『乙女の呟き』
「なあ、明石のことどう思う?」
クラスメイトにいきなりそんな質問を投げかけられた東野将は少なからず混乱した。
「は!?いや、いい奴だと思うけど、それは友達としてーー」
「ばか、そういう意味じゃねぇよ。」
東野将と明石薫と同じクラスの男子、池上翔太は周りに人が居ないことを確かめて言う。
「おれ、今日明石に告白しようかと思ってんだ。」
「え!まじ!?お前ら仲はいいと思ってたけど…。」
「明石って本当いい奴だよな。明るくて可愛いし…。」
「…うん。」
応援したいと思いつつも、東野は考える。
高校生となった今でも明石たちとはプライベートでは一線を引いている。
こちらとしては仲が良いと思っているし、それなりに信頼関係もあるのだが、
どうも明石・野上・三宮の3人には謎めいた部分が多い。
果たしてクラスの中で仲が良い池上でも、そんな彼女からOKの返事がもらえるものか、疑問である。
とはいえ無下にやめろとも言えない。
「よし、応援するよ。頑張れ!」
「サンキュー。東野に言ってもらえると心強いよ。もうすぐクリスマスだしさ、今っきゃねぇよな!」
池上翔太は気合を入れて、先ほど教室を出て行った薫の後を追いかける。
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(今日は確か単独任務だったはずーーー)
薫はその日の放課後、特務エスパーとしての任務につくため、バベルへ向かう予定だった。
放課後に迎えが来る手筈になっていたので、目立たないように学校の裏門へと向かう。
「明石!」
と、そのとき後ろから呼びかけられて立ち止まる。
振り返ると池上翔太がいた。クラスでは幼馴染の東野達に続き、最近特に仲の良いクラスメイトだ。
「池上、どしたの?」
「あ、あのさ、いきなりなんだけど。おれ…」
いざとなると緊張で中々言葉にならない。池上は勇気を振り絞り、一気に言う。
「おれ、明石の事好きなんだーー付き合ってくれないか?」
薫は突然の事に唖然とする。昨日までいつもみたいに他愛のない話で盛り上がって喋っていた友達だ。
まさか告白されるとは思いもよらなかった。
「い、池上?何言ってんのさ。いつもの冗談ーーー?」
からかわれているのかと思い池上を見てみるといつになく真剣だ。本気なんだと分かる。
彼の態度を見て薫も真剣に向き合う。
「ごめんね、池上。あんたの気持ちは嬉しいんだけどさ、あたし好きな人がいるんだーーー。」
その一言に池上は衝撃を受ける。
「あ、そ、そっか…そうなんだ……。」
(今までそんな話、したことなかったのにーーー)
そう言われれば引き下がるしかないのだが、けれどどうしても諦められない。
「でもさ、そいつのこと好きでもまだ付き合ってないんだろ?」
「うん、付き合ってはないんだけど…。」
「だったら、一度おれとデートしようぜ。学校以外で遊んだことないしーー自分で言うのも変だけど、おれと明石って気ぃ合うじゃん!?」
薫はふと、男子からこんな真剣に告白されるのは初めてだな、と思い当たる。
小学生の頃から、男勝りな性格もあってか、女子にばかり人気があった。
中学生になって周りの男子達に可愛いと言われるようになったが、
オープンすぎて告白されるような関係に至るようなことはなかった。
子供の頃と比べると、随分自分も女らしくなったもんだとつい笑ってしまう。
「んー、ごめん、池上。やっぱ駄目だ。デートはできないや。」
「ーーーなんで?」
「なんでってーーーだって皆本が…怒るもん…。」
「は?皆本って誰ーー」
とその時、裏門に1台の車が停車して男性が降りてくる。
「薫、友達と話してる最中に申し訳ないが…予定が早まってしまってるんだ。急いで来てくれないか?」
それは薫を迎えに来た皆本光一であった。
「皆本!」
池上は皆本に気づいた薫の顔がぱっと明るくなるのに気づく。
(コイツが明石の好きな人ーーー?)
「皆本、この子友達じゃないよ。」
「へ?」
「いま友達以上恋人未満くらい?」
「ぶっ!!!」
皆本と池上は一斉に吹き出す。
「明石…身も蓋もねぇな…」
池上はガクリと肩を落とす。
「か、薫何言ってんだお前はっ!!子供がマセたこと言ってんじゃない!!」
「また子供扱いして!!あたしだってもう高校生だよ!?」
薫が不満そうに皆本に抗議する。しかしそんな顔でもどこか嬉しそうだ。
池上に向かって笑いながら言う。
「ね?怒るって言ったでしょ?だから、ゴメン。」
「うん…分かったよ。」
「君、すまない、僕ら急いでるんだ。失礼するよ。」
皆本は本当に申し訳なさそうに池上に謝り、薫を車に乗せて去っていく。
憎き恋敵であるはずなのに、あまりに好印象な男性に、池上は力が抜けていくのを感じる。
(ずりぃな…敵いっこなさそーだもんな。)
一部始終を見ていた東野が、校舎の影から姿を現す。
「ごしゅーしょーさま。」
「東野…」
「ま、まーアレだ。今日の告白をキッカケに明石もお前のこと意識しだすかもしんねぇしさ……」
「いや、ないな。
おれ、明石の男女関係なくオープンなところ、好きだったんだよ。男勝りなところも含めて。
でもやっぱし好きな人の前だと変わるもんだな。
すげー女の子の顔だったもん、あの“皆本”ってやつの前だと。」
「うん…そーだな。
…今日は何か奢るよ。飯くいにいこーぜ。」
「ああ……」
池上は上の空で、しばらく薫を乗せた車が消え去った方向を眺めていた。
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「…薫。」
車中、皆本は薫に問いかける。
「え、なに?」
「さっきの奴、誰だったんだ?友達以上恋人未満って…。」
薫は可笑しくて笑いながら答える。
「冗談だよ!ただのクラスメートだよ。告白はされたけどね。」
「…なんて返事したんだ?」
「あれー?皆本、気にしてんの?」
薫が意地悪く聞く。わざわざ聞かなくても皆本が気にしてるのは明白である。
「あ、いや別に君のプライベートに立ち入るつもりはないから、言いたくないなら別にーーー。」
「断ったよ。好きな人がいるからって。」
「え?好きな人ってーーー」
「さー誰のことかなー。」
薫はわざととぼけて言う。皆本は困惑しているようで、その様子を見るのが面白い。
(あーあ、皆本にも池上くらいの根性があればなー)
元々皆本はそんな隠し事ができる気質でないからなのだが、
とにかく周りから見ても最近皆本が薫を意識し始めてるのは明らかであった。
しかし本来の生真面目な性格や、周りからの冷やかしを考えると、
皆本は自分の気持ちを言動に出せずにいた。
薫はそんな皆本を焦れったく思いつつも、からかっては遊んでいた。
いつか皆本が自分の気持ちを正直に話してくれるのを夢見ながらーーー。
(いつかちゃんと言ってよね。皆本の口から、さーーー。あたしは待ってるから。)
END
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