『嫉妬』



※何気に45号ネタバレが、微妙にあったりします。


 寝静まった夜更けにの寝室に気配を感じ、浅い眠りについていた京介は目を開けた。

「どうしたんだ、薫 ? 」

「ねえ、京介。京介って、親友っていた ? 」

 突然、何の前触れも無く枕元に現れた薫が、ベッドで寝ていた京介の脇に腰を降ろすとそう投げかけた。

「夜中に現れて、いきなり何を言い出すと思ったら…… 」

 突然現れ、意外な事を聞かれた京介は、苦笑を浮べている。

「今日、ふいに思って…… 私よりも遥かに長生きしているからさ、いたかなって思ったんだけど」

「それは、僕に自分の過去を話して欲しいということかい ? 」

「要点から言えば、そうかな。ただ、知りたくて」

 せがむように上目使いで尋ねてくる姿に、薫にはやれやれといった感じの京介は--------

「昔は…… いたよ」

 少し声のトーンをくぐもらせながら、そう答える。

「どんな人だった ? 」

「説明すると難しいけど、色々な奴がいたよ。人間では無い奴もいた。

皆、国を守るという信念を語り分かち合っていたよ。だが、もう皆いない…… 

戦死したものが殆どだが、後は寿命だったりとか。今は、もう僕一人さ」

「一人で寂しくなかったの ? 」

 京介の重い言葉に、薫は彼の頬に触れながら、少し寂しそうに尋ねる。

 確かに、薫の言葉の通り、その気持ちは今でも無い事は無い。

 しかし、憎しみに綴られている彼の過去の中でも、微かに友と過ごす時間を楽しんでいた頃もあったのだ。

 極限の環境に置かれながらも、お互いを支えあったからこそ、今こうして生きている面もある。

 しかし、自分一人しかもういないと言うのだが、実際は少し違う。

 嘗ての親友には、悪友と言うべきか、幼い頃は姉の様に慕っていた不二子もいたのだが、

今はもうお互いの価値観の違いの確執が起こり、袂別れしている始末。

 最早、あれを親友だという存在でもない、排除するべき相手でしかないのだ。

 同じ志を持ち続けた同志と自分は、全てあの戦禍の空に散り去って行ったのだ。

 彼の青春とも言える日々は、信頼と父のような慕情を抱き続けた

隊長と呼んだ男に撃たれた日に
---------- 砕け散った。

 今生きているのは、その死に損なった亡霊ともいえる自分。

 それを思い出すたびに、深い絶望を含んだ憎しみだけが今尚、彼の中でこみ上げる。

 普通人など信じる必要など無い、ただ排除するべき存在であり、

信じられるのは自分と同じ志を抱く、同胞だけなのだと。

 その考えが、周囲の同胞達との確執を更に深くした挙句、

発足当時のバベルを血に染める事件を巻き起こした。

 最も、これも彼の計算の一つでもあったのだが。

 反旗を翻した後は、不遇の境遇に陥れられた同胞の幼い子供達を拾い育てる場を作り上げた。

 それが、現在のパンドラの前身といえる。

 幼い頃から、彼と同じような痛みを受けてきた子供達は、

救い上げてくれた彼に絶大的な信頼と忠信を抱く事になった。

 彼もまた、人の子であるゆえに、幼き同胞を見捨てる事など出来ない正義感が胸の中で渦巻いている。

 彼らを救い、育て、それがいずれ彼らを導くことになる薫の力になると、当時から読んでいたのだ。

 薫の生まれる前から、その存在が出現する事を予知で察していた彼はこの時のために、

彼自身の人生を賭けてまで、この土台を作り上げた。

 そして、薫は彼の思惑通り、彼の元に来ることになる。

 全ては、彼の思惑通りになったのだ。

 理解者のいない孤独とのもいえる人生だったのかもしれない、

しかし薫を手に入れるための布石だと思えば、なんともないことだった。

 薫は、彼にとってはくだらないこの世界から解放してくれる救いの存在なのだと。

 それを手に入れただけで十分なのだ。

 そして、彼女が迷わないように道を導く存在としていればいい。

 自分と同じように呪われた忌まわしき予知さえ覆す事が出来るのは、

自分自身なのだと確信さえ覚えている。

「寂しくなんかはなかったさ…… 薫が今ここにいるだけでね」

 指先で薫の髪をすくいながら、吐息をかけるように囁く。

「私は、京介の親友と思ってもいいんだね ? 」

 どこか安心したような顔な薫は、少し微笑む。

 孤独だった彼を救い上げる存在になれた事が、素直に嬉しかった。

「親友よりも、もっと強く深い存在だよ、僕にはね…… 君がいたからこそ、

僕はここまで生き永らえることが出来た」

 その言葉に嘘は無い。

 世間からは、男女の親友の垣根を越えれば、恋愛対象になるとは言うのだが、

そんな言葉では言い表せない関係。。

「京介…… 」

 京介の真剣なのだが、どこか甘く囁くような言葉に顔を少し赤らめつつも、

そう言われる事が何よりも強い絆を感じる事が出来る。

 おそらく、『好き』や『愛』という言葉では無い世界まで凌駕している絆。

 この広い世界の中で、お互いの闇と真意を知り分かり合えるのは、

この人しかいないのだと薫は気付いたこそ、愛しさを覚えた存在を捨ててまでここに来た。

 全てを知り支えてくれる存在を手に入れる事が出来た今は、過去に悔いは無い。

 けれど、全てでは無い。

 それを京介は、当初から気付いていた。

 彼が精神感応能力者でもあるのだが、元々態度に出やすい薫の様子を見ていれば気付くものだった。

「僕がいても、それでも君は親友という存在が大切と思っているんだね」

「気付いていたの ? 」

 話の本題を見抜かれ、薫は少し驚いている。

「いきなりそんな事を聞いてくる段階で、気付くさ。

彼女達をこちらに呼び寄せたいと思っているんだろ ? 」

 単純で分かりやすい反応を見せる薫に、京介は笑いを堪えきれない。

「適わないね、京介には…… 昔から全部お見通しで、

京介の存在は私にとってかけがえの無い存在にかわりは無いよ。

でも、葵と紫穂の存在も私には必要なんだよ。幼い頃から、

どんな時も一緒に乗り越えてきた親友だから…… 」

 言い出せなくて、少し力が入っていた肩の力を途端に抜きながら薫は苦笑を浮べている。

「君の好きにすればいい。彼女達も、君の心を分かっているのなら迷う事も無いさ」

 迷っている薫の背中を押すように、京介は薫に助言をする。

 その助言を聞いて、薫は途端に顔色を明るく柔和な笑顔に変える。

「ありがとう京介、そう言ってもらえるのを待っていたのかもしれない。

夜中にお邪魔して、ゴメン…… 私はもう行くから、ゆっくり休んで」

 そうして京介の額に感謝の軽いキスを残すと、足早に薫は自分の部屋に戻って行った。

 寝入りばなを起こされた京介は、再び一人になると軽いため息を吐く。

「まったく、薫の奴には---------

 顔を右手で覆いながら、くっくっと、小さい笑い声を上げている。

「女帝も女神も、こちらに来る事は分かってはいるが、

あそこまで薫に愛されているとは……
皆本には勝ったが、彼女達との絆には適わないね。

僕には、あそこまで執心出来た仲間などいなかったからな…… 本当に妬けちゃうよ」

 窓の外の闇夜を見つめながら、自分よりも深い絆を持つ女帝と女神に軽い嫉妬を覚えるのだった。

                              終。


                                          2007・10・21


 今回は、何の前触れも無く兵×大人薫です(爆)
 ちょいと、某所で紫穂と葵との絆に妬く兵部に萌えトークを
 読んで、こんな話を勢いだけで殴り書き。
 唐突で、あまり意味なくて申し訳なし。
 いやね、兵×薫は書きたかったのですが、
 中々話が纏まらずに頓挫ばかりでしたので。
 いやこの話も、結構表現不足で頓挫気味ですけどorg
 もっと、兵部を掴まないといけないなぁ、自分&力不足感じてマス。

 本当は、寝物語なえっちい話になるつもりが、
 えっちいのは、皆薫しか出来ないらしい脳を持つ自分には無理で
 こんな話に(汗)
 多分、強引に書くと、傷を舐めあうような痛い話しかなりそうもない。
 パラレル物とかの、発想が全然浮かばない人間なので。
 
 なので多分、うちの兵×薫はこんな関係。
 忘れた頃に、この先もこのカプを書くとは思いますー。

 さて、自分の中のCPノルマを一つクリア。
 次の別CP話は、多分紫穂関連話を書くと思います。
 兵×皆は、そのうちに…。
 (いやね、や●いは、未だかって書いたこと無いので
 とりあえず勉強をー(おいおい)別に、や●いじゃなくても
 いいじゃんと、突っ込まれそうですが(苦笑))
 
 兎も角、本命CP以外のCP話は難しいなぁ(言い訳)



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