つかの間の休息。
夜景の綺麗で有名な高層建築のホテルの最上階にあるレストランに、二人の男女が夜景と食事を味わっている。
女性は二十歳前後で胸元と強くアピールしたスーツを身に付け、男性は三十歳前後に見える。
二人は窓際の席で、親密そうに何かを話している。
「こんな所予約して、随分無理したのじゃない皆本 ? 」
「そんな事は無いよ。稼いでいるのは薫には負けるが、僕だってそれなりに稼いでいるからね。
たまには、こういう所で二人だけで食事をしたかったんだ」
まだ前菜の前の食前酒が出された頃、あまり馴染みのない場所に来たからなのか、
薫は皆本の懐の心配をするのだが、彼は笑いながらこう答えた。
「そうだね、最近あまり二人きりで食事するのって、あまりなかったから。
昔みたいに皆本のマンションにいて皆で食事も出来なくなっちゃったから」
「あの頃の10歳の君らだったらまだいいが、さすがに19の君らと一緒じゃ世間体とか、色々まずいからな」
少し気まずい顔を浮かべて言い訳をしているのだが、実際、思春期を迎えた頃から薫達と
共に同じ家で生活していると、何かと色々な部分の成長が目に止まり、
彼の理性の方が押さえつけられなくなりそうな頃に、上司である朧に渋々説得され三人は、
半ば強制的にバベルの女子寮に入ることになったのだ。
おかげで、彼は理性を暴走することは無くなり助かったのだが、
自分以外誰もいない家に帰る寂しさは、その後何度も痛感させられることになる。
しかし、なんだかんだと三人は、束縛の多い寮生活からすぐに逃げ出し、
三人でマンションを借りて住むことになるのだが。
そのため、葵の瞬間移動などでいつも遊びに来てくれてはいた。
本心から言えば素直に嬉しかったったりもする。
だがやはり遊びに来ていると色々、目のやり所に困るのは多々あった。
「色々まずいって…… あたし達見ていると、さすがの堅物だった皆本も、
我慢できなくなりそうだったんでしょ ? でも結局、我慢出来なかったけど」
ブッ。
しれっ、とした薫のその一言に、彼は口にしていたコーヒーを少し吐き出そうになる。
「な、何を薫言いだすんだ !? 」
焦っている皆本をよそに、平然と薫は更に続ける。
「だって本当の事じゃない、私にあっさり手を出してきたじゃん」
「か、かかかか、薫 !! 」
取り乱し、皆本は思わず椅子から転がり落ちそうになる。
「正直認めたら ? 我慢していたのを」
意地悪そうに、薫は事実を皆本に突きつける。
上手に立てる切り札を持つ薫は、面白そうに彼をいじる。
「…… た、確かに…… 僕だって普通の男だから…… でも僕は、ずっと君が大人になるのを待っていたのだから」
顔を赤らめ、照れながらも皆本は素直に自分の本音を認めた。
「私が大人になるまでって…… そんな昔から ? いつからなの ?」
執拗に尋ねてくる薫に、顔を少し引きつらせながら------
「…… そ、それは勘弁してくれ…… 」
まさかまだ子供時代から、少しずつ意識し始めていたという事実だけは、到底薫には話すことなど出来ない。
まして、既に薫がまだ子供の頃に、未来予知を見せられ、
今の大人の姿の薫を目にして瞬間から惹かれていたというなど、更に口が裂けても言えない事実。
「いいよ…… 話さなくても…… その気持ちだけで十分だから…… 」
子供の頃の薫なら、どんな事をさせてでも事情を聞こうとしたのだが、
相手が話したくないのなら、それは聞かないでおこうという気遣いが出来るようになり、
精神面でも成長を果たしていた。
内面的な面でも成長を果たした薫を目にして、皆本も本当にそれを嬉しがっている。
長かったようで、あったという間に駆け抜けてきた十年間に彼は思えた。
それほど、色々な出来事や経験を共に過ごしてきていた。
(薫と出会ったのは、まだ10歳だったんだな…… といっても、あの予知で君の
10年後の姿を知っていたからこそ、そうならないために、僕は全力を尽くしてきたつもりだが……
薫の行動を常に気にしているうちに、自分でも知らず知らずのうちに、意識し始めたと気付いたら、
押さえきれないほど胸の中に君への想いが募ってしまい戸惑っていたよ。……
薫と出会えた事は感謝している。とはいえ、あの予知の悲劇を本当に避けられることが出来ているのだろうか…… )
子供の頃の薫の姿と、過去に告げられた重く辛い予知での間もなくやって来てしまうのかもしれない
あの薫の姿を思い出すと同時に、まだ不安定な普通人とエスパーの関係の現状を考えると、
薫が予知のように近い将来自分の側から消えてしまうのでは無いかと言う不安が常に残る。
窮地に陥った仲間を見捨てたりは出来ない、責任感と仲間想いが強い薫の性格だからこそ、
彼にとって気になって仕方がなかった。
「皆本 ? どうしたの ? 」
急に顔色を曇らせた皆本に、薫は心配気に声をかける。
「いや、なんでもないよ。少し気になる仕事の事を思い出してしまっていたんだ」
「こんな時まで仕事の事まで考えないでよ。ムードぶち壊しじゃない」
少し不機嫌そうに、薫は顔を膨らませてしまう。
「ゴメン。そうだったな……」
申し訳無さそうに、皆本は薫に謝りながら、いつまでも自分に着きまとう不安を抱くよりも、
常に薫を信じていようと彼はそう胸に抱く。
信じ守り抜く事が今自分の出来る最大の役目でもあるのだと。
2
食事のメニューのほとんどが終わり、食後のコーヒーを飲んでいる時だった。
「薫…… 今夜は大丈夫なのか ? 」
皆本が急に切り出した言葉の意味を薫も理解しており、少し顔を赤らめる。
皆本が、彼の部屋に薫を誘っているのだと。
「た、多分…… 紫穂も葵も今夜は、それぞれに用があるから部屋には来ないと思うから」
「そうか…… よかった。僕らの関係がバレているとはいえ、
あからさまに行動すると二人とも不機嫌な態度してくるからな」
「私達3人とも子供の頃から皆本の事が大好きだったのに、その中で私を選んでしまったから、
ひがんだりもするけど、本当は二人とも認めてくれているんだよ」
二人に気が引けている皆本を見て、薫はクスリと小さく笑う。
彼女達だって、いつまでも子供じゃない…… 大人になっていく上の経験で自然の流れで
薫達の関係を知りつつも、黙認して見守っていた。
ただなんとなくジェラシーを感じてしまう部分は、女性としては仕方の無いものだった。
「ならいいんだけどな」
少し安堵したかのような皆本に、薫は少し言葉のトーンを沈ませこう続ける。
「でもさ、本当のところ…… 私を選んでくれるとは思わなかった…… 」
「何故、そう思うんだい ? 」
「私ってば、子供の頃は本当に皆本にも、周りにも生意気ばかり言って、
無駄にESPを使って迷惑ばかりかけていたから…… それに、ガサツで色気も無くて、
昔から男の子にはモテないで、同性ばかりにモテるばかり……
こんな私じゃ、皆本は絶対女だって見ていてくれていないと思っていた」
薫自身が抱いていた自分の女性としての魅力にコンプレックスを抱いていた事を初めて知り、
少し意外さが薫らしいと思え可愛さを覚える。
普段男っぽい気質を持つ反面、誰よりも慈愛を抱く女性なのだと彼は知っている。
「そんなに自分を卑下しなくてもいい。僕は、最初から君は一人の女の子だと思って意識していたよ。
僕には薫しかない魅力に惹かれたのだからね」
慰めるような声で、彼は薫の頭を軽く撫でた。
子供の頃から、ずっと皆本が相手を慈しむ癖のようなものであり、
それを薫も子供扱いと文句を言っていたのだが、今ではそれが彼なりの愛情表現であり、
薫にも安心させてくれる仕草となっていた。
「嬉しかったよ。皆本が私を選んでくれて…… 本当に。こんな力を持って、
周りから怖がられていた私でも一人の人間として、女として見てくれて-------
皆本と出会わなかったら、今の私は何をしていたのか分からないほど
将来に悲嘆していたかもしれない。皆本と出合った頃の私は、何の夢も抱けずにいたからさ……
出会えたからこそ、夢を見る事が出来たのだもの。本当に皆本には感謝しているよ」
「そんなことはないさ、薫…… 今の君を作り上げたのは、
君自身だ。僕はその手助けをしたに過ぎないよ」
「でも、私をここまで育ててくれたのは皆本だもの…… だから好きな時に、
私のことを好きにしてもいいんだよ。私もそれを望んでいるのだから」
少し顔を横にして視線を流し目にして、薫は彼を見つめ誘う。
いつの間にか身に付けていた女としての魅力を彼の前に、全面にあふれ出させる。
そうさせてしまったのは、皆本自身でもあるのだが。
この視線と、なんとも言えない惹きつける魅力を前にすると、普段は冷静な皆本も色々な面で揺さぶられてしまう。
ここが公衆の面前の場で無かったのなら、間髪入れず抱きしめて押し倒していたに違いない。
それほどに魅惑的なものであった。
子供の頃には考えられなかったほどに、薫は女性として成熟を果たしている。
理性がこれ以上抑えておくのが怪しくなった皆本は、足早にこの場を切り上げようと-----
「そ、そろそろ…… 行こうか」
心無しか声が少し上ずらせながら、席を立とうとした瞬間、彼の携帯通信機に緊急連絡が入る。
嫌な空気がその場を包む。
こういう際に来る連絡と言うのは、確実に緊急出動要請なのである事が多い。
仕事人間の皆本にとっては、今現在のデートよりも仕事を優先への頭の切り替えは即座に出来る人間だった。
しかし薫はそんなに簡単に出来るはずもなく、拗ねたような不機嫌さを見せる。
「やっぱりこれから出動なの ? 」
連絡を終えた皆本に薫は、こう投げかける。
「あぁ…… 折角の休暇なのにすまないが、急を要するESP事件が起きたらしい。
すぐに迎えのヘリが近くまでくる。先に紫穂や葵は向かっているから僕らも合流する」
「分かった…… 」
あまり納得の出来ない顔で、薫はそう答えるのだった。
3
迎えのヘリの中で、皆本と薫は無言で皆本にもたれかかるように座席で座っている。
「今夜の事がまだ納得出来てないのか ? 」
「そういうわけじゃないけど…… なんか水を差されたというか…… 面白くないだけ」
「そう機嫌を悪くするな。僕らはいつでも会えるけど事件や事故は待っていてくれないんだからな」
取り繕うように彼は、薫を諭そうとする。
「いつまでも子供の頃の私じゃ無いから、本心からそう思ってなんかいない。
少し我がままを言って困らせてみたかっただけだよ」
子供時代と同じようにいたずらっ子のような表情で、薫は苦笑する。
「仕事とはいえ、さすがに僕も君との予定に横槍入れられて、本当の所少しムッとは来ていたよ。
僕らも人間なのだからそう思ってしまうのは仕方ない」
苦笑しながらも、彼も薫の気持ちと同じものを感じていたのは確かだった。
プライベートな時間にまで、任務が差し障ってくるのには正直少しばかり抵抗はある。
だが、今の立場と仕事性の事を考えると、そんな自分勝手な言い分などを口にしている事など出来ない。
今与えられている仕事は、自分達だけが出来るという責任の重さを抱えながらも、充実感を覚えている。
それは男としては、当然なまでの誇りにもなる。
女性である薫には、感情的さが入るとどうしても愚痴を零してしまいたくなるのだろう。
今のバベルでの彼女の任務の重大さは、子供の頃からいる薫ならば重々理解してくれているのだろうが、
こればかりは仕方が無い。
それほどに、彼と過ごしたかったという乙女心がそこにはあるのだから。
だからなのか、ふと薫は何かを思いついたような顔で皆本に尋ねる。
「ねぇ、皆本…… 現場まで後どれくらいで到着するの ? 」
「そうだな、早くて40分ほどはかかるとは思うが」
「そう」
それを聞いて薫は少し含み笑いを浮かべ、皆本の肩にもたれるような体勢をしていたのを
急に身体の向きを変え、乗りかかるように皆本の大腿部の上に腰を降ろす。
「お、おい、薫 ? 」
目を丸くしてうろたえる皆本をよそに、薫は彼の眼鏡を念動能力で取り上げながら、
その太く精悍な首に手を回し、自分の唇で彼に口付けをする。
驚いている皆本に構わず、薫は彼の中に自分を入り込ませて、絡めあわせ続ける。
最初の頃は、彼が教え込んだ方なのだが、いつの間にか薫の方がテクニックは上となるほどのもの。
その技巧は、彼でさえ恍惚を感じさせるほどのものであり、
思わず薫に対して彼もまた自然と身体が動きながら、内部からの疼きを感じ始めていた。
がしかし、ここはヘリの中、ましてこれから任務に向かう途中。
思わず現実を忘れてしまいそうになった皆本だったが、我に帰ると薫を引き離す。
「何考えているんだ、薫 ?! これから現場に向かおうとしているのに !! 」
そう言って疼いた自分と薫を落ち着かせようと諭す。
が、薫の方はそんなつもりは無いらしく-------
「まだ後40分もあるんでしょ ? それだけあれば十分。
このヘリには、パイロット以外誰もいないから大丈夫だよ。
お互いのスキンシップを取った方が任務も上手く行くって------
それに、最近皆本も色々溜まって発散したかったんじゃないの ? 身体の方は素直みたいだからさ」
薫は皆本の下肢を意地悪そうに横目で見つめ、その上に自分の右手で触れる。
そこは他の部分よりは遥かに熱を帯び、早い脈動を打っていた。
「そーゆーことは、せめて任務終わってからにしてくれ !! 薫、場所をわきまえてくれよ !!
いつのまにそんなはしたない娘になってしまったんだよ !! 」
身体は本能に素直だが、頭の固い皆本には倫理観という理性の壁の方が高かった。
どうにかして、この展開を打破しようとしている皆本だったが。
「そんなの皆本のせいじゃん。大丈夫だって、私に任せてくれれば------- 」
聴く耳持たず、薫は再び皆本に抱きつくと、彼のネクタイを指で緩ませて首元に口づけを交わす。
再び襲い掛かる薫の技巧の快楽に、抗う事を諦めたのか観念して身を委ねる皆本なのだった。
(…… 手を出したまでは良かったが、どうしていつもこうなるんだ ? 逆だろ、普通…… )
なんとも言えない深いため息を吐きながら、皆本はヘリに揺られながら薫に弄られるのであった。
意味不明で終(汗)
おまけ。
任務が終わってのヘリの中。
「もう信じられない〜二人して現れたと思ったら、服と髪型は乱れて、お肌艶々でいかにもって感じなんだもの」
「ほんま同感や。任務があるというのに、ヘリの中で何しているんや、薫と皆本はんは !! 」
現場で合流した紫穂と葵は、二人がヘリで到着した際の当時のことを話している。
任務中だったので、その場では何も言わなかったのだが、
任務終了で共に同じヘリで帰る機内で紫穂は話を切り出してきたのだ。
「いや…… それはあの…… 」
「駄目だと分かっていたんだが、薫の勢いというか、なんというか」
薫と皆本は、顔を赤らめてしどろもどろに言い訳をする。
「あー場所柄も考えずにサカっている上司と友とチーム組んでいるの、うち堪えられへん」
かなり不機嫌そうに、葵は二人から顔を背けた。
「本当よ。二人の事は一応目を瞑ってあげているけど、あからさまじゃ文句も言いたくなるわよ
…… でも、今回二人とも結構なことをしていたのね」
不適な笑みを浮かべながら、先ほど二人が座っていた座席に紫穂は手をかざすと、何かを読み取っている。
それは先ほどの二人の光景である。
「わー、紫穂 !! それだけはやめてくれー !! 」
「紫穂、止めいっ !! 」
慌てて二人は紫穂を制止しようと思うのだが、
「駄目。今回の件は水に流して上げるから。これくらいの恥辱は味わってね」
悪魔の微笑で、紫穂は笑む。
「あ、うちにも後で詳しい事教えてや ? 」
興味津々な葵は、そう紫穂に耳打ちするのだった。
更に収集付かずに強制終了(爆)
はい意味の分からず、ある意味馬鹿ップルのいちゃ話ですね(苦笑)
しかも皆×薫じゃなく、途中から薫×皆本(笑)
最初は完全に強引な皆本ペースでしたが、生粋の受男の皆本さんにはそれは無理でしたw
普段大人薫は、未来パートの設定がほんの僅かしかまだ発表されておらず、
大人薫の性格と考えが完全に自分で掴みきれておらず、なおかつどうやら、
未来はどう転んでも皆本の下を離れる設定ぽく感じる連載状態なので、迂闊に自分が、
大人ネタ書くと原作の流れと完璧に別方向を向いてしまうっぽいです。
(ま、自分の性格的に忠実原作設定遵守なので、完全無視の話をでっち上げられないんですけどね(苦笑))
なのである意味、まだ皆本の側にいていちゃ状態の二人の話でも書いたら、
ただの馬鹿っプル話に。…… しかも途中で、エロっちくなるし。
(ま、元々そうさせる話でしたが、年齢制限にはしたくないんで、途中で強制終了(おいおい))
これからを読みたかった皆様には申し訳ないですがorg
ぬるい話ばかりですが、たまには子供薫や、ドシリアス大人薫じゃなくて、こんな
意味の無い馬鹿ネタを書いて、二人のいちゃ話で自分で自己発電させるかもしれません(爆)
ま、節度を守る程度な話にはしたいですがね(汗)