『待っていたんだよ…… 』
「ねぇ、待った…皆本 ? 」
とある土曜の昼下がり、高校の終業ベルが鳴った後、薫は校門の近くで停車して待っている皆本の元へと制服のスカートを翻しながら駆け寄った。
本心ならば、念動力で一秒でも早く駆けつけたいのだが、皆本との約束で、
学校では一切超能力を使わないでいるという約束を未だに、守り続けている。
最初の頃は、超能力が使えずに不便な思いも強かったのだが、
今では使わなくても気にならないまでに、この生活に慣れることが出来ていた。
これが皆本の言う、ノーマルとエスパーの共存出来る生活なのかもしれないと、
薫も彼の考えを子供の頃よりも深く理解し勤めている。
そうする事で、自分は皆本の側でい続け生活出来るのだから。
「早かったな、薫。そんな、息を切らしてまで早くこなくてもよかったのに」
激しく息を切らしている薫の姿を見て、皆本は少し苦笑しながらも、顔を綻ばせ助手席のドアを開けて、薫を座席に誘う。
「だって…… 一秒でも早く、皆本の側に来たかったんだもの。今日は久々に二人でドライブしながらデートなんだもの」
少しずつ、息を整えながら薫は待ち遠しかった笑顔を彼に向ける。
その笑顔が皆本の瞳に入り込むと、途端に彼の心は締め付けられるように熱を帯びた、
愛しさが募り上がるのを抑えきれないまま、皆本は車に乗り込み、ハンドルを握り、車を走らせた。
中学生後半の頃から、皆本は共に共同生活しているチルドレンに対して、
正直、冷静ではいられない日々が数多くなり始めていた。
あの子達は、子供だ…… と、思えていたのは、昔の事で子供の成長は、あっと言う間に過ぎ去り、
気がつけば皆本が眼のやりどころに困るほどに成長を果たしてくれたものであるのだから、男性として色々と困惑する事も多い事情もあり、
高校に進級したと同時に、皆本とチルドレンは共同生活を終わらせたのだ。
だが、その微妙な距離が、皆本と薫の関係を近づかせる事になる。
いつも毎朝、当然のように顔を会わせていたというのに、今では任務でバベルにいる時しか顔を遭わせることができないのだ。
会えない時間が、増えたこそ薫の事が無意識に気になって仕方ない皆本は、いつしかそれが薫への恋慕だと気付く事になる。
その手の事に、相当な不器用さを持つ皆本であったのだが、
何かと積極的な薫からのアプローチもあり、紆余曲折の後、無事付き合う関係へと辿りつき、今に至る。
付き合い始めたとは言え、普段、二人でいる時間はあまり取れることが少なく、
何かと紫穂と葵が、二人の様子に勘付いて半分楽しんでいるかのように割り込んでくる始末であった。
だが今日は、前から念入りに週末である今日の計画を念入りに二人だけで計画をして、終業のベルと共に紫穂と葵を置いて、
光のようなスピードで彼の元に駆けつけていた。
幸い、紫穂と葵はこの場をかぎつけてはいないようであり、恐らく知っていても今日だけは邪魔はしないだろう。
そこまで友の恋路を邪魔をする子供でもないのだ。
二人きりの遠出である今日の午後は、ある意味、薫の勝負の日でもある。
現在、二人の関係は…… 付き合って、数ヶ月になるのだが、未だキス止まりで、その先はまだという始末。
クラスメートの半数近くは、行く所まで行った子達がいることに、少し憧れと焦りを抱いていた。
だからこそ、今日に全てを薫は賭けていた。
女としての勝負を皆本に受けてもらう為に。
既に、自慢コレクションの勝負下着は、学校の休憩時間にトイレで見に着けている。
いざという際の、諸々は全て用意している手際の良さ。
自分の隠し味に、少し仄かな香水を首につけたりしているのだが。
ここまで気合を入れて、待ち構えている薫に対し、皆本は果たして薫の本意に気付いてくれるのかが、薫にとっては大きな壁でもある。
キスまで辿り着くまででも、薫が相当な手回しをかけて辿り着いたというのだから。
だが、薫の心配とは裏腹に皆本も、実はその意識は強く抱いている。
付き合っているのだから、そのような関係になるのは不思議では無いのだが、しかし未だ彼のどこかで、
薫が小学生の頃から面倒を見てきた子であり、いわば育てた子に手を出す罪悪感が彼の中で残っているのか、
それが堅すぎる理性の壁を固持していた。
薫が女性として愛しい存在だと思えるのに、その反面子ども扱いしてしまっている自分にあきれ返る。
しかしながら、今日の薫はいやに皆本に対して挑発的な仕草を向けていることには気付いていた。
いつもよりも、制服のセーラー服の着こなしがゆるく、何かと彼女の若い瑞々しさを露出していたり、微かな香水が彼の鼻をかする。
…… 薫は、今日に賭けて待っているのだと。
もう子供という年でも、心身でもない。
子ども扱いで逃げるような扱いは出来ない。
女性が待っているのに、それを逃げる不甲斐ない男にはなりたくないと、皆本のプライドも叫ぶのだが、それでも一歩先に足が出ないでいた。
「あぁ、この間の事か----------- 」
ドライブの間、皆本は他愛無い会話だけを薫として、あえてその手の話にならないように逃げていたのを薫は、
どうしようもないなと嘆息を着きながら、諦めて自ら切り出した。
「私さ、今日…… 帰らなくてもいいよ」
「え ? 何を薫…… 今日は、夜には家族の方と久々に食事する約束じゃなかったのか ? 」
「それは嘘。かーちゃんも、ねーちゃんも、今日も明後日までロケ仕事だよ、家に帰っても誰もいないから、このまま何処かに止まっても平気」
あっさりと、嘘を告白しながら薫は、平然と皆本と夜を過ごしたいと仄めかしながら、ちらりと横目で皆本を魅惑する。
「で、でも、今日は流石に薫を明日まで連れ出すことなんて、無理だ」
「なんで? 」
「なんでって、それは---------
」
次々と突っ込んでくる薫の質問に、皆本は言葉につまり、激しく困惑する。
こういう際の逃げ言葉を、正直者で、経験不足な彼は知らないのだ。
「私をまだ子供だと思っているから、抱けないんでしょ ? 」
ストレートに薫は、皆本の真意を突きつけたと同時に、動揺して運転の手がすべり、大きく走行を乱し、
反対車線の車からクラクションを強く鳴らされた挙句、路肩に車を停車させた。
「い、いや、あの、それは…… 」
言い訳にもならない、皆本の無様な言葉に薫は、怒りなど浮かばず、逆に失望感を覚える。
「私の事が嫌い ? 」
「嫌いじゃないさ、薫は、僕にとって大切な------ 」
「大切と思ってくれるなら、抱いてくれてもいいじゃない ! もう、私はとっくに結婚できる年になっているんだし、誰も文句は言わない」
訴えかけるように、薫は皆本の肩に手を置きながら、自分を女として見てくれるように叫ぶ。
その姿に、皆本は薫から自分を抱いて欲しいと恥を忍んでまで、訴える姿を見て、自分が更に不甲斐なく最悪な人間だと自らを叱咤する。
自分がリードする立場でいなきゃいけないはずなのにと。
「私は、皆本と本当の恋人になりたい…… 心と身体を分かり合える…… だから、…… お願い…… 」
流石に、こういう言葉を言うのに、抵抗という恥じらいが強い薫は最後の語尾が消えそうな程に俯き、
小さく肩を震わせている姿に、皆本は激しく胸を揺さぶられながら、薫はとても愛しく可愛らしく映った。
そして同時に、女性として初めて見えたのかもしれない。
この女性を抱きたいと。
「薫…… 」
俯いた薫の頬に手を置いて、皆本は軽く彼女にキスを与えた。
いつもは、薫からの請求で与えていたものであるが、今は自らの意思で与えている。
今与えられたキスは、今までとは違い、深く熱さを抱いたものであると薫には、感じられていた。
「ゴメンな薫…… 僕が間違っていた。君を大人の女性として付き合っているのに、君を大人として扱っていなかった。
傷つけてばかりで僕は駄目だな、本当に…… 」
自分の鈍感と、不甲斐なさに自嘲を浮かべている皆本に、薫は微笑を浮かべながら彼を抱きしめるように彼の背中に手を回し包み込む。
「本当に、鈍感なんだから皆本は…… でも、分かってくれただけで、私は嬉しいよ。
私は、待っていたんだかっらさ…… もう一度聞くけど、返事聞きたい…… 」
皆本の耳元で、ささやくような甘い声で薫は、もう一度尋ねるのだが、その吐息が妙に官能的に皆本の男性さをくすぐる。
正直、相当なまでに薫に対し、女性を感じ求めたい欲求が膨れ上がりつつある。
「君が欲しい…… 薫。今日は、帰さない…… 」
迷う事無く、皆本は自分の本心を薫に告げた。
「ありがと、皆本…… 私も、今日は帰りたくないから、何処かへ連れて行って、一緒に夜明けを見よう…… 」
車は再び、動き始める。
その行く先は、どこに行くのかは分からない。
だだ、夜明けを共に迎える場所であるのだけは分かっていた。
書き逃げ逃亡。 2010.4.12 ブログに掲載 4.13一部加筆修正。
ブログに、何も考えずに惰力のままに書いた突発SSを転載しております。
余りにも奥手な皆本に、薫が自ら誘い受を頑張る話…というか、そのまんまですね(苦笑)
こんな話になったのは、C名先生のつぶやきでの、『待ってたんだよ…皆本』BY ラブ●ラスぱろな、語り。
ま、待っていた内容は別な物を待っていたいたというオチですが(爆)
いざという時に、影で薫が頑張っている羽目には、実際にはならないで欲しいですけど(苦笑)
なお、この話は、すん様に捧げております。
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