『ぬくもり』



※サンデー46号 モロネタバレですの注意!!



 夜も更け、静寂に包まれている時間帯なのだが、皆本はまだ起きていた。

 処理するべき仕事などを自宅に持ちこんで、処理していたのだが。

 一息付こうと、キッチンでコーヒーを淹れ自室に運んでいる途中、

ふと話し声が彼の耳に入りこむ。

 声の元は、チルドレンの部屋からだった。

(まだあいつら、寝ていないのか…… こんな時間まで起きていたら、朝起きられないぞ)

 あまり子供には夜更かしをさせたくない皆本は、

三人に注意を促そうと声を掛けようとしたときだった。

「どうしょう…… まだ全然眠れそうもないよ。このままじゃ、朝になっちゃう」

 少し焦り気味の薫の声が聞こえる。

「今からテンション上げすぎよ。そんなんじゃ、明日持たないわよ」

「でも、薫の気持ちはよく分かるわー。うちかて、

明日が楽しみで胸が今からドキドキ言っているさかい」

「葵もそうだろ ? やっぱり、そうだよね」

 比較的冷静な紫穂に比べて、葵もまた明日の期待に胸を弾ませている様子。

 やれやれと言った感じで、紫穂は苦笑を浮べながらも、

隣に寝そべっている二人の気持ちには同感できていた。

「だってさ、初めてじゃん…… 学校で遠足に行くのってさ。

去年は、突然の任務でいけなかったし…… 今年こそは、絶対に行きたいし、遊びたいよ」

 昨年の遠足に参加できなかった薫は、当時の事を思い出しながら少し残念そうに語る。

 その言葉を部屋の外から聞いていた皆本の耳にも入り、胸が痛む。

 確かに昨年も参加出来る予定だったのだが、直前に任務が入り参加出来なかったのだ。

 当時、三人の不機嫌そうな顔を見ながら、『これも任務なんだ、我慢してくれ』と、

謝りながら、なだめた記憶が未だ色濃く残る。

 レベル7の能力者ゆえに、昨年まで学校にも行けなかった彼女達が、

初めて経験する同世代の仲間達と、普段の生活から離れて遠出する楽しみを奪ってしまった事に、

強い罪悪感があった。

 それは皆本にも、同じような経験はあるのだから、三人の気持ちはよく理解できるのだが。

 だからこそ、明日は任務が入らないようにと、彼もまた強く願っているのだ。

 大人たちの中で育ってきた彼女たちが、

同世代の子供たちと素顔で触れ合うことが出来る貴重な時間を守りたい。

 それが彼女達が、普通の子供らしく成長していける事に繋がるのだと。

「でも、薫ちゃんは、遠足だけじゃなくて、半分は皆本さんのお弁当が楽しみで仕方ないんでしょ ? 」

「そやそや、あそこまで皆本はんに、せがんでいたくらいやし、

皆本はんの手料理、本当に美味しいからな」

「そんなの当然じゃん。遠足に出かけて手作りのお弁当がなければ、

遠足の醍醐味にならないよ。お弁当に憧れていたんだから、いいじゃん」

 顔を赤らめながら、薫は手作り弁当にかける意気込みを二人に話し掛けている。

 そんな薫の姿に、二人は思わず笑いがこぼれてしまうほど、薫がなんとも可愛らしく映る。

 周りからは手作り弁当など些細な事かもしれないだが、薫にとっては、

それが何よりも大切な物だと感じていることを二人は理解している。

 それは、彼女たちとて同じ気持ちなのだが、一際、薫が強いのも確かだ。

 家の都合で、家庭の味を知らずに育った故に、尚更恋しがっている。

「でも、皆本さん、適当の中身しか作らないって言っていたのが、

少し残念ね。皆本さんほどの腕前なら、何でも作れるのに」

 美食家でもある紫穂は、その点だけは残念がっている。

「どんな中身でも、あたしはいいよ。皆本の真心が入っていればなんでも」

「そうやな、気持ちが一番や…… それがご馳走かもしれん」

「そうね、皆本さんが何を考えながら作っていたのも、楽しみの一つだし」

 部屋の外で皆本は、三人の会話に、嬉しさに胸を打たれると同時に、

余り思い出したくも無い彼の少年時代が脳裏に思い出された。

 まだ、彼が特別カリキュラム授業を受ける前、普通の小学生だった頃の事を。

「おい、皆本の弁当って、コンビニ弁当詰めただけだぜー 

母ちゃん、作ってくれなかったのかよ、可哀想だなー」

 周囲の同級生達から、馬鹿にしたような嘲笑の笑い声が上がっていた。

 楽しみにしていたはずの遠足なはず、しかし、この頃の皆本には楽しいとは思えない行事の一つだった。

 当時の皆本の両親は昼夜構わない共働きで多忙ということもあり、

遠足だからと弁当を作ってもらえるような時間が無かった。

 我がままを言って、作ってもらおうという気持ちはあるものの、

周囲の子供より親達の立場を理解していた彼は、

自分の我がままで余計に母親を苦労させてはいけないという気持ちが強く、何も言わないでいた。

 親達も、頭が良く聞き分けのいい子として見てしまい、彼の本音に気付く事も無い。

 だから遠足の際も、あらかじめ購入しておいた弁当の惣菜を入れてきたのだが、

それはすぐに級友に見破られてしまったのだ。

 特に同世代より多様な才能に群を抜いて秀でていた彼を妬む連中によって、

この話を周囲に大きく広げられてしまい、恥ずかしさと悔しさで人目も憚らず、

泣き出してしまった悲しい記憶。

 それでも彼は、母親にそれを言わずに黙っていたのだ。

 そして、悔しさをバネに、自ら料理することを望むことになる。

「わぁ、光一君のお弁当、凄く綺麗で美味しそう」

 それからしばらく経過した弁当の日、彼の弁当箱の中身を見て、周囲は賞賛の声に上がる。

「皆本君のお母さんって、料理上手なんだね」

「う、うん…… いつも忙しいけど、今日は頑張って作ってくれたんだ」

 嬉しそうに笑う皆本だったのだが、それは作り笑いでしかない。

 本当はその弁当を作り上げたのは、母親ではなく彼自身であったから。

 級友達に馬鹿にされないようにと、努力を重ねて料理の腕を磨き上げた。

 元々、何でも器用に素早く出来る彼だったのだが、それでも失敗は数知れない。

 その日も、彼の両手の指には多くの絆創膏が見かけられていた。

 しかし指先の傷の痛みよりも、見栄を切って母親が作り上げたと嘘を吐く、

自分の心が一番に痛み、虚しさばかりが胸に募っていた。

 過去の自分の記憶を思い返しながら、皆本は決して彼女達には自分と同じような思いはさせたくは無い。

 薫の手作りの弁当にこだわる気持ちは、皆本には痛いほど分かるのだ。

 それは、家庭の愛情を求めている心の本音。

 自分が得られなかった事を、彼女達には与えてあげたい。

(今夜は徹夜になりそうだな…… )

 その願いを出来るだけ適えてあげたいと、彼は静かに部屋の前から去ると、

足早に再びキッチンに足を向けるのだった。

「ありがと、皆本さん。帰ったら、感想をじっくりと言わせてもらうわ」

「さんきゅーな、皆本はん。」

 翌朝、紫穂と葵の手に皆本が弁当を手渡している。

 二人が受け取った後、いよいよ自分の弁当だと薫は興奮気味で自らの手に渡されるのを待っていた。

「ほら、薫」

 そっけない態度で皆本は、薫の手に弁当を手渡した。

 受けとった薫の手の中が、まだ作りたての暖かさに包まれるのだが、

薫にはそれが皆本の心の温かさに思えて仕方が無い。

 愛情という優しさが、暖かさのこの中に詰まっているのだと。

 そう思うだけで嬉しくて幸福で仕方が無い薫は、両手でそれ包み込むように胸の中で抱きしめながら

感動に奮えている。こうしてるだけでも、自分の胸の中まで皆本の温もりが伝わる気がしたのだ。


「ありがとう皆本 !! 」

 普段でも見せないような心底嬉しそうな、

無邪気な満面の笑顔を薫は皆本に向けながらお礼を言う。

「よ、喜んでくれればいいんだ」

 薫の笑顔を見て、皆本は思わず自分でも照れてしまいながらも、

彼女達が喜んでくれたことに、嬉しさを覚えている。

 この子達の笑顔を作る事が出来て、本当によかったのだと。

 いや、それは仕事とかという枠を超えて、皆本光一個人としての思いであった。

『じゃ、行ってきますー!!! 』×三人。

「気をつけて行って来いよ」

 元気よく愛情弁当の入ったリュックを背負い玄関から飛び出して行く三人に、手を振りながら皆本は見送る。

 何気ないことだが、こうして過ごしている時間が彼にとっても、

何にも代えがたい幸福な時間なのかもしれない。

 彼女達の子供時代は、あっという間に過ぎてしまうだろう。

 しかし、その限られた時間かもしれないが、出来る限りの愛情と、

温もりを与えてあげようと、彼は三人の姿を見つめながら思うのだった。

                             終。

                                              2007・10・18
                                                  10.19一部修正。



 皆薫話になる予定が、ほのぼの?皆本話になってます(汗)
 あり?薫のお弁当萌え話にするつもりだったのに。
 しかも、皆本三人娘の保父気分。
 いや、何気に母親も入ってるなー(爆)
 たまには、恋愛絡みの話皆無で、こういう話を書くのも
 凄く楽しいです。
 そ、それでも、何気に皆薫部分が入り込んでしまうのは、
 突っ込まないで下さい(汗)
 こういう奴なんです、自分は、書かないと気がすまないというか。
 本当は、その辺割り切って書いたほうがいいんだと思うんですけどね。
 自分でも皆薫に傾倒しすぎ視点だとは、熟知してはいるんですが。

 
 皆本少年時代は、もろ捏造。
 皆本少年話は、ネタのストックに入っているので、
 そこから少々使いましたが。
 皆本の幼少時代の描写が、皆無に近いので妄想捏造しまくるしか
 ないんですよね(苦笑
 ということで、うちの皆本は、このような生い立ちとなっております。
 自分で得られなかったものを、チルドレンに与えたいという思いを
 常に抱いている奴です。
 
 もろ、キャリー編に影響もされていますけどね。
 そのうち、皆本とキャリー話も書かねば。
 
 どうでもいいですが、皆本のお弁当…自分にも作ってほしいなぁ(爆)
 平日毎昼質素な適当な自家製弁当なんで…(苦笑)
 
 
 

 

 ブラウザの×でお戻り下さい。