呼び名。

 ダンボールの塊が、空を舞いながら自然に開封されている光景がそこにはあった。

「皆本―――― これはどこに置けばいいの ? 」

「あぁ、それはあっちの隅に頼む」

 念動(サイコ)能力(キネシス)でダンボールを操っていた薫は、少し離れた場所で自らの手で荷解きをしている

皆本に指示を仰ぎながら、荷物を運ぶ。

「なんとか片付いたな。無理させてすまなかった…… 大丈夫か、薫 ? 」

ESPを使っているだけだから大丈夫だよ。そんなに心配しなくてもいいよ」

「それは分かっているが、でも、どうしても気になってしまっていな――――― 」

 荷物の整頓に大方の目安がつき、一息つくような感じで皆本が薫を心配をしている。

「皆本ってば、本当に心配性なんだから―――― 私の念動(サイコ)能力(キネシス)使ったほうが、

断然早くて楽じゃん。引越しする時は特に」

 心配顔の皆本を目にして薫は、少し呆れ顔で軽いため息を吐く。

 薫の言葉の通り、二人は今、新しく住む場所に引越しをしていたのだ。

 話は数ヶ月前に遡る。

 以前、皆本が住んでいたマンションは薫が彼の元を離れ、パンドラに自ら去ってしまった後、

彼の元に残った紫穂と葵を自分の元に迎えようと再び戻って来た際、話のものの弾みで部屋を破壊してしまったからである。

 そもそも、皆本から離れパンドラに向かった薫が、何故こうして以前と同じように皆本の側にいるのかと言えば、話は長くなるのだが。

 そんな重く長く続いた普通人とエスパーとの確執から来る争いに、ついに終止符が打たれたのは、少し前の事。

 完全な和解とまでは言えないが、共にお互いの存在を認め共存の道を歩き始めたきっかけを作り上げた影に、皆本と薫―――― 

そして紫穂と葵達の功績があった。

 10年前に予知されていた回避することの出来ない的中率100%の予知を最後の最後で変える事ができ、

人類の破滅を最後の一線で抑止出来たのは、皆本と薫との絆の深さ―――― 愛情だった。

 袂を分かち、愛よりも自分達エスパー達の居場所を守り作り上げるために自分の気持ちを捨てていた薫だったのだが、

全てが終わり彼を深く傷付け裏切った罪悪感に包まれていた薫を何も責めもせず、

ただ、その大きな彼の胸の中で抱き全てを受け入れてくれた優しさと暖かさに、

今まで心の奥底にしまいこんで封印していた誰にも見せないでいた自分の心がみるみる滲み出し、それが涙となって流れ出る。

 途端に子供の頃のように大声で皆本の胸の中で泣き崩れ、心の中の悲しみや辛さを全て吐き出していた。

 そんな薫を皆本は、ただ慈しみながら深い愛情の瞳で薫の抱えてきた重い思いを受け入れるように許すのだった。

 こうして世の争いも、二人の関係も修復に向かう。

 二人の和解から数ヶ月、ようやく二人は新しく新居を見つけ共に住むために引越しをしていたのだった。

「心配するなと言っても心配してしまうのは仕方ないんだよ。とりあえず、休憩にしてお茶にしよう」

 まだ一度も使っていない真新しいキッチンに皆本は、箱から出したばかりのカップや、ヤカンを取り出し

お茶の用意に向かおうとする。

「いいよ。それくらい私がするから…… これからは、こういうこともしていかなきゃいけないから。

皆本は、ここで休んでいて―――― 」

 皆本を制止するように、薫は代わってキッチンに向かおうとするのを薫の右腕を掴み、彼は止める。

「皆本 ? 」

「率先してキッチンに立ってくれるのは嬉しいよ。…… でもいい加減そろそろ、その『皆本』って呼び方を直してくれないか ? 」

 呼び止められ不思議がる薫に、彼は真面目な顔でこう伝える。

「え、そ、そんな事を急に言われても…… 子供の頃からそう言い続けてきたのだから、それが普通に馴染んでいるから―――― 

今まで通り『皆本』って呼んじゃ駄目 ? 」

 少し戸惑いながら薫は、こう逃げ腰で聞き返すのだが皆本は縦に頭を振らず、横に首を振る。

「駄目だ。僕らはこれから一緒に住むというのに、苗字なんかで呼んでいたら変だろ ? 

もう既に君は明石薫じゃなくて、皆本薫になっているのだから。これからは僕の事を名前できちんと呼んで欲しいんだ」

 実はこの二人、数日前に婚姻届を役所に届け出して、正式に籍を入れたのだ。

 式を挙げる訳でもなく、ただ静かに伴侶となることを誓い合っていた。

 元々、二人とも騒がしく派手に祝ってもらうことが好きではない性格でもあったためだが。

 こうして静かに新居を構え新たな生活を始めようとする第一歩として、皆本は薫の彼に対する呼び方を直させようとする。

「そ、それは分かってはいるんだけど…… なんか照れくさくて―――― 」

 だが、それに対して恥ずかしさという照れが強いのか、薫は皆本の顔から視線を外してもじもじと胸元で自分の指を絡めている。

「何度も呼んでいれば自然と慣れるさ。だから、呼んでくれないか ? それに、いつまでもこの呼び方じゃ、

この子が物心付いたら変な顔をすると思うんだけどな―――― 」

 皆本は、薫の腹部に目を向けその手で慈しむような顔でそっと触れる。

 そこには皆本と薫の子が宿っている。

 それはつい先日判明したことなのだが―――――

 子が出来たと知り、年甲斐も無く浮かれ喜ぶ皆本と違い薫は、当初戸惑いを隠せないでいた。

『私が、母親に―――― 』

 正直薫は事実を知ったとき、喜びよりも不安の方が強かった。

 それは自分がエスパーであるゆえに、自分の中で宿る子供にも、その力が受け継がれていくかもしれないというものだった。

 現に、一度覚醒した能力者は、その子孫にもその能力遺伝子が受け継がれる確立が高いのは、知られていることだった。

 高レベル能力者である薫には、その不安が何よりも怖く感じる。

 この子もまた自分の能力を受け継いでいるとしたら、自分と同じように畏怖の目で敬遠され孤独を抱いてしまうのではないと。

 そんな羽目にさせるぐらいなら、いっそのこと生むことを止めてしまいたい気持ちさえ湧き上がっていた。

 それはすなわち、新たな命を絶つことを示している。

 それほどまでに、薫は動揺していたのだった。

 しかし、そんな薫の様子を皆本は察して、こう諭す。

『争いは収拾したというのに、いつまでも君が能力者だという負い目を持っているという気持ちがある限り、

再びあのような事態を招いてしまう結果になるんだ。もう、薫はそんな気持ちを抱く必要は無い。

この子が、たとえ能力者であったとしても、エスパーと普通人が共存し、手を取り合って行く新時代を生きていくのだから―――― 

僕らは、親として人生の先輩として、この子たちが悲しむことのない時代を作り上げていく義務がある。

この子が心の底から微笑むことの出来る世界を。君の意見を聞く前にこんなことを言ってしまうのはなんなんだが、

僕は薫にこの子を生んで欲しい。薫とこの子を僕は守り幸せにしていきたんだ。薫は、嫌なのか ? 』


 皆本の深い愛情を示した言葉に、薫の中で不安はかき消されていく。

(私が変わらなくては、何も現状は変わらない。まだ私は、

どこかで本当に普通人とエスパーが共存できるのかと疑問に思っていた。だからこんなに不安だったんだ―――― 

こんなにも皆本は私の事を信じてくれているのに――――― 信じよう皆本を。これからの私と子供たちの未来のために―――― 

誰よりも私を愛してくれているかけがえのない
人の言葉を)

『皆本の事を嫌いだなんてあるわけないじゃない。嫌いだったら、こうして子供も出来ないよ。私もこの子を生みたいんだから――――

 私達をずっと幸せにしてくれなかったら、また側からいなくなっちゃうかもよ ? 』

 意地悪そうな言い返しで、薫はそう答える。

『そんなことされないためにも、幸せにするのを約束するよ』

 薫の身体をいたわる様に、優しく自分の胸の中に抱きしめて囁いた。

 再び、引越しの日に時間は戻る。

 まだ胎動するはずの無い時期なのだが、手に触れた場所からは暖かな小さなエネルギーを皆本は確かに感じていた。

「まだまだ生まれてはこないけど、早く顔が見たいよ」

「あーあ、そんな顔、他の皆には見せられないね」

 嬉しさを通り越して、既に親ばかに近いニヤケ顔でお腹に触れる彼に薫は可笑しさを覚えつつも、幸福を感じている。

「構わないさ、親になった喜びは親じゃないと分からないと思うから」

「そうだね、この気持ちは確かにそうかもしれないね、、光一」

 初めて、皆本の名前を薫は呼ぶ。

 即座に彼もそれに気がつき、お腹に向けていた視点を薫に向けると感慨深そうに微笑みながら――――

「ようやく呼んでくれたね」

「ま、まだなんか恥ずかしいけど…… この方が、自然でいいんでしょ ? 」

 相当恥ずかしかったのか、薫は顔を赤面させて俯く。

 それを見て皆本は、笑いを抑えつつも、照れている薫を見て愛しさが募る。

「呼んでくれてありがとう。愛してるよ薫―――― 」

「と、突然何を―――― 皆、じゃなくて、光一――――― 」

 いきなりの愛の囁きと抱擁に戸惑う薫をよそに、皆本は薫に口付ける。

 薫もまた最初はしばし戸惑いつつも、それを受け入れたのだった。

 もう二度とお互いの手を離すことなく、予知を打ち破った新たな世界に二人は強き絆を手にして共に歩んでいく―――――― 

 今は、まだそれはきっかけに過ぎないのかもしれない。

 しかし二人には、それだけで十分なのであった。

 

                             なんとなく終了(爆)


 2007年6月11日 一部修正。

 す、すんません。何気にこの話、コミックス未収録ネタバレ要素ありますね(汗)

 手直ししてたら、気がつきました(おい)なんせ、出かける前に急ぎで書き上げたら、

 注意喚起するの忘れてました。

 今回は、サンデー本誌で皆本の元カノ、キャリーが、「コーイチ」などと呼んでいたので、

薫に呼ばせたかったから書いた話でございます(爆)

 なんの脈略もなくてすんません。

 舞台は、もうぶっちゃけ全て未来のいざこざ終了した後の話を捏造(爆)

・・だいたい全然未来設定書かれていないから、一気にその後に話持ってきた

所存です。

 ということで、もう好き勝手二人幸福モードです。

 でき婚状態(おいおい)

 ついでに、この後の展開のおまけ話あるので、近日中にそれも書こうかと

 ちなみに紫穂&葵のお笑いネタ・・・・(爆)

 これ書くと、今回の話が、ギャグになりかねませんが(おいおい)

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