『忘れられない思い 8』
少し時間は遡る。
半ば強引な手段で薫を気絶させた身体を抱き、周囲に人気も無い打ち捨てられた
廃屋の一室に薫を連れ込み、その床に優しく横たわらせた。
意識の無い薫の寝顔を皆本は、愛おしそうに見つめながらそっと彼女の頬に触れる。
どれだけぶりなのか…… わからない程に久しい温もりと柔らかな感触。
薫を初めて抱いたのは、まだ少女期が終わろうとした頃だったのを彼は思い出す。
あどけない薫を抱くのは、当時、正直良心が痛んだ程だ。
それでも、もう子供ではなく異性として惹かれ愛しい存在であったからこそ、彼は抱くことが出来た。
そして薫もまた、それを望み受け入れたのだから。
だがしかし、それでも完全に皆本は薫を理解し掌握する事など出来なかった。
互いに深く繋がっていたと彼だけが思っていたと過信していたのか、
それとも根本的に普通人とエスパーとの壁を乗り越えることが出来なかったのか……
薫が選んだのは、皆本との未来では無く、同胞との未来だった。
それは、皆本の心に深い痛みと影を落とす。
あの予知から回避するために、この十年を生きていていた。
薫や、紫穂、葵が本来迎えさせてあげるべき未来の為にと……
最初は、自分は大人であり彼女たちは子供の関係から来る保護者心だったのは確かだった。
しかしいつしか、その感覚は薄れ去り女性として意識を覚え愛しさを覚えた皆本は、
愛する存在である薫と共に新たな未来を迎えたかった…… けれども薫は、
守られていた彼の腕の中から自分の意思で離れ、常に繋いでいた手を放し己の赴くままの道を選ぶ。
それが、彼女にとって茨でしかない道だと自身でも受け入れ足を踏み入れ、皆本の元を去った。
以来彼は、常に薫の出現した場所や、予想場所に駆けつけ、彼女の姿を追った。
しかし、薫もそれを察して姿を見せることなく、すれ違う回数を増やし、
その度に皆本の心には切ない遣る瀬無さと、慕情が募りあがった。
(逢いたい…… 逢いたい…… 薫…… )
寸前で、その姿を逃し続ける度に、逢えない思いを馳せる幾歳月の空を見上げることしか出来ずにいた。
薫が、皆本の元を離れて三年近くが経過した今、薫の姿を目にすることが出来、
その身を再度この手に抱ける機会が訪れた。
そう、先日の事だ。
薫は皆本を目視で確認したものの、姿を彼の前から消そうとしていたのだが、
皆本が足を滑らせて地上に叩き付けられる状況に陥った際、
彼女から彼に手を差し伸ばし、その命を救った。
薫は何も言わなかったのだが、助けた行為こそが未だ、
皆本に対する感情を忘れないでいるのだと皆本は確信した。
(もう手放したくはない…… !! )
そして同時に、常に胸の中に抱き続けていた彼女への思いが込み上がると、
唇を奪いその身を抱きしめたのだ。
甘く、久しく味わう事の無かった歓喜と愛しい感触に……
最初、拒んでいた薫も彼を否定はせずに、彼のキスを受け入れたのだが、再度、薫は彼の元を去る。
しかし、今度は皆本に算段が手にある。
薫に出会った際に、もし逃げられても追跡が可能に出来るようにと、
発信機を着けていたからこそ、今こうして彼女が彼の手にする事が出来た。
三年近く経過して、まじまじと見つめる薫の姿は、別れた頃と比べて更に成長をし、
知らない間に大人の女性へとなっていた。
若い瑞々しい年頃だというのに、疲労を隠せない色が見えている。
パンドラで、常に重責に囚われているのが、目に見えていた。
その彼の知らない空白の時間を共に過せないでいたことすら、口惜しい。
側にいてくれれば、こんな思いをさせずに済んだのにと-----
「皆本ぉ…… 」
寝言で薫は、彼の名を呼ぶ。
苦し気で寂しげな声と表情を浮かばせながら、うっすらと目頭に涙が滲む。
皆本は、薫のこの表情をよく知っていた。
まだ強気で生意気盛りであった彼女が、時折見せる弱気と不安を彼に救ってもらいたく、
彼に甘えて来た時によく見せていたのだから。
『あの頃の薫では無いの------- 』
薫は、あの時こう皆本に言い切ったのだが、決して彼女は何も変っていないのだ。
無意識に、皆本の存在を欲しているのが何よりの証拠でもあったのだから。
「僕はここにいるよ…… 薫」
皆本は、おそらく子供時代の夢を見ていると推測出来る薫を宥め安心させるように耳元に囁き、
そしてその唇に優しくキスを与えた。
何度も、そっと触れるだけの愛しさを含めたキスを。
先日の貪りつく強引なものではなく、ただ薫の存在が愛しさを与えたい、ただそれだけで。
やがて薫は目覚め最初に彼女の瞳に映ったのは、言うまでも無い皆本の顔だった。
7に戻る。 9に続く。
2008・11.14
ええええっと、久々の更新です。
最近、同人原稿ばかりしてたら、サイト更新疎かすぎでした(汗)
しかも短かっ!
ついでに前回、次回鬼畜よ?と言った割には、切なげ甘吐きだった…。
今回は、皆本の回想プレイバックPART U…(ネタ古すぎ)
次回の部分が、相当量時間かかるのが分かっているので、
ここまでひとまずUPしました。
次回は、皆薫がガチで色々しますんで…(エロじゃないよ?(笑))
第一山場と思っていただければいいかと。
「抱きたければ、抱けばいいよ、皆本…… 」
薫は、抗うことも無く横たわり顔を背ける。
「薫…… 」
↑このような流れには、なるとは思いますというか、なるんですが。
ちょいと、次回予告してみました(おい)…展開的にエロいけど(汗)
まあ、この話は表にあるんで年齢制限的な描写は書きませんが。
話の流れ的には今の段階で、3分の一程度進行度です(多分)
次回更新は、12月半ば頃です(また多分)
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