『生まれてきた意味』





※アニメ25話ネタ…そして後半は、自己妄想ドリームオンパレードでなので御注意。





 それは学校帰りの事だった。

 薫、紫穂、葵は普段一緒に下校している東野や、ちさと達と別れ自分たちが普段生活している皆本の

マンションへと向かい歩いている。

「あっ ! 」

 他愛無い話をしながら、歩いている三人の目の前にふとある人影が遮ろうとする姿を薫は、

思わず声をあげてしまう。

 その声に気づいて、その人影と、その人物が押していたベビーカーが立ち止まる。

「あなたたち何か私に用なのかしら ? 」

 その人物------- 女性は、薫達に声をかける。

 彼女は薫達との面識は無きに等しいのだが、薫達には何よりも彼女とベビーカーに眠る赤子に思い入れがある。

 そう…… しばらく前に、薫達ががけ崩れの現場で助け上げた二人なのだから。

 当時は、まだ生まれていなかった赤子なのだが、薫達や皆本、

その場にいた多様な人々の手によって命を繋ぐ事が出来た子供。

 そしてなによりも、同じように超能力を抱く同胞の誕生だからこそ生まれてきたことに感慨が湧くのだ。

「あ、いえ、何でもないんです。ただ、赤ちゃんが可愛かったから」

 薫は、ごく自然にありがちな返事を返して、怪しまれないように勤めている。

 本当の事は、特務エスパーの立場である身ゆえ言えないことなのだ。

「ありがとう…… よかったら、もっとじっくり見てあげてもいいのよ」

 女性は、薫の腕にリミッターを見つけエスパーなのだと気づいたのか嬉しそうに微笑みながら、

赤子を抱き上げるとしゃがみこみ、

薫達の目の前に見せてくれた。

 まだ生後直後で、なんとも言えない表情をしている赤子の姿にどこか驚きながらも、可愛いさを深く感じる。

 自分たちも、生まれた頃はこんな顔をしていたのかなと思いながら。

「じゃ、少しだけ…… 」

 どこか照れている薫であったが、まじまじとその赤子の顔を見つめている。

 何もまだ分からないのだろうが、幸福に満ちた顔で眠っている。

 この幸福の姿を自分たちが守れたことが、何よりも嬉しく自分の中で

何かの支えになっている気がしてたまらないのだ。

 薫に吊られて、紫穂や葵もまた赤子の顔を見つめながら柔和な笑みを浮かべている。

 無垢なままでいる姿を見ていると、こちらまでが癒されてしまうのだ。

 赤ん坊というのは、不思議で解明できない力を秘めているのかもしれない。

 薫は、赤子の指先にそっと手を触れる。

 小さくそれでも暖かい感触。

 自分たちと同じように確かに生きているのだ。

「幸せそうだね、本当に…… 」

 薫がふと漏らした言葉が彼女の耳に入る。

「生まれる前は色々あったけど、それでも……こうして生まれて来てくれた事が何よりも嬉しいわ。

生まれてから、この先、どんな事が人生にあろうともそれを乗り越えながら幸福な事も色々知りながら、

成長していくのだから。私達夫婦は、この子が生まれてきてくれたことが何よりも愛しく嬉しいの。

親馬鹿かもしれないけど、そう思いたくなるくらいね。…… あなた達の親御さん達もきっとそう思って

くれているわよ。この子を見て、こんなにも愛おしそうな顔をしてくれるのですから」

 優しく撫でるような声で、彼女は薫達にそう語る。

 それは、深く三人の胸に刻み込まれながら、どこか顔を赤らめていた。

 大切な人達を思う気持ちは、確かに自分達の胸にあるのだと。

 それが、彼女たちの支えであり今の全てだった。

「じゃあね」

 女性は、薫達に軽く手を振るとその場から去る。

 その後ろ姿に薫達も手を振りながら見送っている。

「あの子なら、大丈夫だね…… あたし達のような思いはしないよ、きっと。

あんなに愛されているんだからさ…… 」

 どこか羨ましそうな顔を浮かべながら、薫は誰に言うことも無く呟いた。

「あの人、私たちがエスパーだと気づいていたからこそ、そう言ってくれたみたい。

本当に優しい人ね…… あの子の能力にも真正面から受け止める覚悟は持っているし」

「それでええんや、それが出来れば、エスパーとの壁を無くすことも出来るんさかい。

あんな人がもっと増えてくれればいいんやけどな」

「増えるさ…… きっと、皆本やあたし達がいるんだからさ------- あたし達が大人になった頃にはさ…… 

あたしも、いつか子供が生まれた時にそう思えるかな…… 」

 愛されることに飢えている三人だからこそ、そう思えるのだが、こんな能力を抱いている自分が母親になることが

出来るのかに薫は些か不安な部分を抱かずにはいられなかった。











 じかし薫達の願いと思いとは裏腹に、世界のエスパー情勢は時を経ることに悪化の一途を辿る。

 成長した薫は、兵部の言葉通りに皆本の元を離反し、パンドラの頂点に立ち『破壊の女王』と敬われ、

普通人からは恐れられる存在となる。
 
 所詮は、エスパーと普通人は相容れない存在。

 普通人からは、エスパーが愛されない存在なのだと薫は現実を知ることになる。

 自らは、恵まれた環境でそれなりに愛されてきたとは分かってはいるのだが、自分ではない

大多数の同胞はそれすらも与えられずにいるのだ。
 
 エスパーが戸惑うことなく愛される世界を作りたい……

 現在の歪で不公平なこの世界を変えたい思いで、薫はその日も普通人に対してのテロ活動を行っているのだが、

 とある、路地の傍らにいた薫だったが、誰か人影が来るのに気がつき、その身を隠す。

 隠れた目の前を、三人の人影が通り抜ける。

 三十台後半の夫婦と、十歳程の子供の姿。

 その姿に、薫はどこか見覚えがあり、はっとなる。

 昔、自分たちが助けたあの母親と子供なのだと。

 子供はいつしか、あの頃の自分と同じ年頃に成長していたのだ。

 そして、両傍らにいる両親と手を繋ぎながら歩いており、その腕には、リミッターの姿も見受けられた。

 形状からみて、レベル7までとはいかないが、相当のレベルの能力を保有しているのだろう。

 しかし、それでも子供は嬉しそうに笑い、両親も笑っている。

 本当に心の底から。

 それは、幸福な家族の姿であり、偽りでもないもの。

 薫は、その姿を目にして心の中で衝撃と暖かさが広がる。

 決して、エスパーの子供を持つ家族は幸せになれない、あったとして上辺だけ繕った関係でしかない

のだと決め付けていた。

 けれども、あの親子は違っていた。

 どんな子供であれ、成長した現在でも家族の愛情は変わらない。

 あの幸福な笑顔が何よりの証拠でもある。

 絆には、どんな超能力も関係ないほどに強いものなんだと。

 自分の考えが、どこか間違いなのかもしれないという不信感さえ覚える。
 
 薫の中で、何か淡い期待が生まれ始めていた。

 まだ、普通人に対して見つめなおす必要があるのかもしれないのだと。

「捨てたもんじゃないね、家族っていうものは…… 」

 長く会っていない家族と、皆本を思い出し薫は胸をどこか痛めながらも恋しさに馳せた。












 ベッドに横たわる薫は、自らの指先をすぐ隣に差し出すと、小さな指先に触れる。

 指の持ち主は、その温もりに気がついて必死にそれを掴む。

 そんな姿が何よりも愛しく感じながら映る。

 そしてその目の前には、顔を涙で破顔させた皆本の姿。

「ありがとう…… ありがとう…… 」

 それだけを先ほどから、何度も薫にかけている。

「そんな礼を言われることなんかないよ、私だって皆本が側にいてくれたこそ、こうして無事に産めたんんだから

…… なんか照れるね、私が母親になったと言うのって…… ねぇ、抱いてあげて」

 薫は、横になっていたベッドから上半身だけ起き上がり、すぐ隣のベビーベッドで眠るわが子を抱き上げると

皆本に差しだし、皆本は大切なモノを扱うように恐る恐るしっかり受止めた。

 彼の腕の中には、寝息を吐く、今日生まれたばかりの我が子がいるのだ。

 暖かく確かな重さを感じさせていた。

 こうして、薫との間の子供を胸に抱く日が来るとは思いもしない日々を過ごしていたこともあり、今の現実が

夢のようで仕方が無い。

 しかし、これは夢では無い現実。

 予知された未来に最後の最後に打ち勝ち、薫との真の平和な日々を手に入れることが出来たのだ。

 その証ともいえる、二人の間の子供であり、既にこの子も能力者だとは判明している。

 戸惑いは無いといえば、嘘になるのだが、そんなことは二人には大きな問題ではないのかもしれない。

 自分が親になったからこそ、改めて気づかされた部分もある。

 その存在の大切さと、自分の中で支えでもありかけがえの無いもの。

 能力者ゆえの苦悩を知る薫だからこそ、それに立ち向かう強さをこの子に与え与えられる存在でもあり、

皆本もまた子供が悩むことのない普通の子供としての環境を作り上げていることに日々、力を入れている。

 それが、全ての子供に与えられた当然の権利なのだから。

 この思いが全ての親にあるのなら、もう二度とエスパーとの戦争は起きないだろう。

 まだそこまでたどり着く事は困難ばかりではあるが、それが叶う日まで、皆本は尽力すると今再び誓う。

 この子の笑顔の未来を築くために-------

 我が子の幸福の微笑みこそが、二人には何よりの生きる糧でもあるのだから。

「君の存在が、僕らの希望なんだよ…… 生まれてきてありがとう。幸福にするよ、必ず」

 愛しく優しく抱きしめながら、皆本は我が子に微笑むと額に軽く幸福のキスを与える。

 

 その光景を薫は見つめながら、これが本当の家族の姿なのだと、彼女もまた自分が生まれて来た意味を初めてかみ締め、

幸福に満たされながら微笑むのだった。





                                                          終。

                                                        2008/09/21
                                                     9/22 一部加筆修正。
 



アニメ25話ネタをベースに、妄想三昧の話となりました。
もはや、後半は自分の妄想・趣味炸裂。
皆本と薫との子供誕生ネタは、自分でも相当先走りしているので、なるべく当面避けたかったんですけど、
25話見て、勢いで書いてしまいましたわ。
子供ネタは、薫が原作で離反した後にでも書きまくろうと思ってはいましたが。
それがいつになるのか分からないので、予定をかなり前倒して今のうちに(笑)
結果…かなりの妄想ドリーマーな展開というか、ベタなオチですが。
自分の脳内は、ふた昔前の少女漫画が基本です(笑)
他のネタの一つに薫が不在で、皆本が薫との子供を育てているネタもあるんで、
気長にそれ読みたい方はお待ちください(おいおい)

赤ん坊ネタは、夏コミでの本『七夜月の子守唄』でも、書いているので、
ダブらないようにしてましたけど、どこかしら被ったかも。
ある意味、少し時間差でネタが被りやすいアニメ。
しかし、子持ちの身ではないので、親としての場面は、深く描けれないのは、どうにもいたしかたないといというか。
やっぱり人生経験は色々必要と思ったり。

今回の話、アニメ見てその日に勢いで書いた話なので、一部を後に修正するとは思います。
女王様の辺りを…。
モー少し、女王薫様の心情を書きなおして加えたいです。
薫が何を抱きながら、女王の立場で普通人を見ているとかねぇ。
…あ、でも、これ…別の続き物でいづれ書くか。(苦笑)




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