『サイコメトリーの正しい使い方 ? 』



「よう、遅いじゃないか ? 」

 賑わう店内の人ごみの中から紫穂の姿を発見した賢木は、

晴れやかに手を振って自分の位置を知らせていた。

「賢木センセが、来るのが早いだけじゃないの ? 

待ち合わせ時間から、そんなに経っていないとおもうけど」

 平然とこんな事を言っている紫穂なのだが、

既に待ち合わせ時間からは一時間以上経過していたりもする。

 彼女の中で、この程度は遅刻とは思ってもいないからかもしれないが。

 基本、男は待たせてこそ自分の事をどれだけ思っているか計っている節もあるのだが、

彼女の場合は単に、相手が彼だからと嫌がらせしているのだが。

「遅刻しても、そこまで正当化するとはね…… まぁ、いいさ。待つのは嫌いじゃないからな」

 これまた手馴れた様子で、賢木も気にすることなく笑い返していた。

「で、俺はここで何をすればいいんだ ? そのために元旦から呼びつけたのだろ ? 」

 目の前には、壮絶な女達の戦いが繰り広げられている。

 しかも彼女達は、店内の棚や床に山と詰まれた大きな福袋と

書かれた紙袋を幾種類も抱えきれないほど両腕に持つ。

「あら分かっているなんて流石じゃない。センセには、あれをハッキングしてもらいたいのよね」

 にこりと紫穂はほほ笑むと、視点の先を変え、とある機器に向ける。

「ESP検知器ね…… 最近はご丁寧に、こんな所にまであんなものを置いているのかよ」

 賢木もそれを見て、呆れたように舌打ちをする。

「そうよ。私達、精神感応能力者や透視能力者、

遠隔透視能力者の客だけが中身を知る事が出来るというのが、普通人から苦情が多いから、

こういう措置になったのよ。別にたいした物が入っているわけでもないのに」

「一応、店側も全ての客に平等にかつ、差しさわりの無いサービスを提供したいということかねぇ。

俺らの感情は無視しているようなもんだから、平等とも言えねーけどな」

 エスパー同士でしか分かり合えない本音トークを二人は小声で言い合っている。

 昨今、本当にエスパーの能力を抑制するような日常が多い。

 これは全て、普通人とエスパーが何の支障も無く生活していけるようにということだが、

所詮それは普通人の偏見じみた考えであり、エスパーから見れば不自由な日々でしかない。

 本当の自由というのは、普通人にも能力を恐れられることなく、抑制されずにいられる事だった。

 間違っても、今の情勢では不可能でしかないのだが---------

 周囲の思考が読める能力を持ち聡明で彗眼な二人には、ある意味この世界の限界を見切っている所もある。

 しかし基本的に、あまり深くそこまで思いつめない二人は、

それなりにこの世界を上手く自分の能力を利用しながら生きていた。

 レベルは違うのだが、唯一同じように理解できる相手でもあったのだから。

「私には店の事情なんて何も関係無いわ。あくまで目的は、限定の福袋。

あそこのブランドはセールしないから、毎年福袋でしか安く手に入らないのよね、

なのに、エスパーだからと入場制限されて手に入れられないなんて馬鹿らしいわ」

「だから俺に、君が検知器をくぐる瞬間だけ装置をハッキングして、

能力が発覚されないようにしろと
---------- あくどいことを考えるなんて、流石だね〜」

 ここまで晴れやかに悪女っぷりを見せ付ける紫穂の姿に、感心している。

 正直、普通の小悪魔の女よりも魅力を感じている。

 人の闇を知り尽くしてでもそれを利用しようとしている程の魅力に。

 彼もまた同じような面があるのだから、所詮、似たもの同士なのかもしれない。

「そのぐらいしても、構わないわよ。私達が日常制限されている苦痛と比べれば。じゃ、お願いね」。

「はいはい、わかったぜ。せいぜい、いい物を手に入れてこいよ」

 戦闘の繰り広げている空間に、紫穂は向う後姿に賢木はほくそえんで送り出した

「う〜ん、こちらの色もいいけど、こちらのデザインもいいわね…… 」

 目の前にある袋を次々に触れ中身を確認しながら、紫穂は自分の一番と思ったものを物色している。

 難なく検知器を通過した紫穂は、思い存分買い物に奔走していた。

 そんな彼女の姿を常に眼で追いながら、

隣にいる店員の若い女性ににこやかに巧みな口術で声をかけてナンパをしている。

 というものの、エスパーがペアで現れて検知器の本体を操作されないように一応側に人を

置いてあったために、彼女から気を反らすために声をかけたのだと、彼は自分で思っているのだが、

実際には一石二鳥とばかりに趣味を楽しんでいる。

 実際、彼ほどの精神感応レベルなら、装置の配線に触れるだけでもコントロールできるのだから。

「はぁ〜、いい物を結構買えたわね」

 満足げに紫穂は買ったと言う充実感に満たされている。

「そりゃ、よかったなぁ。これだけ買えば誰でもそう思うけどな」

 少し呆れた口調の賢木の両腕には、彼でも持ちきれないほどの紙袋。

 抜け目無く、紫穂は自分のバック以外を彼に持たせている。

 それが男の当然の役目とばかりに。

「男の人には分からないと思うわ、この気持ちは」

 クスリと、含み笑いを浮かべつつ、そう笑んだ。

 そんな彼女の笑顔が、彼にはたまらない。

 よくもまあ、こんな性格の歪曲した一回りも年の離れた女に惚れてしまったのかと自分でも呆れ返るほどに。

「で、彼女とは何を話していたの ? 」

 全ての荷物を車に積み込み夕食を取るために車で移動中、紫穂が突然そう尋ねる。

「何をって、誰の事だ ? 」

 唐突すぎて、何のことか分からず思わず運転中にもかかわらず振り向いて聞き返す。

「とぼけないでよ。私が買い物している間に店員の若い女を口説いていたでしょうが」

「見ていたのか。特に別にたいした事は話してないぜ ? 」

 買い物に夢中になっていた割には、常に賢木の行動を彼女もまた追っていたのだ。

 普段、そんな事を表情に出さない彼女の変化に賢木は少し驚くのだが、どこか嬉しい。

 それはあまり心を許すことをしない彼女が、ここまで彼を独占するかのように嫉妬してくれているのだ。

 それだけ、彼を意識し求めているのだと理解している。

 子供の頃、顔を合わせるたびに可愛くないガキだと思っていたというのに、

よくもまあこんな風に可愛らしく男心をくすぐるようになったのかと、彼自身も苦笑している。

 裏を返せば小生意気な、紫穂のような女性が好みだったといった方が答えなのだが。

「その割には、仲良く食事でもって誘っているじゃない」

 何気に紫穂は賢木へ触れて先ほどの様子を読んでいる。

「社交辞令だって。軽く断られていることも分かっているじゃないか」

 内面を読まれても平然な彼は、しれっとした態度で答える。

(紫穂ちゃんだって分かっているじゃないか、俺が最近は本気で口説いていないってことはさ…… 

それを嫌がる相手が、ここにいるんじゃ迂闊に浮気も出来ねーよ。それ程に俺を夢中にさせているんだ。お前は)

 言葉には出さず、あくまで心の中だけでそう紫穂に語りかける。

 お互いの能力で嘘も無く本音で話し合えるだからこそ出来る代物だが。

 そんな会話の仕方が、以外にも二人には心地が良く好んでいたりもする。

(当然じゃない、この私以外の女なんか興味持てるはずないじゃない。

私だって、センセを渡す気になんかならないわ)

「嬉しいねー、そこまで思われると」

 自分の気持ちを素直に話して思わず顔を赤らめている紫穂の姿を見て、彼は嬉しくて仕方が無い。

 普段生意気な彼女が、こんなにも自分の前だけで、素顔を晒してくれるのだから男としてはたまらないのだ。

「誰がこんな風にしたのよ」

「そりゃぁ、俺だねー」

 にやりと、彼は満足げにほほ笑むと、丁度信号待ちで停車中の最中

自分のシートベルトを素早く外し、助手席の紫穂の腰に手を廻すと彼女の唇を奪う。

「んっ…… 」

(ちょっと、運転中じゃない-------- ! )

 今の状況での行動に、さすがの紫穂も驚く。

(ここの信号は結構時間長いんだ。まあ、俺らなら十分この時間だけで満足できるじゃないか---------

 そんな事はお構いなしで、余裕な賢木は紫穂を絡めとりながら、

彼女が好み最もエクスタシーを達する場所を攻めていた。

 最も、彼の技巧に負けずと紫穂もやり返していたりもするが。

(今日のお礼は、今夜しっかりいただくぜ)

(ちょっと、勝手に決めないでよ。今日は、皆本さんと、薫ちゃん家に行くつもりなのに)

 勝手にこの後の予定を決められて少々紫穂は面白くない。

(元旦から押しかけても迷惑なだけだぜ ? 

どうせ、あの二人も今頃、仲良くしているんだからさ
---------- だから、今夜は朝まで俺に付き合うことに決定だ)

(もう…… 強引なんだから…… 仕方ないわね)

 強引な彼の行動なのだが、何故か受け入れてしまうのは紫穂もまたそれを望んでいるのだと

自分で苦笑しながらも理解していた。

 ただ、今自分が最も傍にいて欲しているものは、彼なのだと。

 子供の頃は、薫や葵や皆本に大いなる信頼と友情を抱き、それだけで自分には十分だったと思っていた。

 しかし大人になるにつれて、それとは別な物を求める自分の姿があることに気がついていた。

 それを求めた人は、結局彼女を選ぶことなく薫を選んでしまったのだが、

それでも彼女にも求め選ぶ人が現れてくれたのだ。

 見かけは軽く女癖は悪いのだが、本当の中身は本気の相手にはどこまでも尽くしてくれる真剣さを持っている。

 今は紫穂だけを見続けてくれることを誰よりも知っていた。

それが、賢木なのである。

 

 いつしか信号が青に替わり、背後の車からのクラクションが鳴り響こうが、

二人は未だお互いの世界に堕ちながら満たされ続けているのだった。

                              終。
                                                  2008.1.1 


 新年早々のSSが、皆薫じゃなくて、賢×大人紫穂です(爆)
 何があったんだーと突っ込まれそうですが、全てはサンデー4-5号が
 原因だということで。
 あれでこのCPに萌えまくったというか。
 丁度、元旦の今日の初売りに出かけて福袋見てたら思ったネタ。
 紫穂なら中身見えて便利なのにーと(笑)
 
 あーもう、とてもこの二人書きやすい。
 ぶっちゃけ本音トークで動く人たちなので。
 王道のの皆×大人薫は何かと、あの予知未来を背負うので、
 難しい所もありますが、この二人には、そんなの関係ねー(爆)
 好き勝手が出来ますw

 またこの二人の話を書こうっと。
 今年は色々なCP話に挑戦を狙っています。


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