清清しい皐月の陽気のセントラルパークの木々が並ぶ、木陰の芝生の上で、ダイアナは静かに読書をしていた。
彼女の傍に置かれている数冊の本は、殆どが医学書ではあるのだが、今読んでいるのは
彼女が好きなシェークスピアの戯曲集だったりもする。
こうしてシアターの舞台の無い自由な時間を、自由自適に過ごせることが、彼女には何よりも幸福さを募らせていた。
そんな彼女に、近づく気配があった。
「おや、こんな所にダイアナ、君がいるとは奇遇だね」
「きゃっ!」
何の気配もなく、彼女の背後から静かな聞き覚えのある声がかかる。
読書に没頭していたダイアナは、驚きふためいて思わず声を上げてしまった。
「昴さんっ!いつからそこに?!」
突然あらわれた昴に、ダイアナは問う。
「今たまたま通りかかったら、君がいたから声をかけたんだ。
驚かせるつもりはなかったんだが・・・・・・僕が傍に近づいても気が付かないとは、よほど集中していたみたいだね。
『真夏の夜の夢か』今、読んでいるのは・・・・・・本当にシェークスピアが好きらしいね」
優しく柔和な笑顔で、昴は事情を説明した。
「そうなんですか。すいません・・・・・・私ったらいつも、読み始めると周りの声が聞こえなくなって、
本の中の世界に自分が入り込んでしまうんです」
照れてほんのり顔を赤らめるダイアナを見て、昴もまた微笑みながら------
「それだけ好きということさ、夢中になれるというのは素晴らしいことさ」
「はい」
二人は、微笑みながら笑いあっていた。
昴もまた、ダイアナの横に腰を降ろすと、寝転がり空を見上げた。
今日もまた、清々しい皐月晴れなのが、心地よい。
こうしたのんびりした時間を、まったりと過ごすのが昴にとって、隠れた癒しだったりもした。
「リラックスしたお顔をしておられますね」
にこやかな笑顔で、ダイアナは昴に話しかけてくる。
「いい天気と陽気だからね。今の時期は、何もしないでいる時間を過ごすのも一興とは思っている。
心の垢を落として、充実させるのも時には必要さ」
そう昴は説明する。
「そうですね、こんな陽気ならはしたないですが、ここで寝転がってお昼寝してしまったら、
とても気持ちが良さそうです」
「君もすればいい。周りのことを気にせずに・・・・・・・こうしていると、大地の暖かみを直に感じる事が出来る」
昴の言葉に、ダイアナもまた乗り気になり、
「じゃあ、私も」
彼女もまた、昴の横に寝転がった。
木陰とはいえ、木々の隙間からは日光が二人に降り注いでいる。
「本当に、気持ちよいですね。まるで大地に抱かれているようで・・・・・・お日様からも、力強いパワーを
与えてくれる気がします」
もう既に、気持ちよくなり眠気がうっすら襲いかけていた。
「自然の力無しでは、僕らは生きていけない、だからこそ偉大な存在なのさ。それに、世界は五大元素で
出来ているとまで言われてる昔話がある地・火・水・風・金とかね。全ての物に力が秘められており、それが生物に力を与えるのだと。」
「それはよく分かります。私たちは、この世界があってこそ、こうして素晴らしい日々を過ごさせていただいて
いるんですから。でも、本当に素晴らしい青空--------なんて表現したらいいんでしょうか」
そう言いながら、ダイアナは空に手を指し伸ばした。
「『皐月晴れ』というんだ。これは、日本でそう呼ばれているんだが・・・・・・日本では、その時期の気候に
色々名前を付けて呼んでいる。アメリカでも、色々呼ばれているが------昔の洒落た人たちは、季節の表現を
何かに例えるのが好きだったようだ。僕は、そんな人々の心意気には賛同できる」
「日本の方は、季節を詠むのがお好きなお国柄でしょうか?昴さんも、芸術に深い造詣をお持ちですし、
身のこなしも、優雅と申しますか、わたくし思わず魅せられてしまう時がありますの」
顔を赤らめながら、ダイアナは語る。
「ありがとうダイアナ。元々僕自身は芸術には興味を持っていたこともあるが、僕の生まれ育った土地が、
古からの伝統と格式に固められた場所だったせいでもあるとは思う。そこでの生活はともかく、街並みと空気は
僕は好きだった」
複雑な思いを抱きつつも、遠く離れた空の下にある故郷を昴は思い出し、懐かしむような表情を浮かべた。
「日本の中の京都・・・・・・?でしたよね。昴さんのご出身地は・・・・・・。叔父様の御本を少し見させていただいた
ことがありますが、本当に荘厳であり、静穏な建物や、像がが沢山あって、わたくしも思わず感嘆のため息を着いてみとれて
しまったことがります。叔父様が日本の虜になっておられるのも納得出来ました」
ダイアナもまた、写真の中のかの地に思いを馳せている。
「サニーサイドの日本好きなのはいいが、彼の知識は殆どデタラメだ。かなり日本の習慣を誤解している傾向が
強い。本や話で聞くよりも、実物を目にした方が良いと昴は思う」
「そうなんですか?でも、私には日本は遠い存在ですから・・・・・・紐育星組で舞台にも戦闘にも立っていますが、
今の私の体では長い時間の旅は無理です」
俯くように悲壮感を浮かべ、力なくダイアナは呟いた。
そんな彼女の右手を昴は強く握る。
「君は君が思うほど、か弱くなんかはない。その思い込みが君の身体を蝕み、弱らせている。大河に教わっただろ?
君の本当の心の強さを。時間はかかるかもしれないが、自分を信じて、本当の健康を手に入れるための困難は大きい
だろうが、それを乗り越えて欲しい。僕や、星組の皆はそのためならば、協力は辞さない」
力強い言葉を投げかけられ、彼女の胸は強く熱く打たれる。
「昴さん・・・・・・」
「君が本当に健康になり、この空の下を自由に駆け巡ることが出来る日が来たとき、僕は君を京都に招待する。
そして君の好きな場所へ、どこでも連れて行こう。だから約束してくれないか? 君も自分の身体を諦めないことを
------- 僕も、ずっとシェークスピアを語り合える友が側にいて欲しい。」
その力が更に強くなり、ダイアナの瞳にうっすら涙が滲む。
「はい約束します。きっと昴さんと日本に行ける為に--------ありがとう昴さん」
嬉しさと感謝を伝えるかのように、ダイアナは微笑ながら、その手を強く握り締め返した。
(私は、強くなります。この世界の息吹と力を受け入れて-------そして生きるという素晴らしさを誰よりも手にするために。)
「礼なんか言わなくてもいいんだ。友の幸せは僕の幸せでもある。そう僕も教えてもらったんだ。
皆と、大河に-------」
ダイアナの笑顔を見て、昴もまた微笑み返すのであった。
皐月の紐育の空の下、ささやかでたわいもない時間ではあるが、その一秒一秒が、二人には大切で
かけがえのない時間でもあった。
終
なんだか、ダイアナな話になってしまった・・・・(汗)
一応、昴さん祝・誕生日で作成したんですけど(苦笑)
ダイアナ、実は紐育ライブ行くまで、好感度最下位でした(おいおい)今は3位?ですかね(笑)
うちの昴さん、the お節介(爆)