『セピア色の思い出』 

 


◆1◆

 

「もう、夏も終わりなのよね」

 随分と空が高くなったと感じる時期となっており、夏が終わり秋の近づき始めている気配を肌で感じながら、

蕾見不二子は自室生活スペース兼、バベルの最高管理官の執務室として使用している

外見ガラス張りの広大な部屋の窓の外を見上げていた。

 普段はあまり事件資料などの面倒な目通し作業など、朧や桐壺に押しつけて手もつけず、

全く人任せでもあるのだが、今日は珍しく自身で行っていた。

 というよりも、誰もその日は任せて逃げる相手がいなかったこともあるのだが。

 世間一般ありきたりな超能力犯罪の処理資料など、昔と手口など何の変わることなく繰り返されている

内容に目を通すたびに、退屈とばかりに大きな欠伸だけが出る。

 いつの時代も同じ、他人と違う能力を持つからこそ異端視され、

その痛みを理解されないからと周囲に暴力として出してしまうのが元凶であろう。

 人の心など、幾年経ようともたいして変わらないのを不二子は身に持って実感している。

 幼い頃、実の弟のように過ごしていた、兵部の存在がいるのだから尚更であるのかもしれない。

「退屈ね…… 」

 目を通すことに飽きた不二子は、これまた日頃、手に触れる事すら機会のない

ファイル棚に目を向けながら気分転換とばかりに、棚の中の本を適当に手を取ると広げた。

 手に取ったのは、随分と年代物らしきアルバムであり、しかしながら元が高級な皮素材を使用しているからなのか、

時を経ても上品さは変わらない様子を醸し出していた。

 パラパラと不二子は捲りながら、そこに映っている過去の自分や、

共に青春時代を過ごし国の為にと戦った陸軍の超能力部隊の仲間達とのセピア色の思い出写真を眺めている。

 今はもういない仲間達との思い出を懐かしく思い返しながら、戻らない日々に少しの間だけ思いを馳せる。

 熱い夢と情熱を抱き続けることが出来、苦悩も抱いた若い苦さを持った頃の自分達に。

「 ? 」

 ふとアルバムのどこかのページから、ひらりと何かが舞い落ちる。

 何だろうと、不二子はしゃがむことなく念動力でそれを拾い上げ、手に取る。

「ふふっ…… 」

 手にした写真を目にして不二子は思わず口元が緩む。

「こんな時代もあったわね…… 」

 その写真に何か深い思い入れが込められているのか、彼女にしては珍しく少女の頃の眼差しを浮かばせながら、

遥か昔…… まだ然程、世界が戦況に包まれていない頃の時間へ戻るように目を閉じた。

 



 ◆2◆

 



 都内から距離を置いた閑静で高原地帯の一角に、

昭和十年代の当時からしても相当な規模の西洋建築の粋を極めた荘厳な洋館がそこに鎮座するように建っていた。

 元々、その地は都心からの喧騒を忘れる一時を過ごす為に、

財力と金力を有り余らせた家柄の避暑地であるのだが、

その中でも話の中心になる洋館の姿は庶民達がため息を吐きたくなるほどに素晴らしい建築でもあった。

 自分もいつか、こんな家に住んでみたいという夢を抱かせるように。

 それはさておき、この家で生活しているのは華族である蕾見男爵を筆頭にその娘、

不二子とまだあどけない年頃であった兵部京介と、その他複数の人間が居を構えていた。

「不二子はまだかね ? 」

 その日、朝食を取る為に兵部少年はダイニングの椅子に腰をかけようとした際、

屋敷の主である蕾見男爵から声をかけられた。

「あ、はい、まだみたいですが…… 」

 正直に京介は不二子がこの場に来ていない事を確かめ、そう答える。

 来ていないと言う事は、まだ彼女は起きていないのだろうと推測できた。

「なら、あの子を起こしてきてくれ。私も使用人たちも迂闊に起こしには行けられないのだから」

 起こして来いと、殆ど命令口調に近い言葉で男爵は京介に伝えると小さく頷き静かにその場を後にする。

 住み込みの使用人が起こしにいけばいいのにと普通は思う事だが、ただでさえ低血圧で寝起きの悪く、

複数の高レベル超能力者でもある不二子を起こすのは普通の人間にとっては容易ではない事であった。

 過去に(サイコ)動力(キネシス)瞬間(テレ)移動(ポー)能力(テーション)で使用人を壁にめり込ませたり吹き飛ばしたり、

埋め込んだりと、色々やらかしてしまった経緯もあるからこそ、同じように高レベルの(サイコ)動力者(キノ)である京介ならばと、

白羽の矢を立てられ常にその任を与えられていた。

 とはいえ、(サイコ)動力者(キノ)である京介であろうとも、正直、不二子を起こす事は大変な事である。

 何故自分だけがこんな役目をと愚痴りたくもなるのだが、この蕾見家に引き取られた身分の自分にとっては、

この家の人間に逆らってはいけないのを幼いながら受け止めていたのだ。

 この能力ゆえに実の親達から見捨てられた自分にとっては、

この家と超脳部隊の仲間達だけが居場所でもあるのだから。

 そして自分に何の警戒を覚えずに実の弟のように接してくれている不二子だからこそ、

彼女を信頼しているし、尽くそうとも思っている。

 ただ、不二子の性格にはついていけられない部分も多々あるのは、

自分にはどうすることも出来ないのだから我慢するしかない。

 いい子でいなければ、ここにいられないのだからと。

 

「不二子さん起きているの ? 入るよ」

 不二子の寝室のドアをノックするのだが案の定、

返事の有無などなく京介は(サイコ)動力(キネシス)で内側から鍵を開けると室内に足を踏み入れた。

「この寝相だけは、どうにかならないのかなぁ…… 」

 理想をぶち壊された深い失望するような嘆息で、京介は足を思いっきり外に向けて広げ、

両手を頭上に上げて熟睡している不二子のはしたない寝姿を目にしてあきれ返っている。

 家柄的には深窓の令嬢というのに、その中身は世の憬れる人々の理想を打ち砕くような姿。

「不二子さん、朝だから起きてよ」

 いつまでも呆れ返ってなどいられない京介は本来の目的である不二子を起こすことを始めたのだが、

限りなく寝起きが悪い不二子はそう簡単に起きることなどしない。

「う〜ん、もう少しだけ」

 しかし、甘えるような声を上げるだけで不二子は寝返りを打ち、一向に目覚める気配は無い。

「起きなきゃ駄目だよ」

 今度は強引に、彼女の肩に手を触れて揺り起こすと、

無理やり起こそうとするのがうっすらと覚醒し始めた意識に気が触る。

「うるさくってよ !! 」

 随分と苛立った声で不二子は叫んだ同時に、花瓶やら近くにあったテーブルの上の本などが京介に向かい飛んでくる。

 不二子が寝ぼけながら(サイコ)動力(キネシス)で、睡眠を妨害する相手に攻撃をしかけてくるのだ。

 しかし慣れた様子で京介は彼に向かって飛んでくる物を次々に、自身の(サイコ)動力(キネシス)で掴み取ると元の場所に戻していく。

 毎日とまではいかないのだが、これが日常茶飯事ともいえる光景でもある。

 寝ぼけて無差別に(サイコ)動力(キネシス)で何かを飛ばしてこられたりしたら、普通の人間には危険すぎるのだ。

 京介自身もそれを自覚していることもあり、自分じゃなければ起こせないだろうとその任を受け入れていた。

 寝ぼけて誰かを傷つけたりしたら、超能力者の印象が更に悪くなるのだと分かっているからこそ、

自分が何とかしなければいけないと幼いながらに、この世の中で生きようとする処世術を自然と見につけていたのだ。

 とはいえ、飛んでくるものを受け止めても不二子が起きるわけではない。

 最終手段として彼自身はあまりやりたくない起床させる方法をするしかない。

「不二子さん…… 起きて」

 何か覚悟を決めたらしい京介は、不二子の耳元まで歩み寄ると、再度起きるように甘い声をかけた途端、

反射的に不二子の両腕が京介の首に素早く回され、あっという間に唇を奪われる結果となる。

「むにゃ…… 美味しいわ」

「ううっ…… 」

 むさぼりつくように、不二子は京介の小さな唇から生命エネルギーを吸い上げながら味わっているように見える。

 吸われていくごとに京介の全身から抜けゆき、思わずよろめきそうになった頃、

「あぁ、気持ちいい目覚めだわ。おはよう、京介」

 清々しい笑顔で不二子は、爽やかに京介に向かい朝の挨拶を向けた。

「お、おはよう…… 不二子さん…… 」

 激しい脱力に襲われながら、京介は返事を返すのがやっとである。

 日々こうして自らの身を削ってまで起こすしかない事に些か京介は、理不尽を感じていたのだった。

 いたいけな少年の純情をすり減らされている気がしてたまらなかったのかもしれない。

 

 ようやく不二子が起床し、階下の使用人達が彼女を着替えさせるために室内に入り、

お役御免になったと思い下がろうとした時。

「京介もいなさい」

 何かを思いついたように、不二子は自分の着替えの間も側にいろと指示してきたのだ。

「ええっ !? 駄目だよ、女の人の着替えの場所にいちゃいけないって、皆言っているじゃない」

「大人のそんな古臭い考えなんか忘れなさい。常識なんか自分で作るものよ、だからここにいて」

 突然そんな事を言われ困惑する京介は、一応世間の常識だからと言って逃げようとするのだが、

所詮、いわゆる意味で常識に縛られない不二子にはそれは全く通用するはずもなかった。

 いや、むしろ困惑する京介を見て楽しみたいからこそ、こんな事を言ったのは明確であり、

その証拠に彼女の顔は妙に口許が笑っているのだ。

 常に京介が困らせようとする苛めをするのが大好きな不二子だからこそ、今朝もまたこんな我儘を言ったのだ。

 断固として断りたかったのだが、それは彼には到底出来ないこと。

 絶対的な不二子に逆らうことなど不可能とも言うべきことで、

もし逆らったのなら今後の自分の身が更に追いやられるのだから。

 逃げることが出来ない京介は黙って、その場に居続けるしかなかった。

 女性の使用人達も不憫な京介に同情しているのか、素早く不二子の着替えを終わらせてくれたのは、

彼にとって幸いだったかもしれない。

 それでも、着替えている最中の光景から横を向き目を反らそうとしていても、

思わずちらちら目にしてしまうのは思春期直前の少年の興味心が強かった。

 既に思春期に入っている不二子の肢体は、

明らかに彼がこの家に引き取られた頃よりも成長しているのだから、尚更である。

 当の不二子はそれを自覚した上で、京介に見せ付けているのだから性質が悪い。

 常にこうして彼を弄る事が楽しみでもある不二子の性格を父親でも止められない程であったのだ。

「おまたせ」

 実際には些細な時間であったが、京介の億劫な長い時間がようやく終わりを告げ、

着替えを終えた不二子は深窓の令嬢とばかり小さな笑みを浮かべ、彼の前に立つ。

 仏蘭西、巴里から直輸入の素材と、有名なデザイナーが不二子の為に

デザインした純白のシルクワンピースを身に着けているのだが、それが普段着なのだから庶民からは笑えない。

 しかしながら、高価な洋服負けなどせず凛として立つ姿は華族というべきなのかもしれない。

 不二子の本性を知っている京介でさえも、その姿に見惚れてしまうほどなのだ。

 物語で読むお姫様というものは、こんな姿をしているのだろうと。

「あ、うん…… 旦那様が、下で不二子さんを待っているから、早く行こうよ」

 自然と不二子をエスコートするように、彼女の前に右手を差し出すと、

不二子はそれをためらいなく自然に手を置き優雅にダイニングに向かおうとしたのだが。

 

「今日の私の服が似合っているって言ってくれてありがとう」

 室内を出ようとしていた矢先、不二子が突然、

そのような事を言い出すのかと京介は内心びくついている。

 彼女は常に突拍子も無い言動をする人だと一番、彼が分かっているのだから。

 だからこそ、急に妙な事を言い出した時が、一番京介にとって悪寒が走る。

「に、似合っているよ。だから、何 ? 早く行かないと旦那様が怒るよ ? 」

「お父様なんて、一人で食べていればいいから、放っておいてもよくてよ ! 

京介は私の言うことを聞けばいいの」

 あらゆる意味で自己中心的な不二子は、エスコートされた際、

さりげなく京介の内心を精神(サイコ)感応(メト)能力(リー)で読み取っており、衣装の可愛さと不二子に見とれていたことを悟られていたのだ。

「駄目だって。親の言うことは聞くものだよ」

「構わないから、私に付き合いなさい。あ、あなたたち、

お父様に朝食は後で別に取るからと伝えておいて」

 またお嬢様の我儘かと嘆息気味の使用人達に伝言を残して部屋を先に出すと、

不二子はお嬢様の顔から意地悪な悪戯笑顔へと豹変させる。

 こういう表情をする際は、必ずといっていいほどに京介の身に災難が訪れるのだ。

 今すぐ逃げ出したい…… と、京介は思うのだが、それは出来ないでいる。

 (サイコ)動力(キネシス)しかない自分にとって、

同レベルでしかも複数の能力を持つ不二子から逃げ出す事など、物理的に無理な事だった。

「僕をどうするつもりなの ? 」

 身の危険を感じながらも、自分がどうなるかという恐怖に立ち向かおうとしている強さを出している

京介を目にして不二子はたまらなく身体の奥底から痺れる様に甘美な楽しさに襲われる。

「別にどうするという事ではないわよ。あなたが、私の服を可愛いって思ってくれたんだから、

あなたにも可愛い服を着せてあげようかと思っただけよ」

「そんなのいらないよ ! 第一、僕は男なんだから女の子の服なんか着られない !! 」

 不二子は京介を着せ替え人形にしようと考えている事に気が付き、

男として断固それだけは否定しようとするのだが、全く不二子は聞いてなどいない。

「京介に拒否権などないのよ ? 私が着せたいだけ。ほら、

男の子は小さい頃に女の子を格好などすると丈夫に育つと言うじゃない ? 」

「それは小さな子供の話じゃないか ! 僕はもう十歳なんだから、そんな格好必要なんか無いよ ! 」

 何が何でも今日の不二子の我儘に付き合ってはいけないと、京介は否定し続けた。

 このままでは、彼女の我儘どれだけエスカレートしていくのかが分からず、

周囲に多大な迷惑をかけてしまうのだろうと考えていた。

 少しでも自分で、彼女を止められればという勇気を発揮したのだ。

 京介が生意気とばかりに反論し続けていることに、おそらく不二子は烈火のごとく、

怒り狂うであろうと、京介は覚悟したのだが---------

「どうしても駄目 ? 」

「駄目だって !! 」

「そう…… 仕方ないわね…… 」

 拒否し続ける京介の姿を見て、不二子はあっさりと諦めた様子に拍子抜けしながらも、

急にどこか表情を曇らせている様子が逆に気になってしまった。

「不二子さん…… ? 」

 普段見た事が無いような様子を見せている事に、京介は反対に問い返してしまう。

「もういいわ…… さっさと、朝食を食べてきなさい」

「え、でも、不二子さんは ? 」

「私はいいのよ、今はそんな気分じゃないの」

 彼女らしくない態度を見て、次第に京介は心配の方が強まりつつある。

 こんな彼女を見ることが初めてであったらからかもしれないが。

 しかし、不二子は何も語らず、愁いだけが滲み出している。

 いつも意地悪で京介に対し高圧的な態度を取っているというのに、何故急にと疑問を抱いてしまうのだ。

 もしかして自身が、何か彼女を傷つけるような言葉を言ってしまぅたのではないかと、自責の念さえ浮かんでくる。

「僕、何か不二子さんを傷つけてしまったの ? 」

「京介は悪くなくてよ。…… 京介に服を着せようと考えていたら少し、昔を思い出してしまっただけ」

 何かの過去を思い出すような眼差しで、不二子は儚むように笑む。

「昔って、僕がこの家に引き取られてくる前の話なの ? 」

「ええ。でも京介が気にすることなどないわ。これは、私達家族の事だから」

 不二子の『家族』だからという言葉に、京介は酷く突き放されたように胸を締め付けられていた。

 いつも一緒に生活してきたというのに、こんな時に他人のように壁を作り上げ、

自分だけを蚊帳の外に追い出されてしまうことに腹立たしさと悲しさを覚えずにはいられない。

 結局、自分は他人であり孤独でしかないのだと思い知らされる。

 疎外感に苛まれながら、自分は目の前の不二子に何もしてあげられない存在でしかないのだとも。

 長い間、側にいたというのにという悔しさと、

このまま彼女を放ってなどいられないという衝撃が彼を突き抜けた。

 彼女の側に居続けたからこそ、京介今こそ力になりたいのだ。

「僕は、不二子さんの力になりたい。いや、ならせて欲しいんだ」

 胸に抱いていた言葉を初めて京介は言葉に出した。

 普段、不二子は彼を困惑させ意地悪をして楽しむ人でもあるのだが、

それ以上に自分には大切な人であるのだから。

「 …… 」

 そんな京介の言葉に、不二子は少し戸惑ったように見せながら返事を詰まらせている。

 彼女よりも三歳も年下で、まだ十歳でしかない子供が自分の為に真摯な姿を見せているのがいじらしかった。

「不二子さんっ ! 」

 何も答えない不二子の態度に、自分は認められていないのかと悲しさを募らせながら叫ぶ。



 実の弟のように可愛がっているいたいけな京介の姿に、不二子は何かを決めたような眼差しを向けた。

 そして、彼女の普段着などが収納されているクローゼットではなく、

近くのこれまた立派な桐の木で作られた大きな箪笥の引き出しを自らの手で開けると、

そこからタトウ紙の包みを随分と大切そうに取り出すと、ベッド上に置き静かにそれを開いた。

「不二子さん…… これは ? 」

 京介の目に映ったのは、少し控えめな赤と橙を基調とした絣の小袖。

 しかも、大きさ的に不二子には切れそうもない程の大きさで丁度、

京介程度の女の子が着られるサイズに見受けられる。

 まさかこれを自分に着てくれと、不二子なら言いかねないのだが、

しかし不二子からは全くその気配は感じられない。

 未だ京介を通り越して、他の何かを見ているような視線を向けたままで。

「私が京介に出会う前…… 不二子が幼い頃に着ていた着物よ」

「この着物に何か思い出が込められているの ? 」

「そうと言うより、着て貰いたかったのよね…… 勿論、京介にじゃなくてよ」

 自分の知らない誰かに着て貰いたかったと知り、それが一体何者なのかが今度は気になる京介であった。

「じゃ、誰に着て貰いたかったの ? 」

 ここまで不二子を揺れさせる存在とはという、

どこか嫉妬に近い感情を抱きながら、京介は再度、不二子に尋ねる。

 その言葉に応じるかのように、不二子は更に辛そうな声で呟いた。

「私の弟妹になるはずだった子にね」

「弟妹って、不二子さんは一人っ子じゃなかったの ? 」

 蕾見男爵の実子は夫人が不二子だけなのだと、超能部隊の隊長や、

男爵からもそう聞かされている。

 彼女の母親に当たる蕾見夫人も、不二子が幼少時に亡くなっていると知っていた。

 なのに、妹という存在が何処から出てくるのかと不思議がりながら、訝しがる。

 そして京介の脳裏には、子供ながらにも嫌な予想が浮かび上がるのだ。

 本妻である夫人以外に、男爵が女性を囲っている可能性があるかもしれないと。

 華族の男性という立場からしても、

外に複数の女性がいるのは普通ともいえるような時代でもあるのだから。

 そんな彼の考えを見透かしているように、

不二子は難しい顔をしている彼を見つめながら僅かに笑んだように見えた。

「京介の想像している通りよ、外に囲っていたお父様の妾がいたの。

お母様が早くに亡くなってしまったから、男としてお父様も寂しかったとは思うから、

私は女の人を作っても構わないとは思ってはいたわ。その分、私に変わらない愛情で接してくれていたのだし。

だから今までのままでいいとは思っていたのだけども…… そんな折に、

その人に子供が出来たと耳にして私としては、何とも言えないほどに嬉しかったのを覚えている。

一人っ子で、しかも超能力者であった私は同世代の子達と余り触れ合う機会すらなかったから、

余計に。でも同時に私の中では一つの不安も湧き上がっていたの…… 」

 胸の中に秘めていた思いを吐き出すように、不二子は自身の家庭の事情を口にした。

 それを京介は黙って耳を傾けているのを目にした不二子は、更に続きを語り続ける。

「京介も私が当時、何を思っていたか分かるでしょ ? 今まではお父様の愛情が全て自分の物だったのだけど、

それを今度生まれてくる妹か弟に奪われるのが怖くなったのよ」

 その真意は京介にも理解出来ていた。

 子供特有の嫉妬心というのなのか、新たに弟妹が増えたりした際、

独占していた愛情や物を他に奪われる事に激しく抵抗を覚えたりする事が多い。

 自分以外に兄弟を持たない京介でも、それは同情する事が出来た。

 子供の我侭かもしれないが、それをどうする事すら出来ないもどかしさは誰にでもある。

「お父様を奪われたくない私は、思わず逢った事も無い相手の女性に対して、

お父様に黙って色々な意地悪と嫌がらせをしてしまった。相手がお父様の下からいなくなればいい…… 

自分の他にお父様の子供はいらないんだと嫉妬で自分自身を狂わせていた」

 不二子の告白に、京介は相手の女性がどれほど不二子からの

陰湿な嫌がらせを受けていたのか容易に想像できていた。

 普段から遊び半分で京介を苛めている行為すら、非常に粘着さを絡む手段が多いというのに、

嫉妬の感情に駆られた不二子によっての嫌がらせは相当なものだったのだろうと。

 相手の女性に京介は、いたたまれない同情を覚えた。

「確かにやりすぎだった事は今の私でもよく分かっているけども、当時の私にはそれすら判断できずにいたの。

それに超能力を持っていたこともあり、私を止める存在など誰もいなかったのだから、

やりたい放題でもあったわ…… でも、そんな無茶苦茶な事などいつまでも続くはずなかったの…… 

お父様に私がしてきたことが全て露見してしまい、それについて激しく叱咤され恫喝されて頬をぶたれたわ。

それまで私を一度も叱った事の無く甘やかせてくれていたからそのショックはとても強かった。

同時に自分のしてきた愚かさにも気づかされた…… 常に自分本位でしか物事を考えていなかった事に……

 気に食わないからと相手に対して酷い事を自分に対してされたらどんなに苦しくて辛いかと考えたの……

 そして、私は後悔で胸が押しつぶされそうになった。自分の罪を認めて謝ろうと決意した。

それまで誰にも謝る事などせずにいた私が人に謝るべきだと教えられたきっかけでもあったわ。

そして、その女性に会って謝罪しようと思いこれから生まれてくる弟妹にお母様が

私に残して下さったこの着物を贈ろうと考えていた。大切な家族が増えるのだから心から祝おうと思ったのだけども…… 」

 一連の事情を話した後、不二子は急に口ごもる。

 そして一際、辛そうな顔を浮かべて言葉を詰まらせた不二子に、

京介は話のその先によくない結末が起こるのだろうと予見出来た。

「もういいよ、不二子さん…… 辛いのなら話さなくても僕はいいよ」

 彼女のそんな姿を見ていられないのか、

京介の方から話を中断させようと提案するのを不二子は首を横に振り拒否した。

「いいえ、話さなくてはいけないの…… これは私の懺悔でもあり誰かに聞いてもらいたいのかもしれない。

でも、京介がこれ以上聞きたくないのなら話さなくてよ」

「そこまで不二子さんが覚悟を決めているのなら、僕はどんな結末でも聞けるよ」

「ありがと、京介…… 」

 最後まで自分に付き合ってくれる彼の優しさに不二子は、少し安心したように嬉しそうな表情を浮かべている。

 いつも勝気で自分勝手な不二子であっても、不安な女性であるのだと、初めて彼女が可愛いさを覚えていた。

「でも…… 私は、弟妹に逢う事は叶わなかった。

いいえ、それすら出来ない悲劇が起きたと言った方がいいのかもしれない」

「何が一体…… ? 」

 一際深刻さを伺わせる言葉に、京介の喉は極度の緊張で激しく乾きあがっていた。

「嫌がらせをしたのが私であり、私が超能力者であるのを知った彼女は自分の子を堕ろしたの…… 

私は何故と、思わず彼女に詰め寄った。私の罪を謝罪し、弟妹を暖かく迎え入れようとしたというのに、

そんな真似をと…… そして彼女はこう言った。『あなたのような化け物を私は産みたくない』ってね。

私達のような力を持っているのを普通の人は恐ろしがって距離を置きたくなるのは分かってはいたけど、

生まれてくる子供が同じように能力を持っているとは限らないのに、それすら拒否してしまった

。やがて、その女性はお父様の元から逃げるように消えてしまった。

私の元に残ったのは贈る事の出来なかった着物と、自分が起こした愚かさの罪悪感だけだったわ…… 」

 辛そうに重苦しく全てを吐き出した不二子は、

我慢し続けた自分を堪えているのか目頭にうっすらと涙を浮かばせている事に気がついた京介だが、

あえて知らない素振りを取る。

 ここでハンカチなどを差し出して、慰めるような言葉をかけてしまうと、

プライドの高い不二子の気持ちを傷つけてしまうことをよく知っていた。

 彼女はどこまでも強く凛々さを貫く事が、自分の生きがいでもあるのだから。

 気づかない素振りこそ、最大の気遣いでもあった。

 そんな気遣いを不二子は気づいていたのだが、その優しさに甘えるように何も言わずにいる。

「ちょっと暗い昔話をしてしまったわね…… 最後まで聞いてくれてありがとう京介。

でも、あなたまでそんな辛気臭い顔をしなくてもよくってよ。この話はここまで。もう気持ちを切り替えるわ」

 自分自身を為なのか、この場に漂う重苦しさを払拭させるように、

不二子はあえて明るい声で、広げていた着物を元の状態に戻そうと包み始めようとしていたのだが、

その手は一向に遅々として進まないでいる。

「…… 不二子さん…… 全部、言っちゃいなよ…… 辛い事を…… 少しでも溜めていたら何も解決しないと思う」

 まだ彼女には、深い遺恨が強く残っているのか京介に背を向けた背中から悲しみが伝ってくる。

 ただ今は、それを吐き出させてあげる事しか出来ない京介は、そう声をかけた。

 不二子も、それに促されたのか背を向けたままぽつりと小さく呟いた。

「…… 一緒に手を繋いで歩きたかったの…… 私がこれを着せてあげて-------- 」

 それ以上、不二子の言葉が続く事は無く、小さく我慢しているような小さな嗚咽がその場に広がった。

 会うことのなかった弟妹にしてあげることの出来なかった悲しみに、

不二子はその小さな肩を震わせている姿を京介は見ていられないほどに、胸を鋭く貫かれる。

「僕じゃ駄目かな、不二子さん…… 血は繋がってはいないけど、本当の弟のようになりたいんだ。

僕は、最初から不二子さんの事を姉さんのように思っているんだ。だから、

もう昔の事で自分を責めるのは終わろうよ。僕がいるから-------- 」

 精一杯の思いやりで京介は、不二子の悲しい過去を拭い去ってあげようと、

包み込むように声を投げかける。

 実際に、この家に引き取られて来て、不二子と共に生活をしている現在では、

多少性格に問題はあるのだが、本当の姉のように…… 家族のように強い慕情を抱いているのだから。

 家族愛を受けられなかった京介には、それを唯一感じられる場所でもある。

「京介 ? 」

 不二子の手に暖かな感触が伝わると、彼女よりも少し小さな手が握り締めているのに気がついた。

「僕が不二子さんの手を繋いじゃ駄目かな…… ? 一緒に…… 

不二子さんが望むなら、その着物を着て一緒に歩いてもいいんだ」

 自分でも意外な事であったのだが、女の子の着物を自ら着てもいいという自分の言葉に驚きはしたのだが、

全ては不二子さんの心の傷を受ける事が出来るのなら、そんな些細な事は気にする事は脳裏に無かったのだ。

「無理しなくてもいいのよ、女の子の服など着たくも無いのに。

私は京介のその気持ちだけで十分なのだから」

 必死に不二子を慰めようとしている京介の姿が、普段生意気で腕白であっても、

心優しい性根の少年なのだと彼女の心に映る。

 手早く着物を元の棚に戻そうとした不二子だったが、それを阻止するように(サイコ)動力(キネシス)で京介は奪い取るように自らの手に取る。

「何をするの京介、それを返しなさい !! 」

「嫌だ、着て上げたいんだ。僕がそれを望んでいるのなら構わないだろ !! 」

 初めて不二子に反抗するかのように、京介は少し荒く着物を手に取ると、

上に羽織ろうとし始める。

 衣服を身に着けている上に着ようとする何も考えていない行動に、虚を突かれた不二子であったが、

それだけ彼が必死に姉弟の関係になりたいのだと、望んでいる思いが強く伝わる。

 これ以上、彼に何を言っても頑固でもある京介は聞き入れないだろう、

ならば彼のやりたいようにさせてあげようという考えへと変わりつつあった。

(全く、手のかかる弟だこと…… )

 不二子もまた自然と、彼が実の弟のように愛しむ存在となっていた。

「好きにしなさい。でも、そのままそれを着るつもりかしら ? 」

 洋服の上に羽織っていた京介の滑稽な姿に、可笑しさを堪えられず、小さく噴出す。

「あ…… 何も考えていなかった。どうやって着ればいいんだっけ…… 」

 無我夢中で行動していた京介は、ここでやっと我に返り自分のとんでもない姿に赤面しながら、

着物の着付けをどうすればいいのかまでは考えていなかった。

 普段から、着物を着る習慣が無いゆえ、覚えているはずもなかったのだが。

「私が着付けてあげるわ。本当に手のかかる子ね」

 本来面倒見のよい不二子は、思わず京介の着付けを手助けすることにした。

「あ、ありがとう不二子さん」

「礼なんて必要なくてよ、京介。私たちは姉弟なんですから」

 手早く京介の上着を脱がしながら、着物を羽織らせながら不二子は本当に嬉しそうに笑んだ。

 こうした時間を待っていたかのように。

 京介もまた、その思いを分かち合うように嬉しさがこみ上げているのだった。

 

 ◆3◆

 

「これでおしまい。可愛くてよ京介」

 京介を小袖の着物に着替えさせた後、ご丁寧にその頭に流行しているリボンまで結い上げて、

一見可愛い和装美少女が、そこにいる。

 鏡に映った自分の女装姿に、今まで味わった事のないような緊張と違和感を激しく覚えるのだが、

二人だけの秘密ならいいと京介は受け入れていた。

「似合うかな…… 不二子さん」

 半ば冗談ではあるのだが、自分の姿を茶化すように不二子に問う。

「当然 ! 京介は可愛い顔をしているのですもの、似合わないはずないわ。

お腹も空いてしまったことだし、下に行って遅い朝食をいただきましょ」

「うん…… じゃ、着替えるよ」

 食事と聞いて、元の洋服に着替えようとする京介の手を今度は不二子が止めた。

「このままで行きましょ」

「ええっ ! この格好のままで ?! それはいくらなんでも駄目だよ !! 」

 不二子の無茶ともいえる提案に、京介は激しく抵抗するかのように否定する。

「大丈夫、誰も何も言わないわ。こんなに似合っているんですもの…… 

それに、私がそうして欲しいの…… 手を繋いで行きたいのよ…… 駄目かしら ? 」

 擦り寄るような甘え声ですがる不二子に、どう抵抗していいのか困惑し続ける京介であったのだが、

すがるような切ない顔をされるのは反則だとは思いつつも、彼女の願いを断りきれないまま、それを受け入れた。

「分かったよ…… でも、今日だけだよ」

「ありがとう…… 京介」

 満面の笑顔で不二子は、そっと彼の頬に優しくキスを与えるのだった。

 そんな事をされた事の無かった純粋な京介はただただ、顔を真っ赤に染めながら、

差し出された手を取るだけが精一杯であった。

 ただ、その差し出された手はとても暖かさを灯らせていたのが何よりも、京介は支えでもあった。

 

 

 食堂では既に朝食は随分と前に終わり、

既に男爵が朝食後に訪れた陸軍の関係者数名となにやら懇談している姿が見受けられた。

「おはようございます、お父様、そして皆様」

 そんな空間にいきなり清々しく礼儀正しく不二子の姿と、

その背後におどおどとした京介が入って来ると一同はそちらに目を向けると同時に、口にしていた紅茶などを一斉に吐き出した。

 何か得体の知れない光景を目にしたように。

「今日は、な、何の遊びをしているんだね、京介」

 普段は沈着冷静でありながら、穏やかな性格である超能部隊の隊長すら思わず言葉をどもらせながら、

京介の格好に目を見張っていた。

 そしてその横にいた宇津美までもが、笑っては失礼とは思いながらも必死に笑いを抑えている姿が垣間見える。

「いや、あの…… その…… これは、不二子さんが----- 」

 不二子の生まれてくる事の出来なかった弟妹にしてあげたかった事を実現させてあげているのだと、

誤解を解きたいのだがそれは決してこの場で口に出来ないことであった。

 しかし、どう見ても女装の気があるように思われているような視線を向けられ、京介は針の筵にいるように思えていた。

 せめて不二子が何か自分の為に弁明してくれるのを期待しながら。

 しかしそんな願いは儚く打ち砕かれる。

「私が寝ている間に京介が、私の箪笥から出したらしくて、目覚めた時には自分で着ていたのよ。この子、本当はこういう格好したくて仕方ないみたい」

 ありえない出鱈目な事情を不二子が口にしたのを耳にして、京介は驚愕する。

 自分を庇わず、嘘を皆の前で説明する事が信じられなかった。

「ふ、不二子さんっ ! 嘘なんか言わないでよ ! 

僕は、不二子さんの生まれて来る事が出来なかった弟妹の代わりの為に、これを着ただけなのに !! 」

 怒りに似た弁明と、事情を一同に知らせるかのように思わず叫んでしまう。

「不二子の生まれるはずのなかった弟妹 ? なんの事だね ? 」

 京介の言った言葉に反応したかのように、蕾見男爵は京介に興味を抱いたらしく彼に尋ねる。

「何の事って…… 旦那はご存知なんでしょう ? 亡くなった奥様の他に外に女の人がいて、その方に子供が-------- 」

「そんな話はありえない。男爵は亡くなった夫人一筋の愛妻家で、他に女性などいない」

 京介の話を否定するように、隊長が事実を話す。

「彼の言うとおりだ。何か勘違いしているようだな、京介。

私は不二子の母親以外の女性に惹かれた経験は無いぞ」

「え ? そんな、馬鹿な…… じゃ、不二子さんの言っていた話は---- 」

 恐る恐る不二子の方を振り向いた京介に映ったものは、不気味なほど爽やかで、顔を嬉しそうに緩ませながら、

悦に入った悪魔の笑顔を浮かべている姿。

 そうそれは、普段、彼女が京介を苛めている際に見せる表情そのものなのだ。

 同時に、京介は悟った。

 全ては、不二子の仕組んだ罠であり、今までの話は嘘で塗り固めたものであったのだと。

 先程までの、切ないまでに悲嘆に暮れ掛けていやいた不二子の弱気の姿も、

涙も笑顔も全て彼女が作った女優顔負けの名演技であったことに。

 信じがたい真実に、京介は打ちのめされ愕然となる。

 周囲も、また不二子に何か誑かされてしまったのだろうと、彼に心底同情を覚えていたのだった。

 

 更に悲劇は続く。

 「やめてよ、不二子さんっ !! 」

  哀れな京介少年の女装姿を写真に残そうと、不二子は最新型のカメラを持ち出して、

それは楽しそうにシャッターを切っている。

 悲壮に叫ぶ京介の悲鳴など無視して、撮影し続けたその写真は、

後に軍部の裏で高価な値段で流通したという噂が流布されていたのだが、それが事実かは確証が取れない。





 

 今回の事で、京介が見につけて覚えたのが、決して女の涙に騙されない事であり、

女の同情話に真に受けて耳を傾けるなという事であった。





 


 ◆4◆

 


 過去に受けた傷は、数十年経過して、パンドラの長となり、少佐と呼ばれ孫とも言える程、


年の離れたエスパー達を纏める立場になった今でも胸の中では強く刻まれていた。

 

「ねぇ、少佐〜この写真何 ? 」

 珍しく、カタストロフィ号の船内図書室に立ち寄った兵部は、

幼くしてエスパーだと判明して実の親に捨てられ保護した幼児程の子供達が、

彼の元に立ち寄ると古ぼけた一枚の写真を差し出した。

 一体何だろうと、兵部はそれに目を向けた途端、激しく動揺しながら瞬時に、

それを(サイコ)動力(キネシス)で原型を留めないほど粉砕した。

「何で破っちゃうの少佐 !! 」

 いきなりの行動に子供達から文句の声が上がる。

「こんなものは、君達は見ちゃいけないからだよ」

 かなり強引な説明をしながら、彼の内心ではこう呟いていた。

 

「…… ウツミさん…… あなたも買っていたんですか…… あれを」

 穏やかで、人格者である宇津美が写真を持っていたことに、数十年経過した今だというのに、

激しく怒りを覚え、今度、本の中から彼が出てきた際に、

どんな仕返しをしてやろうかと兵部の中では沸々と復讐が芽生えているのだった。

 





 

 ◆5◆

 





 一方、同じように写真を眺めて懐かしがっていた不二子は、

当時を思い出しながら少し申し訳無さそうな顔を浮かべながら、ぽつりと呟く。

「あの時の事、全てが嘘では無かったのよ京介…… 」

 意味深な言葉を残して、不二子は写真を元のアルバムに挟み込むと、

元あった棚に戻し、再び空を見上げる。

「私達は年を取り姿は変わり続けるけど、空だけは何も変わらないわね…… 

今でも私は京介との関係は変わらないと思っていてよ」

 誰に言うというわけでもなく、不二子はこの空の何処かにいる弟へ向けて言葉を手向けるのだった。

 

 




 

                             終。

 





おまけ。

 




 写真が見つかってから、しばらく後の事。

 

「ねー京介。こんな写真をばーちゃんからもらったんだけど」

女王(クィーン)、そ、それは !! 」

 もう病的ともいえる、日常的な兵部の皆本のマンション周辺をうろつくストーキングの際、


その姿を薫に見つけられ、たまたま携帯の画像フォルダに入っていた、幼少時の女装姿を見せつけられた兵部。

よりによって見られたくは無い薫に過去の黒歴史を知られた挙句、あまりのショックに硬直し、

しかもその写真を兵部を見つけて追い返そうとした皆本にまでも見られ、

悲哀の目で見られてしまい耐えがたい屈辱を味わったのは余談である。

 

 



                                                  書き逃げ終了。

 


                                 2009/09/14




 
 初書きではないですが、子供時代の兵部と不二子の話。
 そして、いたいけな京介少年を苛め話(爆)
 単に、兵部ハーマイオニーの姿にさせるために考えた話なので、
 オチはギャグですみません…。
 たまには、こんなお馬鹿話でもと。

 兵部を弄るのは実はかなり楽しい(笑)
 後、不二子の母親設定は捏造ということで。

 




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