる皆本に、薫は茶々を入れて面白がっている。

 どうにもこうにも、皆本を弄るのは面白くて仕方が無い。

「おいおい、大人をからかうなよ」

「もう私も大人だよ。あの頃みたいに子供じゃないんだから」

「そうだったな、つい癖で」

 薫に指摘された通り、目の前にいる彼女は子供とは言えない年なのは確かだ。

 後、少し時が流れれば、皆本が彼女に出会った頃の年を迎える。

「時が流れるのは本当に早いな、子供だった君が大人になり、

こうして普通に腕の中でいる関係になっているなんて、あの頃は誰も想像出来なかったとは思う」

「そうかもね…… でも、私はこうなりたいとずっと思っていたよ。

子供の頃、皆本にだけは、私の全てをあげても良かったと思っていたから…… 

この先に続く未来も
-------- 皆本が、夢さえ抱けなかった私たちの未来の道を作ってくれたんだよ」

「未来か…… 」

 薫の言葉に、彼は言葉が詰まる。

 薫に安穏な未来を求め願っているというのに、

その言葉は予知されたあの未来の事を思い出されてしまうのだから。

 絶対にそうさせまいと祈りのような、強い願いを抱いているのだが。

 それでも、刻々とその時が近づいてくる気がして不安で仕方がない。

 だけども、こうして薫が自分の腕の中で抱いている確かな感触を感じていることで、

予知が実現することは無いという確信を求めているのかもしれない。

 何も根拠も無い確信を。

 ただ、薫を抱き愛しみながら、全ての悲劇から逃れる方向へと導いているのだと。

 それに薫は、応えてくれている。

 絶大的な、愛と信頼を彼に向けているのだから。

 今は、そう思うことしか出来なかった。

「薫の未来を僕にくれるという気持ちだけで満足だよ、

薫が幸せと思ってくれるなら僕は他の何もいらない」

 愛しさをこめて、薫の身体を優しく包むこみ抱きしめる。

 幼少時から、過酷で悲痛な空間で生きる事を求められ、

周囲に牙を向けて保身をしながら、脅えていた当時の薫を思い出しながら、

そんな彼女を一人の人間として幸福の空間と、普通の子供らしい時間を与え、

大人になった姿を誰よりも皆本は喜んでいた。

 薫がいるだけで、満足であり幸せなのだから。

 この時間がいつまでも続いて欲しいと、子供じみた願いにさえ覚えていた。

 抱きしめられている皆本の感触と温もりに、薫は----------

「私も幸せだよ…… 皆本といるだけで…… 」

 どこか儚なさそうに、そう視線を向けて微笑む。

 確かに今は幸福に包まれている薫なのだが、その内面では別の自分だけはそう思ってはいない。

(本当に幸せなんだよ…… 私は…… なのになんで本心からそう思えないんだろう。

皆本がいれば満足なはずなのに
--------- )

 薫の中で、得体の知れない不安が瘤のように胸につかえている。

 その不安の原因が何なのかは、自分でも理解できないでいた。

 しかし、奥底では気付いている。

(…… 私だけが、こんなに幸せでいいんだろうか。幸福になりたくてもなれない同胞が、

この世には数多といるのに…… 私が彼らに幸福を与える事が出来ればいいのに…… )

 自分だけが幸福の空間にいることに、どこか後ろめたさを抱いていた。

 同時に、世間から疎まれ続けている同胞を救ってあげたい思いも。

(…… でも、私は皆本から離れたくはない。ううん…… 

この幸せを手放したくない。ただの愚かな、欲深い人間でしかないんだ。

でも、なんでこんなに胸が痛くなるのだろう…… 

ただ、皆本の側にいるだけでいいと考えていればいいのに
--------- )

 どうするべきかも分からない思いが、薫の胸を掻き毟った。

「あっ……… んっ…… 」

 再び皆本の愛撫が始まり、先ほどよりも激しく薫の中で自身を突き立てる。

 それに応えるように薫もまた、彼自身を絡めながら受け入れ、

止まることなく愛液を溢れ続けさえていた。

 更に片手で腰を支え、もう片方で張りあがった乳首を掴み上げ弄りながら、

彼女が最も敏感でエクスタシーを感じる首筋を執拗に攻め続ける。

「んんっ、ああっ------------  ! 」

 堪えきれないほどの快感と全身の疼きに襲われ、

薫は天に向かうように身体を彼の腰の上で弓なりになり一際大きな喘ぎを叫ぶ。

 まるで、皆本から離れられない女としての自分の脆さと弱さを誰にも言えず、

虚空に叫び啼きながら、達し果てた。

-----------  もう少しだけ、もう少しだけ、このままでいたいと願いながら。

                               終。
                                     2008・03・16


はい、寝物語です(笑)
ぶっちゃけ、最中の会話の話。
少し前から、考えていたネタでしたが、ちょいと本誌でのパンツネタに
翻弄されて、こちらが後回しになってしまいました。
…と言っても、短い話ですがね。

薫が、皆本の元を去る前の自分の中の女王気質と、皆本との関係との間の葛藤が
生じ始めている辺りを書けたらと思い書いたのですが、微妙ーな内容で(汗)
文章の表現力全然ナッシングですな自分(反省)

後は、皆本が薫の本質に気付いていないヘタレはいつものことで。
そのうちに、薫の本質も生き方も受け入れて抱き締められる器の皆本を書きたいですなぁ。

しかし、今年になって、何かとエロばっか書いているような…(苦笑)
でも、前のエロ話は馬鹿エロでしたから、久々にシリアスエロ書けて満足。
でも、馬鹿エロの方が、本音から言えばかなり書きやすいです。
脳内の労力が半分以下ですから(笑)
シリアスはねー難しい。
特に、すぐに悲劇予知絡みになるから。





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