コミックス9巻のネタです。
★乙女心なチルドレン。
ここは、東南アジアと、中近東に近隣しているエキゾチックな国、インパラヘン王国。
この国の皇太子による外交圧力なご招待で、チルドレン三人娘&皆本&蕾見管理官は、
はるばる日本を離れ、任務でこの地にいた。
そしてこの夜の王族を招いてのディナーを催すということで、
薫・紫穂・葵の三人は、ドレスアップするべく、
専属のスタイリストや、ヘアメイクの方々を与えられ豪華なメイク室で用意にいそしんでいる。
「あ、これなんかいい感じやなぁー うち、これにするわ」
嬉々とした声で、数多くある用意されたドレスの中で吟味を重ねて、葵は一つに決める。
「私も、これにするわ。それと、髪はこれに------- 」
紫穂もまた、複数のめぼしのつけたドレスを試着したのち、
一つに絞り上げるとメイク担当の女性に自分の希望の髪形を告げている。
要領よく自分の身だしなみを仕上げていく二人だったが、そのテンポに一人残されている者もいた。
「完璧ってまではいかんけど、これくらいやなー」
「そうね、まあまあというところかしら。でも、これ以上は無理そうだし」
葵と紫穂は、衣装もヘアメイクも仕上がった後、全身鏡で出来上がりを確認している。
「ねえ、薫ちゃんは、どんな感じ ? 」
今まで自分の支度にばかり夢中になっていた二人は、薫の事を思い出し、彼女のいる方を向く。
「か、薫…… まだ、あんた着替えてないんか ?!」
山積みにされたドレスの前で右往左往して、
まだ何も着替えていない薫を目にして葵は目を丸くして驚き指を指す。
「え、ええと…… なかなか決められなくてさあ------ どれがいいのか分からないんだ」
苦笑を浮かべながら、衣装を決められずに薫は困惑していた。
葵と紫穂は思わず、脱力感を覚えながらも、やれやれとした表情を浮かべる。
「服を選ぶのに時間かけるのもいいけど、こりゃちょっと掛かりすぎやん」
「だってさ------ どれが一番似合うか迷うんだ」
更に、恥ずかしそうに戸惑う薫を見て、紫穂は微笑む。
「どれにするか迷っているのもいいけど、一つここで私がアドバイスしてあげるわ。
女の子がお洒落をしたいときって、誰かに自分をよりよく見せて気を引き寄せたいからでしょう ?
その誰かに見せてもいいと思う服をイメージしてみるといいと思うわ。私はそうして選んだんだけど」
「そや、それと自分を一番輝かせる事が出来ることもな」
「見せたい誰かの為に…… ? 」
きょとんとした面持ちで、薫は紫穂の言葉の意味が心に響くと同時に、
迷っていた気持ちが晴れたような気もしてきていた。
そして、今、誰にドレスアップした自分を見てもらいたいのかというのは、瞬時に心に浮かび上がる。
それだけは間違える事はない。
それはたった一人のあの人だけなのと-------
薫は衣装の中から、一枚のドレスを手に取る。
少し大人っぽく肩を出し黒く花びらのようなスリットが入っている。
不思議な事に、今までなかなか決まらなかったのに簡単に決まってしまったことに
自分でも驚いているのだが、
二人のアドバイスにより決まったようなものであることに、薫は感謝した。
「あたしはこれにする…… 二人もありがとう」
「礼なんていわれるほどでもないでー単に、
ライバルに少しは塩を送ったるのも必要やん」
「そうよ、私達皆、皆本さんの為にお洒落を頑張っているうだから。同じ土俵で勝負したわ」
二人は微笑みながらも、さりげなく皆本狙いのライバル宣言をする。
それにはさしもの薫も、苦笑いを浮かべるしかなかったのだが、
同じライバルであっても、それ以前に三人は仲間であり親友だった。
だからこそ、差をつけるのではなく同じ立場で、勝負してくれることに更なる感謝を覚えてしまう。
「さて、衣装も決まった事だし、どうせなら髪型もかなりいじった方がいいと思うの、
これ付けたらいいんじゃないかしら ? 」
「それ、うちもいいと思っとったんや。これ付けたら、えろうイメージ変わって面白そう。
な、薫いいと思わんか ? 」
今度は髪型の方に二人は口出しはじめ、ヘアメイク達と話しこんでいる。
「あ、あたしは、別にこのままでも------- 」
『そうはいかない(で)(わ)、薫(ちゃん)− !! 』
「そりや ! 必殺、服だけ瞬間移動 !!
「わっ、葵、何を !! 」
瞬時に薫の着ている衣服が、下着以外消し去り葵の手元に届く。
葵の得意とする技である。
「何をって…… これから薫ちゃんの着せ替えをするに決まっているじゃない。
じゃ、皆さんお願いします」
紫穂は天使のような、小悪魔な微笑で、そうお願いするのだった。
その声を合図に、封数の大人の女性達が薫に群がり、一斉に支度を開始する。
「葵と紫穂の馬鹿―っ !! 」
薫の怒りに満ちた叫びは、虚しくその場の騒ぎにかき消されてしまうのだった。
「素敵じゃない薫ちゃん。似合っているわよ」
「ほんまに、予想以上にいい感じや」
強引な着替えがどうにか終わり、出来上がった薫の姿を見て二人は、にんまりと満足げである。
しかし当の薫は、無理やりだったので不機嫌で顔を膨らませたまま。
「そう怒らんといてや〜とりあえず、これで見てみい」
やれやれとした顔で葵は、物質瞬間移動でそんな薫の目の前に全身鏡を差し出す。
目の前に現れた鏡に薫の全身が映り、それを自ら目にした途端、薫の表情が驚きのものにかわる。
(えっ…… これがあたし ? )
いつもショーヘアーであった自分が、腰までのロングヘアーになり、
普段ではとても着ることのないような服を纏い、
少し大人っぽい雰囲気を作るために、軽く化粧をしている自分の姿に、
一瞬自分では無い錯覚さえ覚えてしまった。
「普段は、ボーイフィシュな薫ちゃんもいいけど、
本当はこんなに女の子らしさも服と髪型で出せるの。
女の子は、こうやって女を磨くのもたまにはいいものよ」
特に薫の身体に触れてもいないが、紫穂は薫の心情を察知して肩に手を置く。
「そ、そういうものかな…… なんか、自分で見ると照れくさくて------ 」
顔を赤らめながら、薫は少し照れて答える。
「そういうものよ」
優しく紫穂は微笑む。
時に、この友人は自分たちよりも遥かに大人な視点で周りを見渡し
理解しているんだと薫は感じるのだった。
それがレベル7の接触感応接触者である身の回りの環境にいたからだからという事もあるが、
紫穂自身の性格でもあった。
3人の支度がどうにか終えた時、丁度三人を呼ぶ使用人が現れる。
既にその場には、皆本や不二子もいるという。
紫穂と葵は、その場に向かおうと部屋を出ようとするが、薫の足は動かない。
「どうした薫 ? 」
「薫ちゃん ? 」
不思議がった二人は、薫の方を向く。
「あ、あのさーちょっとトイレに行きたいからさ、先に行っていてくれないかな…… 」
しどろもどろに明らかに、妙な口調で薫は二人に先に向かってもらうように頼み込む。
その薫の言葉が、嘘だと二人は即座に見破るが、少し口元が緩むのを抑える。
「分かったわ、薫ちゃん。じゃ、先に行っているわね」
気付かぬ素振りで、二人は部屋を先にした。
二人が去った後、薫は側にある椅子に座り込むと、深いため息を吐く。
そして先ほどから、何故か緊張したように胸の鼓動が早鐘を打っていた。
その理由は薫自身には分かっている。
「皆本に、この姿見せるのが恥ずかしいなんて言えないよな------ 」
苦笑を浮かべながら、薫は本音を吐露する。
その言葉の通り、皆本に自分の今の姿を見せることの恥ずかしさと、
反応を見るのが怖くて二人と一緒に行けなかったのだ。
紫穂や、葵は普段から女の子ぽさが出ていて、
学校の男の子達ににも人気があるのだが、自分にはその魅力が無いことも自覚していた。
だからこそ、こんな格好をしていても本当は似合わない気がして不安で仕方ない。
そう考えると胸がチクリと痛み、薫は自分の胸に両手を重ねた。
けれどもいつまでもこうして部屋に閉じこもっているわけにはいかない。
部屋を出る勇気が出せずに、薫はまた大きなため息を吐いた。
「薫の奴、結局皆本はんの前に出るのが恥ずかしいんやな」
使用人に案内されながら、その背後で二人は薫のことを話している。
「そうね、薫ちゃんって、強気で男勝りが売りだけど、
本当はとっても可愛くて女の子らしさがあるのを自分でも気付いていないようだし。
それにきて、自分の女の子らしい気持ちが理解できないから戸惑ってしまい不安なのね。
そんな、奥手でウブな所、私は面白くて好きだけど」
紫穂はさすがに長く薫と共に生活してきただけあって、よく性格を把握している。
「うちも、そう思うわ。でも、少しは大胆になった方がいいのにな。そや、いいこと考えた !! 」
葵は何かを思いついて、紫穂の耳元に囁く。
「それ名案ね。やりましょ !! 」
二人は、小意地悪な表情を浮かべるのだった。
「あらっ !! 可愛いじゃない !! 」
紫穂と葵の艶姿を見て、不二子は感嘆の声を上げ、
皆本は少し珍しそうなものを見たような顔をしているのだが、
その場に薫がいないことに気がつき、二人に尋ねた。
「ほら、おいで ! 」
それを合図のように、葵は瞬間移動で部屋にいる薫をその場に連れ込んだ。
部屋にいた薫だったが、いきなり周りの空間が薄れて歪曲するのを感じる。
これは、葵の力だと薫だと気付く。
強引に皆本たちのいる場に連れ出そうとしているのに気付く。
「あ、ちょ、心の準備がまだ------ 」
戸惑っているうちに、身体は既に皆本達の目の前に薫は現れる。
薫を目にした皆本は、あまりの変わりように目を丸くして驚いている。
薫がエクステをつけたことが気恥ずかしくて仕方なくて、顔を赤面させて言い訳をしている脇で、
紫穂が目を凝視して薫を見つめている皆本に事情を説明していた。
「ど、どーかな ? 皆本… 」
皆本が自分を見つめる視線がどんなものか、不安と期待で薫の胸は更に激しく鼓動を速める。
薫が皆本に言って欲しいのは一つだけだった。
『綺麗だよ』と……
しかし朴念仁の皆本の返事はこうだった。
「う、うん、いーんじゃないか ? 女の子にしか見えなくてびっくりした」
薫の中で深い胸の痛みとショックと怒りが湧き上がると同時に、
ブチリと何かが弾け、次の瞬間皆本を壁にめり込ませていた。
「女装じゃねえっ !! 」
怒りに満ちた薫は頭まで血が上り、皆本の為にこんな姿になったのを後悔する。
背後で皆本をフォローする紫穂と葵だったが、聞く耳はもたなかった。
実際皆本は、女の子らしくなった薫に照れながらも賛辞を送ったのだが、
本来の女心を掴めない口下手でこういう結末となる。
けれども、薫の姿を見て少しだけではあるが、
彼の中で何かがときめいたのは誰にも言えない秘密でもある。
まだまだ心身とも思春期に入ろうとしている薫、
そしてまだ少年ぽさがどこか抜けてない皆本。
この二人が、お互いを意識し始めるのは、まだまだ先のことである。
今日はまだ、そのきっかけと二人に立ち塞がるだろう壁に立ち向かう
一歩を進むことが出来ただけに過ぎない。
終。
す、すみません。単に、薫がロングヘアになり、
皆本の目の前に照れて現れる展開に萌えて
造ったネタです(苦笑) 07/0908 一部修正。
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