かけがえのない仲間。




※43号ネタがあるのでご注意!




 終業のチャイムが鳴り響き、小学校の校門から吐き出されるように子供達が元気よく外に駆け出している。

 授業も終わり、薫、葵、紫穂の三人と男女を混ぜた級友達と帰途に着いていた。

「あー今週も終わったね」

「そうだね、明日は何をしようかな〜」

 たわいの無い会話をしながら、一同は帰宅路を歩いている。

 いつもと変わらない週末の午後。

 薫達も、何かの話題で笑い話しあっている。

 そんなまったりとした空間を過ごしながら、とある一角を通り過ぎようとした時だった。

「あ、あれ、明石秋江じゃないか ? 」

 ふいに一人の男子が立ち止まると、

頭上にある繁華街の大型液晶ビジョンに映し出されている映像を指差す。

 その言葉に、薫は思わず身体がすくむと同時に反射的に指差された方向に顔を向けた。

 そこには、普段あまり顔を会わせることのない母親の姿がある。

 そしてその横には、姉の好美の姿も。

 どうやら、何かのトーク番組での母娘でゲストとして呼ばれたらしい。

(母ちゃん…… 姉ちゃん…… )

 薫は久方ぶりに二人の顔を、画像を通して見つめる。

 一応は同じ家に住んでいるとはいえ、多忙な芸能人である二人とは、

すれ違いの日も多く、薫もまた基本的に皆本の家にいることもあり、

顔を合わせるのは月に数回程度なら多いほどなのだ。

 最近は、二週間以上前に顔を少し合わせた程度に過ぎなく、

会話らしい会話をあまりしていない。

 番組でのトーク内容では、母娘関係のお笑い話や失敗談などの小話が中心で、

コミカルな会話で番組は進んでいる。

 二人にそんな事があったということ自体、薫には初耳な部分が多かった。

 家族なのに、知らないことばかりの多い家族---------

 そう考えるだけで、気分が重く沈んでしまいそうになる。

 複雑な思いを抱き、画面を見つめていた薫の隣にいた花井ちさとが、こう話題を投げかけた。

「ねえ、明石さんって、あの二人になんとなく似ていない ? 苗字も同じだし、身内とか親戚 ? 」

 その言葉に、薫は一瞬ギクリとなる。

 薫たちは特務エスパーであるゆえに、

家族構成などは全て国家レベルの極秘機密扱いにされている。

 自宅さえも機密となり、まして有名人の子供が特務エスパーだという

事実を世間に知られるわけにもいかないのだ。

 それゆえに、普段から秋江の子供であるという薫の存在は一部の人間でしか知られていない。

 公共の場で顔を合わせてしまっても、他人の振りをしなくてはいけないのだ。

 それが、お互いにとって、どんなに苦痛を感じているか計り知れない。

 プライベートなどは家族で出かけたことすら、殆ど無い。

 出かけたとしても、常に公安や政府の目の届いた場所に限られている。

「そうかな ? でも、あんな有名人に似ていると言われるだけラッキーかな。

だいたい身内や親戚なら、もっと私立のいい学校やら、豪邸に住んでお嬢様生活しているよ。

苗字一緒ついでにあやかれるものなら、あやかりたいけどさー」

 笑いながらここでも、あくまで他人の振りを薫は演じる。

 でなければ、自分どころか、家族にも迷惑と危険が降りかかるのだと。

 そうしなければいけない境遇が、正直心苦しい。

「そうだよな〜、だいたい、明石秋江って娘の好美だけと住んでいるというし、

他の家族の話は聞かないもの」

「あぁ、昔、旦那の暴力で別れたと、母ちゃんが言っていたな」

 次々と周囲が自分の家族の事を話し続けることに、薫は更に胸を抉られながら堪える。

 本心では、何も知らない連中が勝手に我家の事を口にしないでと、怒鳴りたい思いで一杯だった。

 それすら出来ない自分の立場が、何よりも歯痒く辛い。

 それも全て、自分の生まれ持った能力のせいである罪の意識は消す事が出来ない。

 家庭が崩壊してしまったのは、自分のせいであると幼い心に強く残酷なまでに刻まれていたのだから。

 自分のこの力さえなかったのなら、母親も傷つけず、父親も出て行くこともなかったのだと。

 常に心底に抱きしまいこんでいる過去が、薫の中で湧き上がるのを堪える。

 この場から逃げ出して、大声で泣き出してしまいたくなるように。

「マスコミ情報と事実は違う事はよくあることなのよ、

むやみに人の家の家庭事情を面白半分に想像して話すのはやめたほうがいいわ」

 この場を見かねて、紫穂が話に割り込み制止する。

「そうや、有名人だからと面白半分に言えるけど、

それが自分や身近な人の事やったら、皆、言いたくも聞きたくないと思うんや」

 葵もまた薫とは無関係のように、周囲に注意を促す。

 二人の言葉で、周囲はそれ以上の事は何も出なかった。

 事情を知っている二人だからこそ、針のムシロの立場にある薫を救い出したかった。

 友が、心を殺して笑っている姿など見たくは無いからと。

 そんな二人の優しさが、薫には何よりも暖かく救いのある存在に他ならない。

 同じ思いを経験しながら支えあってきた親友だからこそ、何よりも見ていられなかったのだ。

「薫、気にすることはないで」

 話題が尽き、共に下校していたそれぞれが自宅に向かい別れた後に葵は、薫にそう話しかけた。

「大丈夫だよ。気にしてなんかいないから…… 皆も事情を知らないから、仕方ないよ」

 何でもない素振りをみせて笑っている薫なのだが。

「その割には、あの時逃げ出そうな顔をしていたように私は見えたわ。

私達の前までやせ我慢しなくてもいいのよ ? 」

 全てをお見通しの紫穂は、薫の無理している行動を指摘する。

 この二人には隠しきれないと、素直に薫派はため息を吐きながら、無理していた笑顔を崩す。

「さっきは、庇ってくれてありがと。

確かに目の前で自分の家の事を好き勝手に言われるのは確かに腹立つけどさ…… 

皆だって悪気があってじゃないからいいんだよ。それに実際、

一部は事実なんだし。それにあたし達は、特務エスパーだからさ……

 色々、我慢しなくてはいけない事もあるだけだから。

母ちゃんや、姉ちゃんにも時々は顔を合わせるだけでもいいとあたしは思っているよ。

会えるだけで幸せだから…… 母ちゃん達は、あたしよりも色々大変で辛いと思うし……

 お互い辛い時もあるけど、それは葵や紫穂も同じだからさ、

あたしの気持ちが分かってくれる人がいるだけで、救われている。

皆本や二人がいてくれているからこそ、あたしはあたしでいられると思うんだ」

 本音を吐露しながら、薫は二人に感謝の礼を述べた。

 事実、幼い頃二人に出会わなかったら、おそらく自分は今でも孤独に陥っていたのだから。

 支え会う仲間がいたからこそ、今の自分を作り上げる事が出来た。

 家族の繋がりとはとは違う、もっと大きく強い繋がりを薫は二人と皆本に感じている。

「そうやな、薫。うちも同じ気持ちや…… 

うち薫と紫穂がいなかったら、ずっと他人どころか、

家族すら顔を合わせるのも怖かった…… 二人に救ってもらったのはうちの方や」

「私も同じ…… パパ以外に私に触れても嫌がって怖がるところか、

逆に抱きしめてくれたのは二人と皆本さんだけだったもの…… 

初めて会ったあの日がなければ、

私達はずっと自分が嫌いで自分の殻に閉じこもっていたままだったかのだから。

出会ったあの日に、私達のお互いの扉を開く事が出来たのだと思う。

傷のなめあいと言われるかもしれないけど、

どんな形でもこの痛みを分かってくれるのは二人と皆本さんだけだから」

 葵と紫穂もまた、幼き過去を思い出しながら、感慨深く語る。

 同じ気持ちを抱いている二人の言葉を聞き、薫は胸の奥が熱を帯びる。

 絶対唯一の存在である二人を愛おしく、今まで以上に感じた。

「そうだね…… あたしは、それだけで十分だよ。三人がいるだけでさ-------

 初めて出会った日のように、薫は二人を背中から優しく包み込むように抱きしめた。

 温もりと安らぎに満たされながらお互い、その思いを分かち合う。

「帰ろう、あたし達の大切な奴のいる家へさ」

 笑顔で、そう薫は二人に語りかけるのだった。

「皆本、ただいま--------

 居候している皆本のマンションにたどり着くと、

台所で夕食の支度をしている彼の姿を見た途端に、薫は念動力で自分の身体を浮かばせながら、

元気一杯にその胸に飛び込む。

「うわっ、薫、なんだいきなり」

 帰宅の挨拶と同時に飛び込んできた薫には、さすがに皆本も驚きながらも、

その身を両腕で受け止める。

「いいじゃん。ただいまの挨拶だよ。それとも、ただいまのキスの方がいいとか ? 」

「ば、馬鹿な事を言うなよ。普通に言えばいいじゃないか」

 薫のからかいに少し困惑している皆本は、どこか照れている。

 じゃれあうような会話でも、薫には、心癒される触れ合いには変わりない。

「ちょっと、薫。いつも言っているやろ ! 抜け駆けは厳禁や !! 」

「薫ちゃん、ずるいわよ 」

 膨れ顔の葵と紫穂は、少し遅れを取りながらも、葵の瞬間移動で二人して、

皆本に背中と肩に抱きついた。

 まだ子供とはいえ、三人揃って抱きつかれると、さすがに皆本も支えきれずに、

よろめくのだが、それでもなんとか踏みとどまる。

 何故、今日に限りこの子達が、自分へこんなに触れ合ってくるのか理解できないのだが、

それでも慕ってくれている事は、確かなのだからと素直に喜んでいる。

 一年前まで三人以外、誰とも心を開こうとしなかった彼女達がここまで、素直になり、

なおかつ彼の中でも、年端の行かない三人に教えられる事も多い。

至らない部分をお互いに助け合っている事を認めている。

 彼女達のいない生活には、戻れないなと苦笑するほどに。

 自分も、本当の所、大人とはいえない部分もあり、共に支え成長しながら生きているのだと。

 だからこそ、この子たちの行く末を自分が導かなければいけない。

 

未来に何があろうと、この子達を信じている。

 そして、何よりも愛おしい存在の三人なのだから。

 いつか自立する日が訪れる日が来るまで、守り抜かなくてはいけないのだと。

「おかえり」

 優しく三人を言葉で抱きしめながら、彼は微笑むのだった。



    
                                 終。
                               2007/09/30                          

  





  
43号の三人の関係に感化されて、書いてみたももの、

  あまり深みの無い話になってしまいましたorg

  104話の素晴らしさは、今の自分ではパロりきれません(苦笑)

  もっと薫達の幼い頃からの傷を掘り下げようとしましたが、
 
  表現不足で、消化不良。

  絆の深さも全然だったですし(汗)

  もっと精進します。

  今回は、皆薫じゃなくて薫中心で、チルドレンと皆本話のつもりでしたが、

  微妙に皆薫ティストがあるのは、気のせいにしといて下さい(爆)

  なんだかんだと書かないと、気がすまないらしいです。

  うちの薫さんは、何よりも家族というものに飢えております。

  血の繋がるとかを凌駕して、いつも自分の居場所を与えてくれる場所に。

  じゃないと、孤独で自分を支えきれなくなるほど凹みます。

  20歳薫は、それを抱いたまま皆本の側を離れてしまいますので、

  なんだかんだと、弱さが見え隠れてしまうのかもしれませんな。

  自分が、仲間を支え救ってやらなくてはいけないと、思っている

  のですが、本当はその逆。

  支え救ってあげる使命を抱く事で、自分を支えているのらしいです。

  本当は自分自身を支えて欲しい人を求めているのに(苦笑)

  だから10巻で、葵と紫穂を迎えにいったらしい(自分的思想)

  そんな話を、うまく表現して書けたらいいんですけどね。

  他の続き物の話の方で。

  

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