呼び名〜その後のおまけ話。


 引越しの荷物も、まだ完全に片付かないである部屋の片隅で、抱き合っている妙齢の男女。
 
 そんな二人の目の前に、突如空間を歪曲させて二つの人影がそこに現れた。

 そして目前の男女------ 皆本と薫のラブシーンが葵と紫穂の目に飛び込んでくる。

「ほぉ〜、こんな昼間からいちゃついているとは思わんかったわ」

「仕方ないわよ、新婚なんだから------若いと 色々我慢できないんじゃないの」

 棘を含んだような口調で、皆本と薫に聞こえるように会話をする二人。

『紫穂、葵 ?! どうしてここに!!  今日は、用があったんじゃないのか  ?! 』

 突如現れた二人に、皆本と薫は声をはもらせるように驚き叫びながら慌ててお互いから離れる。

「どうしてって、決まっているじゃないの。二人が引越しするというから、お手伝いとお祝いをしに、

用事も、午前中で終わったんで葵ちゃんと連絡して来たのよ」

「そうや、いくら念動能力で引越しは楽だといえど、細かい事はやっぱ人が沢山いないと不便やろ ? 

だから手伝いに来たというのに、いちゃついているとは思わなかったわ」

 ここに来た事情を説明している二人なのだが、本音を言えば、瞬間移動で新居に行けば、おおよそ何かしら

いちゃついている姿が見れて邪魔できるという企みでもあったのだが、それは見事に成就する。

「手伝ってくれるのは、ありがたいけど…… せめて先に電話をくれるか玄関から来てくれよ君たち」

 バツが悪そうに皆本は、額にかいた冷や汗を手で拭う。

「そうだよ------- 本当は二人とも、わざと瞬間移動で来たんでしょ。だいたいの考えくらい分かるから」

 呆れ顔で薫は、二人の魂胆を見抜く。

「まあ、ご愛嬌と思って勘弁しぃ。手伝いに来たかったのは本当や、それに、二人に用があったのもある」

「そうそう、ということで、お茶でも飲みながら、その辺お話しましょうよ。皆本さん、私、紅茶」

「うちは、日本茶やで、あれば宇治茶でよろしゅう」

 二人は、そう言いながら半ば強引に降ろしたてのソファーに腰を降ろすと、飲み物を要求してくる。

 あまりの態度のでかい来客に、皆本と薫は苦笑を浮べつつも、悪気は無いのだと分かっているのだが。

「いいよ、光一、私が支度してくる。どうせ、私達もお茶にするつもりだったんだしね」

 やれやれと思いつつ、突然現れた来客にお茶の用意をと薫はその場を離れようとするのだが、

紫穂と葵は耳ざとい。

「ほぉ〜いつのまにか、皆本はんを、『光一』呼ばりになったんや。ほんま、ラブラブって感じやな」

「だって、あれだけ私達の目前で、見せ付けてくれていたもの。仕方ないんじゃないの ? 」

 まるで主婦の囲炉端会議のように、ひそひそと二人だけで顔を寄せて、このような嫌味を語る。

 勿論それは、薫達の耳にも入る。

「いや、あの…… これは、色々あってさ------ 」

 言い訳のように薫は、弁解をしたいようだが、言葉が出てこなくて口ごもる。

 その隙を突いて、更に二人が突っ込みとばかりに-------

「じゃ、折角だから私達も、『光一さん』って呼ぼうかしら。薫ちゃんも、『皆本』姓になったんだから、

呼び方がややこしくなりそうだし」

「そやな、うちも『光一はん』って、呼びたいわ。いいやろ、皆本はん ? 」

「別に、君たちがそう呼びたいのなら僕は構わないよ」

 紫穂と葵の提言に、皆本は特に異論も無く許諾する。
 
 そういうことに、気にしないあいからわず鈍感な皆本。

 が、しかし、それを快くなく思うのは薫だった。

(『光一』って皆が、呼ぶのを聞くのは、なんか嫌な感じがする…… どうしてなんだろう…… )

 得も知れない複雑で、理解しがたい感情が薫の中で湧き上がり渦巻く。

 それが独占欲からくる、嫉妬と自分では気付かない。

 そんな薫の態度の微妙な変化を紫穂と葵はすぐ気付き、小さく噴出して笑う。

「何、妬いているの薫ちゃん ? 」

「そ、そんな事をあるわけ無いじゃない、何言っているの紫穂」

「よういうわ、薫…… あんた顔にもろ気に食わないって出てるやん。あんた顔にすぐ出るんだから、

よう分かるわ」

 二人の態度に知らず知らずに嫉妬していたことを指摘され、薫は思わず反論するが、

顔に出ていることまでは気付かなかったらしい。

「皆本さんを『光一さん』って呼ぶのは冗談。本気にしなくても大丈夫よ、呼んでいいのは、皆本さんに選ばれた人

だけの特権でもあるんだから。だから私達は、これからも『皆本さん』って呼ぶから心配しなくてもいいわよ」

「癪だけど、皆本はんは、薫を選んだんだから、その権利は譲ったる。大事にしいや」

 少しまだ棘のある言い方をする二人だったのだが、皆本と薫の事を心底認めてくれているのも伝わる。

 しかし、紫穂も葵も薫と同じように、皆本の事を子供の頃から慕い恋慕を抱いていたのは同じだった。

 なのに、選ばれたのは自分だったという二人に対しての贖罪の念を常に抱いてもいた。

 そんな薫の内心を、精神感応能力で紫穂が、軽く彼女の手を取り読み取る。

「薫ちゃん、それは考えすぎ。私達はそんな事を思っていないわよ。そりゃあ、子供の頃から三人で皆本さんのことを思ってきたのは

確かだけど、あの頃は純粋に私達を大切にしてくれている唯一の大人である皆本さんだから、同じように好意を抱いていた。

けれど、それは恋心だけであって、そこから愛情に育てられたのは、薫ちゃんだけだもの。

10歳の頃から、今に至るまで一時は離反したり、色々あったけど、薫ちゃんの中では、

ずっと皆本さんがどこかにいた。それは、皆本さんも同じ。惹かれあっているのに、

お互いが背を向けあっていた少し前までは、私達から見ても痛々しい所があったわ。でも、今は違うじゃない、私達よりも誰よりも

自分を理解してくれる存在が側にいるんだから、私達の分も合わせて大切にしてもらわなくちゃ」

「うちらは、薫だからこそ、皆本はんを、皆本はんだから、薫を託し認めれるんだから。うちらのこの気持ちを忘れんといてや」

「紫穂…… 葵…… 」

 幼い頃からの友の暖かく力強い言葉に、薫は深く胸に感銘を受ける。

今まで自分が、二人に抱いていた贖罪の思いが微塵も無く消え去っていく。

 ふと葵が薫の目の前にしゃがみこむと、彼女のお腹を優しく触れながら、その表情も柔和な優しさを浮べる。

「それに、この子は、うちらにとっても未来の希望なんやで。

例えエスパーで生まれたとしても、誰もそれを咎めることも恐れる事も無い時代に生まれる子や

うちらは、皆本はん達と共に大切にこの子を見守ってやりたいと思っとる」

「今まで色々な痛みを背負い続けてきた皆本さんと薫ちゃんには幸せになる義務があると思う。

この子には、今まで経験してきたような、決して同じような思いをさせてはいけないという気持ちを持っていることが、

大きな手本となるから------だから、絶対に幸せになってね二人とも。

そして、今までなかなか言えなかったけれど、二人とも結婚おめでとう」

 屈託の無い笑顔で紫穂は、心の底から二人に祝福の言葉を述べた。

「うちからも、おめでとうと言わせてもらうわ。幸せにならんと許さんで !! 」

 葵もまた満面の笑顔で、二人に祝福を告げる。

「ありがとう…… 紫穂、葵…… 」

 思いがけない二人の祝福の言葉が、薫の心の琴線に触れ、その瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

 誰よりもこの二人に祝福される事が、薫には最高の贈り物であった。

「ほらまた泣く------  薫はほんま、涙もろいな」

「それだけ、素直な子なのよ薫ちゃんは…… そういうところは、本当に昔から変わらないわね」

 そう言う葵と紫穂だったが、そんな二人も薫につられて、うっすら瞼に涙を浮べている。

 薫は二人を包み込むように、両手で抱きしめる。

 幼い頃からの友情は変わりなく、更に深く絆が強まったのだと感じる。

 どんなことがあろうと、この友情の絆は永遠であるのだと。

 そんな光景を皆本は、嬉しくそして暖かく見守るのだった。










「いい感じですまんけど、そういやここに来た本来の理由を忘れるところだった」

 抱きしめあっている中、葵がふと何かを思い出したかのように呟く。

「何の用だったの ? 」

 薫もそれを思い出し、何の用だったのかと尋ね返す。

「それはね、式も何もしていない二人のために、私達からの結婚祝いとして、挙式をプロデュースさせてもらうことにしたの」

 先ほどまでの素直な笑顔の紫穂から、なにか裏を感じさせる笑顔に豹変する。

「えっ、そ、そんなの、いいって------- 私達、そういうの興味ないというか、苦手だから------ 」

「そうそう、籍だけでいいんだ」

 目を丸くして、薫と皆本はその提言をやんわり拒否するのだが------ 。

「あかん、もう既に式場は予約済みや。後は、どのプランにするか決めさせるために来たんやさかい。とりあえず、これ見いや」

 葵は瞬間移動で山のように、式場プランのパンフレットを二人の目の前に積み立てる。

「薫ちゃんには、どのドレスが似合うかしらね。以前のように、ロングヘアーだった頃ならいろんな髪型も出来たけど、今は短いし。

それは、またエクステでなんとかなるとして、最低3回はお色直ししたいわね」

 既に紫穂は、二人の意見を無視してパンフレットを物色し始めている始末。

「今予約をキャンセルなんかしたら、違約金は全部皆本はんもちやで、もっとも最初から挙式・披露宴の代金は皆本はん持ちやけど。

あくまでうちらは、プロデュースだけや。某大女優と芸人の豪華結婚式に負けないような規模でやらんとな------ 勿論、代金はうちが、

格安にまけさせたるわ、だから安心しや」

 葵もまた勝手に資金のプランニングをし始めて、二人の意見を聞こうともしない。

「光一…… どうしょう…… あの二人を止めれる ? 」

「無理かもしれない…… それ以前に、そんな金、僕は持払えない…… 」

 呆然と、薫と皆本は、勝手に話を進めている紫穂と葵を目にして困惑呆然となるのだった…… 。

 果たして、この先どうなったのかは誰にも分からない…… (おいおい)


                                                               誰にも分からない展開で終了(おいおい)


 おまけ話を含めて、『呼び名』完結です。

 なんか、本編よりもおまけの方が長くなった気が(苦笑)

 しかも、最後はギャグです。
 
 というか、これを書きたかったために書いたネタ。シリアス部分は本当は無かったんですけどね(汗)
 
 このネタ、本当に某女優と芸人の挙式を見てて思いついたネタです(爆)

 元々、このオチで終わらせる予定でしたが、思わず紫穂が美味しい役どころに行ってしまいましたが(笑)

 先日、オフィシャルで薫裏設定で離反以前は、ロングだったという設定を少々使わせていただきましたー。

 この設定早く本編で出ないかなー。
 
 薫達の中坊時代って描かれるのか? どうもキャラを成長させていくつもりみたいですので。

 またその辺が描かれたら、その辺のパロも書いてみたいと思います。

 全て終わった後の幸福時代の夫婦話も、結構ネタはあるんですが、すが、それはこれまた本編での設定が

ある程度出てきた後にでも。

 先走りすぎて書くと、色々自爆することが多いんで(苦笑)


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